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オーケストラ・アンサンブル金沢第213回定期公演PH
2007/01/10 石川県立音楽堂コンサートホール
1)オッフェンバック/喜歌劇「天国と地獄」序曲
2)サン=サーンス/チェロ協奏曲第1番イ短調,op.33
3)オッフェンバック/ジャクリーヌの涙
4)シュトラウス,J.U/ワルツ「朝の新聞」op.279
5)シュトラウス,J.U/喜歌劇「こうもり」序曲
6)シュトラウス,J.U/喜歌劇「こうもり」〜アリア「侯爵様あなたのような方は」
7)シュトラウス,J.U/喜歌劇「こうもり」〜チャールダーシュ「ふるさとの調べよ」
8)シュトラウス,J.U/シャンパン・ポルカ,op.211
9)シュトラウス,J.U/喜歌劇「こうもり」〜アリア「田舎娘を演じる時は」
10)シュトラウス,J.U/芸術家カドリーユ,op.201
11)(アンコール)レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜ヴィリアの歌
12)(アンコール)シュトラウス,J.U/ワルツ「美しく青きドナウ」
13)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
ルドヴィーク・モルロー指揮オーケストラ・アンサンンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
遠藤真理(チェロ*2,3),ジョアナ・ゲドミンタイテ(ソプラノ*6,7,9,11)
フロリアン・リーム(司会)
Review by 管理人hs   かきもとさんの感想
この日,金沢の天気は雪...という予報だったのですが,何故か雨も雪も全く降らず,新年恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤーコンサートに無事自転車で出掛けることができました。今回の演奏会ですが,昨年までのマイケル・ダウスさんの弾き振りではなく,ルドヴィーク・モルローさん指揮によるガラ・コンサート的な華やかな演奏会となりました。

それにしても,OEKのニュー・イヤー・コンサートで「指揮者あり」というのは,本当に久しぶりのことです。調べてみると1994年の本名徹二さん以来ということになります。今回の指揮のルドヴィーク・モルローさんは,昨年末のカウント・ダウンコンサートに続いての登場です。モルローさんは大変小柄な方でしたが,出てくる音楽の方も小回りの効いたキビキビとしたキレの良いものでした。「指揮者ありのシュトラウスも良いなぁ」と当たり前のことを改めて感じました。

演奏会に先立ち,石川県立音楽堂の山腰館長による新年の挨拶と職員紹介があった後,ヴァイス・ゼネラル・マネージャーのフロリアン・リームさんの進行の下,演奏会が始まりました。

最初のオッフェンバックの「天国と地獄」は,新年の幕開けの気分にぴったりの音楽です。モルローさんの作り出す音楽には,力んだところが全然なく,全編に渡り,カラリと晴れ上がったような気分がありました。その一方,要所で出てくる,クラリネット,オーボエ,チェロ,そしてヴァイオリンといった楽器のソロでは,しっかりとした個人技を楽しませてくれました。後半のお馴染のギャロップの部分は,リズムがとても歯切れ良く,気持ちの良いビートが利いていました。とても垢抜けた演奏でした。

続いて,若手チェリストの遠藤真理さんが鮮やかな朱色のメタリックなドレスで登場しました。この日は,OEKの女性奏者の皆さんも,よそ行き用の青や紫のドレスを着ていらっしゃった上に,ステージ上に白やピンクの花が飾られていましたので,ステージ全体が大変豪華な感じに見えました。平和でな新春に相応しい光景でした。

遠藤さんは,既にOEKとCD録音を行っていますが,今回演奏された2曲は,いずれもそのCDに収録されているものでした。遠藤さんの音は,モルローさんの指揮同様,冒頭の激しい音の動きの出てくる部分から重苦しさがなく,自信に満ちていました。まとまりの良いノーブルな音色は,サン=サーンスの音楽の持つ洗練されたムードにぴったりでした。続く第2部での小粋な軽やかさ,第3部での冴えた技巧のどちらも大変聞き応えがありました。何よりも音楽全体に安定感と落ち着きがあるのが素晴らしく,「さすがCD録音を行った曲だなぁ」と思わせるような,完成度の高い,堂々たる演奏を聞かせてくれました。

オッフェンバックの「ジャクリーヌの涙」の方は,比較的最近になって知られるようになった”知る人ぞ知る”隠れた名曲です。私自身もこの曲を実演で聞くのは初めてでしたが,タイトルどおり聞き手の涙を誘うような素晴らしい演奏でした。弦楽合奏の伴奏の上に独奏チェロがシンプルに切々と美しい歌を歌っていく曲なのですが,途中からふっと明るい感じに切り替わります。そこでOEKの首席チェロ奏者のカンタさんとの重奏のような感じになるのですが,そのあまりの美しいハモリ具合に思わず目頭が熱くなってしまいました。CDで演奏されているものよりも,多少テンポが速い感じがしましたが,この情感の盛り上がり具合にはぴったりでした。

今回実演で聞いてみて,伴奏の弦楽合奏では,ヴァイオリンの出番がほとんど無かったのも面白いと思いました(この曲は,チェロのみの合奏で聞いてみても面白い曲かもしれません。)。チェロ独奏曲には,心にぐっと迫ってくる曲が多いのですが,その中でも特に素晴らしい作品と言えそうです。

後半は,新春恒例のヨハン・シュトラウス作品集となりました。前半の,オッフェンバック&サン=サーンスといった「わかりやすいフランス音楽特集」との取り合わせもぴったりでした。

最初に演奏された,「朝の新聞」は,ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの歴史の中で最初に演奏された曲とのことですが,やはり,こういう軽快なワルツを聞くと新年らしい気分になります。

その後は,喜歌劇「こうもり」の中の曲が続きました。まず,おなじみの序曲です。この曲は,ダウスさんの弾き振りで,毎年のように聞いてきましたが,モルローさん指揮による演奏は,さらに軽やかでキレの良いものでした。テンポの動きも鮮やかで,特に速い部分での畳み掛けるような勢いの良さには若手指揮者ならでは魅力が溢れていました。

続いて,ソプラノのジョアナ・ゲドミンタイテさんが登場し,同じ「こうもり」の中のアリアを合計3曲聞かせてくれました。小間使いアデーレ役と侯爵夫人役の曲を歌い分けていたのですが,やはり本来は2人の歌手が歌うべき曲かなという気がしました。チャールダーシュの方は,オペレッタの中の歌にしては,少々硬い感じはしましたが,アデーレのアリアの方は,なかなか瑞々しい歌でした。

シャンパンポルカには,ニューイヤー・コンサートならではの「サプライズ」が仕掛けられていました。いきなり大太鼓の強打で始まったのですが,これは後半での伏線になっており,最後は小さな音+打楽器をひっくり返す音で楽しく締めてくれました。さらにその後,リームさんが指揮台のモルローさんのところまでシャンパンを持って行き,2人で楽しげに乾杯をして,会場の雰囲気を和ませてくれました。

正規のプログラムの最後は,「芸術家カドリーユ」という珍品でした。「ヨハン・シュトラウスがこんなふざけた曲を作っていたんだ!」と思わせる,”元祖フックトオン・クラシック”という感じの曲で,いろいろな名曲の断片が次々とメドレーで登場する楽しい作品でした。聞いているうちに,昨年(2006年)のマリス・ヤンソンス指揮のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでも演奏されていたことを思い出しました。ちなみに,メドレーに出てきたのは,メンデルスゾーンの結婚行進曲,モーツァルトの交響曲第40番,ウェーバーの「オベロン」序曲,「魔弾の射手」序曲,パガニーニのラ・カンパネラ,ショパンの葬送行進曲...といった曲でした。最後はベートーヴェンのトルコ行進曲で締めくくられたと思うのですが,その前に一瞬,クロイツェル・ソナタが行進曲調(!)で出てきたような気がしました。というわけで,現在聞いても十分楽しめるような作品でした。

これで一応,正規のプログラムは終わったのですが,当然ここで終わるはずはなく,アンコールが演奏されました。アンコールの1曲目は,ゲドミンタイテさんの歌で,レハールの「メリーウィドウ」の中のヴィリアの歌が演奏されました。この曲もメラニー・ホリディさんの歌などで何回か聞いてきたアンコールの定番のような曲です。歌唱力の点では,今回のゲドミンタイテさんの方が上だったと思いますが,例えば,ホリディさんの歌には,芸能人的な親しみやすさのようなものがあったと思います。その辺にちょっと物足りなさを感じました。

その後,お約束の「美しく青きドナウ」が演奏されました。ここでは,ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート同様,曲の序奏部で一旦演奏を止めて,指揮者の合図に合わせて「Happy New Year!」とOEK団員が全員でご挨拶をするという趣向がありました。ウィーン・フィルの時は,最初の弦楽器のトレモロの部分でお客さんの方から自然に拍手が入って演奏が止まるのがお約束になっていますが,今回の場合,舞台袖からフロリアン・リームさんが「ちょっと待った」という感じで駆け込んできて,演奏を止める形になっていました。これはちょっと不自然だったかもしれません。

演奏の方は,ダウスさんの時よりもテンポの変化が大きく付けられていました。基本的には快適なテンポの演奏だったのですが,最後の方で非常に大きなルバートが出てきて,一瞬ドキリとしました。コーダの部分は,例年どおりさっと切り上げる版による演奏でしたが,この日はかなり長い演奏会になったので,短縮版で丁度良かったかもしれません。

アンコール最後は,当然,ラデツキー行進曲でした。今回の演奏の特徴は,モルローさんが非常に丁寧にお客さんの手拍子をコントロールしていた点です。好き勝手に叩くのも良いけれども,お客さんの方としてもオーケストラと共演(?)するならば,きちんとメリハリを付けて手拍子をしたいと思う気持ちもありますので,コントロールされる快感というものがあったかもしれません。演奏の方もとてもダイナミックでした。

今回,おなじみのダウスさんの弾き振りが見られなかったのは少々寂しかったのですが,会場の雰囲気は例年どおり華やいでおり,OEKならではのニューイヤー・コンサートを十分楽しむことができました。会場のお客さんも盛り沢山のプログラムを十分堪能できたのではないかと思います。
(2007/01/11)


Review by かきもとさん
管理人様、ご無沙汰いたしております。長らくリードオンリーを決め込んでいましたが、OEKのコンサートにはいつも足を運んでおりまして、管理人様の的確なコンサートレポートを読むにつけ、それぞれの演奏会の記憶が鮮明によみがえり、いつもありがたいことと思っておりました。

さて昨日のニューイヤーコンサート、若く才能溢れる指揮者とソリストを迎えて、とても溌剌として爽やかな充実感溢れる演奏会になっていたように思います。

『天国と地獄』序曲は、その昔カラヤン指揮の『プロムナードコンサート』というLPでさんざん聴いた耳タコの通俗名曲でしたが、実に久しぶりに全曲を通して聴きました。新春にふさわしい浮き立つような雰囲気とカンカンのリズムで大いに盛りあがりましたが、クラリネット(この曲では木藤さんでした)やチェロ(もちろんカンタさん)の美しい音色が浮き上がる部分や、コンサートマスターのヴァイオリンで情緒たっぷりに歌われる長大なソロなど、聴きどころ満載という感じでした。

サンサーンスのチェロ協奏曲とオッフェンバックの『ジャクリーヌの涙』では、遠藤真理さんの若々しく豊かな音色にすっかり圧倒されました。この2曲は実は初めて聴く曲でしたが、本当に素敵な曲ですね。休憩時間に迷わず遠藤さん&アンサンブル金沢のCDを購入してしまいました。

後半のJ.シュトラウスの名曲の数々も、もうすっかり金沢の新春の風物詩となった感じがあります。本家ウィーンフィルのニューイヤーコンサートよりも有名曲が多いところがいいですね。『朝の新聞』という曲は、今までタイトルは知らなかったのですが、メロディは何となく鼻歌で覚えていて、この演奏会でひとつ賢くなったようなもうけた気分になりました。

ソプラノのジョアナ・ゲドミンタイテさんが登場したアリアも、舞台姿の美しさとあいまって、どれもすばらしいものでしたが、チャールダーシュ風の『ふるさとの調べよ』での技巧の冴え、そしてすっかりおなじみになった感のあるアンコール『ヴィリアの歌』のしみじみとした歌いぶりに感動しました。

大胆なアクションを取り入れた、昨年までのメラニー・ホリディさんのオペレッタアリアも良かったですが、如何せん年齢的に高音域に厳しいものがありました。その点、今回はまだまだ伸び盛りの若い歌手であったためか、安心して聴くことができ、美しいメロディの数々に純粋に酔いしれることが可能でした。

アンコールは、もうお約束の『美しく青きドナウ』と『ラデツキー行進曲』でしたが、『ドナウ』では例によってコーダを省略したバージョンで演奏されていました。私の記憶ではCD化されている2002年の(音楽堂で最初の)ニューイヤーコンサートの1回きり、コーダ付きで演奏されたのではないかと思うのですが、管理人様如何でしょう?記録でも残っていれば教えてください。

『ラデツキー』では、OEKのニューイヤーコンサートでは、冒頭の短い序奏に続いて主題が登場する前に、本来休符であるところに大太鼓の『ドン!』を入れるのが慣例になっていたように思いますが、今年は『休符』でした。

安価で、毎年バラエティに富んでいて、毎回ソリストに誰が登場するかの楽しみもあり、もちろん演奏の質も高いアンサンブル金沢のニューイヤーコンサート、本家ウィーンフィル版に比べても決して遜色はないように思います(少なくともコストパフォーマンスと言う点では分があるように思います)が、これは私のひいき目でしょうか?(2006/01/11)


今回のサイン会

遠藤真理さんが金聖響指揮OEKと共演したCDです。


指揮のルドヴィーク・モルローさん


ソプランのジョアナ・ゲドミンタイテさん


上左からヴァイオリンのブレンディスさん,ヴィオラの石黒さん,ヴァイオリンの竹中さん,チェロの大澤さんのサインです。

この日の音楽堂はとても華やかな雰囲気でした。

吹き抜けの上から玄関の正月飾りを写してみました。


ステージ上同様,いたるところに花が飾られていました。


音楽堂の職員の皆様は,花以上に華やかさでした。


毎年,ニューイヤーコンサートはキリンビールがスポンサーになっています。一升瓶のような瓶ビールがあり驚きました。