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オーケストラ・アンサンブル金沢大阪定期公演
2006/09/23 ザ・シンフォニーホール
1)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲,K.527
2)モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲 第5番イ長調「トルコ風」,K.219
3)バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番〜サラバンド
4)モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番ハ長調,K.467
5)モーツァルト/交響曲第35番ニ長調,K.385「ハフナー」
6)(アンコール)モーツァルト/行進曲二長調K335
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
菊池洋子(ピアノ*2),バイバ・スクリッド(ヴァイオリン*3))
Review by ねこさん
大阪定期公演に行ってきました。いつもと同じ満員のお客さま。プログラムは「ドン・ジョバンニ序曲」「バイオリン協奏曲第5番」「ピアノ協奏曲第21番」「交響曲第35番ハフナー」というものです。今回の演奏旅行は、金沢での定期から始まって、東京、名古屋、大阪、広島と全部少しずつプログラムが違っていて団員さんたちも大変だったことでしょう。井上道義さん+OEKの組み合わせを初めて聴くことになりましたが、岩城さん亡き後も着実に歩みを進めていくオーケストラの力強い姿を見ることができてとてもうれしく思いました。

協奏曲の二人のソリストは本当に素晴らしかったですね。バイバ・スクリッドさんのバイオリンはとても落ち着いて安定感のある美しい響きという印象を受けました。第3楽章では最初「ちょっと荒っぽいかな?」と思ったのですが、聴きすすむうちにこれも計算されたものであることがわかりました。この楽章は途中でガラッと曲想が変わるのですが、その対比がとてもはっきりしておもしろかったと思います。協奏曲のあと、バッハの無伴奏パルティータ第2番よりサラバンドがアンコールとして演奏されました。

菊池洋子さん。この方は何といってもあの幸せそうな様子がとても印象に残りました。ステージに登場したときの「ここで演奏できることがうれしくて仕方ない」と言わんばかりの満面の笑顔とはつらつとした歩き方。「演奏前の緊張」などというものとはまるで無縁であるかのようです。まだお若いのにたいした度胸だな、と思ったのですが、なるほど演奏の方も見事なものでした。第3楽章などかなりのハイテンポになったのですが、いとも鮮やかに駆け抜けたという感じ。演奏後またあのうれしそうな笑顔で胸に手をおいてお辞儀をされる様子は見ていてとても気持ちがよく、こちらも幸せな気持ちになりました。菊池さんのアンコールはモーツアルトのトルコ行進曲で、繰り返しはカットして演奏されました。聴きなれた曲なのにいろいろ工夫がしてあって「こういうやり方もあるんだ」と面白く新しい発見をしたような感じがしました。

井上道義さんは踊りがお好きなようですね。まるで踊っているかのような指揮の動きから、岩城さんのときとはまた違ったOEKの音がワイルドにダイナミックに引き出されてくるような感じです。最後のハフナーでは特に弦楽器の音など人数の何割増しか思うくらいのパワフルなものでした。またこの曲ではちょっと不思議な感覚を覚えました。うまく文章にできないのですが、音に言葉がついているような、なんだかそんな感じがしたのです。歌詞がついている、というのともちょっと違う…何と言えばいいのでしょうね。井上さんとOEKが作る音楽がしっかりとした主張を持っていることがそんな形で私のところに届いたのかもしれません。

指揮者が代わったせいか、今までと違っていたことがいくつもありました。まず開演前に弦楽四重奏によるロビーコンサートが行われたこと。客席に行ってみるとステージに指揮台がなかったこと。(井上さんは指揮台なし、指揮棒なしでの演奏でした。)オーケストラが入場してみると、今まで見たことのない配置だったこと(金沢と同じ変測的な対向配置だったのですが、大阪では初めて目にしました。)。それから、コンサートの最初と最後にメンバー全員で客席に向かってお辞儀をされたこと。これも岩城さんのときにはなかったことです。岩城さんがいなくなり、次の音楽監督がまだ未定の現在、オーケストラ全員でその代わりを務めますよ、というメッセージのように感じられました。

ハフナーのあとには井上さんのトークがありましたが「昨年は岩城さんが振るはずが外山さんに変更になって…」とひとしきり外山さんの口調でお話されたのがあまりにもそっくりで大爆笑。「今回は(岩城さんのはずだったのにまたダメになって)私は棚からボタ餅!」そのとおりなのでしょうが、その言い方がおかしくて客席からはまた笑いと拍手が起こりました。「最後は楽しく終わります!」と言ってアンコールに演奏されたのはなるほど楽しそうなちょっと軍隊調のマーチでした(何かのオペラの中の曲でしょうか?ロビーの掲示では「行進曲二長調K335」となっていました。)。井上さんは指揮をしながら後姿でまた踊りのようなマイムを演じ始め、お酒を飲んで酔っ払う兵隊さんのお芝居に客席はまたまた笑いに包まれたのでした。

岩城さんが組んだプログラムそのままで指揮者だけ井上さんに変更されての公演でしたが、岩城さんが指揮されたとしたらどんな感じだっただろうか、と想像するのも興味深いものです。井上さんは「棚からボタ餅」なんておっしゃっていましたが、あんなに美しく演奏も素晴らしい女性ソリスト二人と共演する機会をミッキーに譲って(取られて)しまったことについてはきっと岩城さんは天国で悔しがっておられるに違いありません。ロビーではたくさんのCDと一緒に岩城さんの本が2種類売られていて、ひとつは私がまだ持っていないものだったのですが、「これを買ってももうサインはいただけないんだ…」と思うとちょっとウルッときてしまって買うことができませんでした。毎年秋分の日に行われている大阪定期公演、来年のこの日にはいったいどなたが新しい音楽監督としてシンフォニーホールのステージにお立ちになるのでしょう。1年後のその日をまた楽しみに待ちたいと思います。(2006/09/24)