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PFUクリスマス・チャリティー・コンサート
2006/12/09 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シャルパンティエ/テ・デウムニ長調H.146〜前奏曲(イントロダクション)
2)ビゼー,シチェドリン/カルメン組曲
3)ミヨー/打楽器のための小協奏曲op.109
4)フォーレ/組曲「ペレアスとメリザンド」op.80〜シチリエンヌ
5)ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
6)ビゼー(小泉貴久編曲)/「アルルの女」第2組曲(アンサンブル金沢バージョン)
7)(アンコール)ビゼー/歌劇「カルメン」〜アルカラの竜騎兵
●演奏
ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:松井直)
トーマス・オケーリー(打楽器*3)
Review by 管理人hs
12月恒例のPFU主催によるクリスマス・チャリティ・コンサートに出かけてきました。この演奏会は,あらかじめ往復ハガキで応募し,当選した人だけに入場整理券が配布され,ペアで入場できるというもので,会場はほぼ満席でした。私は,今回,珍しく娘と一緒に聞いてきました。娘の方は,普通の子供よりはクラシック音楽を聞く機会は多いと思うのですが,いつもはTOKIOなどジャニーズ系を中心とした流行歌ばかり聞いています。最近,テレビで「のだめカンタービレ」を見るようになってから,オーケストラ音楽にも関心が出てきたところなので,今回試しに連れて行くことにしました。

今回演奏された曲は,すべてフランス音楽でした(厳密に言うと編曲者のシチェドリンはフランス人ではないのですが)。シャルパンティエ,ビゼー,フォーレ,ラヴェル,ミヨーといった,バラエティに富んだ音楽を,フランス人指揮者のジャン=ルイ・フォレスティエさん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏で楽しむことができました。

最初のシャルパンティエの曲は,タイトルだけ見ると「初めて聞く曲?」と思ったのですが,何回か聞いたことのある曲でした。いつ聞いたのかは定かではないのですが,NHKの衛星放送などでヨーロッパの演奏会を中継する時のテーマ音楽としてよく使っているファンファーレではないかと思います。気品があって,おめでたくて,とても良い雰囲気の曲です。

オルガン・ステージの前に椅子が並んでいたので,11月の「森の歌」公演の時のような金管楽器のバンダが入ってくるのかと思ったら,いつもは弦楽器の後ろにいる,木管,金管,打楽器のメンバーが入ってきました。つまり,いつもは水平に並んでいるオーケストラが立体的に配置された形になります。上述のとおり,ファンファーレのような曲ですので,谷津さんのトランペットの音を中心にホール全体に開幕の雰囲気が満ち溢れました。なお,ティンパニは,バロック・ティンパニを使っていたようです。

続く,カルメン組曲には管楽器が出てきませんので,その出入りを考えて,1曲目はこのような配置にしたのかもしれません。というわけで,1曲目が終わるとオルガン・ステージから管楽器奏者が出て行き,それと同時に下のステージに5名の打楽器奏者が入ってきました(ティンパニのオケーリーさんだけは,上のステージから下のステージに移ったことになります)。

このカルメン組曲ですが,シチェドリン編曲というよりは,シチェドリンの作曲と言っても良いような曲です。OEKも岩城さん指揮で何度も取り上げてきたお馴染の曲ですが,今回の演奏を聞いて,やはり,オペラの音楽だなという気がしました。”フォレスティエ”という「いかにもフランス風」の名前に惑わされているせいもあると思うのですが,今回の演奏は,ビゼー的な「カルメン」だったと思います。このシチェドリン版には,故意にビゼー風を外し,風刺を加えたような,不思議な違和感を感じさせてくれる部分があるのですが,今回の演奏の場合,その点が薄められていたような気がしました。とても滑らかで,スムーズに聞ける演奏ではあったのですが,ドキリとさせてくれるような部分が少なかったかもしれません。今回は,「フランス音楽」に焦点を当てていましたので,その流れの中で聞くには相応しい演奏だったと思いました。

5人の打楽器奏者は,この曲の時には,毎回お馴染のエキストラの方々が参加されているのですが,いつもどおりの息の合った素晴らしい演奏を聞かせてくれました。今回は1階席で聞いたこともあり,特に大変ダイナミックな迫力を感じることができました。娘の方も,この「後ろの方の人(=打楽器奏者)が忙しそうだった」という点にいちばん注目していました。

後半は,ミヨーの打楽器のための小協奏曲で始まりました。今回のプログラム中,この曲がいちばん馴染みの薄い曲でしたが,ティンパニをはじめとした打楽器がステージ前面に出てくるのを眺めるだけで,楽しめる作品でした。娘の方は,このティンパニを見て,「マスミちゃん(「のだめカンタービレ」の中の登場人物)みたいな人が出てくるのかな」などと面白がって見ていましたが,アフロヘアの奏者ではなく,オケーリーさんのようなハンサムな男性が出てきたのでがっかり(?)していました。この曲を生で聞くのは3回目ぐらいですが,やはり実際に一人で演奏している様子を眺めて聞く方が楽しめる作品です。

フォーレのシチリエンヌは,岡本えり子さんのフルート独奏で始まりました。その清潔で爽やかな音に続いて出てくる,淡いけれども鮮やかな色彩感を持ったあるオーケストラの響きも素晴らしいと思いました。ラヴェルの亡き王女のパヴァーヌも同様の感想を持ちました。こちらは金星さんのいかにもフランス音楽らしい柔らかく品の良いホルンの音で始まりました。その後,オーボエ,ハープなどいろいろな楽器の音が鮮やかに絡まりあい,響きが大きく膨らんできます。明快だけれども柔らかいというのがフランス語の音の特徴だと思うのですが,この日の演奏にもその特徴が出ていたと思いました。この曲は,7月に岩城さんの追悼公演で聞いた曲ですが,その時同様のゆったりとした演奏でした。フォレスティエさんの指揮にもその思いが込められていたのかもしれません。

ちなみに我が家の娘の感想ですが...「学校から帰宅する時の音楽だ。途中でアナウンスが入ってきそう」とのことでした。「なるほど」という選曲ではあります。

最後に演奏されたのは,ビゼーの「アルルの女」の第2組曲でした。プログラムによると,小泉貴久編曲による「アンサンブル金沢バージョン」とのことでしたが,原曲との大きな違いは感じられませんでした。原曲どおりアルト・サクソフォーンが入っていたし(先日,リサイタルを開かれた筒井裕朗さんが参加していました),トロンボーンも1本ですが入っていました。ファランドールの最後の方の打楽器の数が少なく(シンバルがなかった?),トロンボーンの数が少ないのが違いかなという気はしましたが,ほぼ原曲のイメージどおりの編曲でした。

演奏の方は,速めのテンポでビシっと締まった演奏でした。最初のパストラールは,曲のタイトルからすると,もう少しのんびりとした脱力系の演奏が好きなのですが,中間部でピッコロなどを交えて,軽快な舞曲のようになる部分などはとても生き生きしていてとても鮮やかな雰囲気を作っていました。上述のとおり,この曲には筒井さんのサクソフォーンが加わっていましたが,やはりこの第2組曲の場合,この楽器の音が独特の空気をかもし出す鍵を握っているなぁと思いました。

有名なメヌエットは,フルート独奏曲のように勘違いされることのある曲ですが,サクソフォーンやオーボエとフルートが絡み合ったりすることによって出てくる音色も魅力の一つです。私は,フルートとオーボエが同時に演奏する部分の音色が大好きなのですが,岡本さんと水谷さんの重奏は本当に息が良く合っていて,音の美しさを堪能することができました。

最後のファランドールは,上述のとおり,通常版とちょっと編成が違っている気はしましたが,最後の畳み掛けるような部分の迫力には変わりはありませんでした。いつも若々しい雰囲気を持っているフォレスティエさんらしい演奏でした。

アンコールでは,ビゼーの「カルメン」の中から「アルカラの竜騎兵」が演奏されました。この曲は,フォレスティエさんのお気に入りの曲なのか,以前にも何回かアンコールとして聞いたことがあります。とても速いテンポでしたが,最後の部分では,フォレスティエさんが抜き足差し足...でこっそりと舞台袖に退場するような「遊び」を見せてくれ,会場を盛り上げてくれました。この曲にアニメーションを付けるなら,こういうイメージだろうな,という楽しい演奏でした。我が家の娘も喜んでいました。

というわけで,クリスマスの月の土曜の午後をのんびりと楽しむに丁度良い演奏会でした。

PS.11月に金沢駅前に金沢フォーラスができて以来,駐車場の渋滞が激しくなってしまいました。そろそろ,落ち着いて欲しいのですが,ホールまではなるべく公共交通機関で行くことを考えた方が良いのかもしれません。その一方,飽き時間を使うのには丁度良い施設でもあります。我が家の場合も,13:00過ぎに整理券を入場券に引き換えた後,開演まで1時間以上時間があったので,フォーラスの飲食店やお菓子売り場でゆっくりと時間を過ごしました。フォーラスの完成によって,演奏会と買い物とを連続して楽しむという新たな行動パターンが出来たかな,という気がしました。(2006/12/11)


12月になり,音楽堂の中にもクリスマス飾りがいたるところに登場し始めました。









地味なトゥリーだと思っていたのですが...


夜になると点灯していました。


台座には音符が書いてあるのが音楽堂らしいところです。



この日のチラシ,チケット,リーフレット類です。