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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第67回定期演奏会
2007/01/13 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューベルト/「ロザムンデ」序曲
2)フォーレ/「マスクとベルガマスク」〜序曲,メヌエット,ガヴォット,パストラール,パヴァーヌ
3)サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調op.78「オルガン付き」
4)(アンコール)マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
●演奏
新田ユリ指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,黒瀬恵(オルガン*3-4)
Review by 管理人hs
毎年この時期に行われている,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に出かけてきました。実は,私自身,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)以外でいちばんよく実演を聞いているオーケストラがこの金大フィルです。金大フィルの定期演奏会は,67回目となりますが,そのうちの10回ぐらいは聞いているのではないかと思います。今回は,その歴史の中でも特に印象的な公演になりました。

それは,石川県立音楽堂コンサートホールで行われたこと。そして,サン=サーンスの「オルガン付き」交響曲が演奏されたことの2点によります。金大フィルは数年前から音楽堂でも公演を行っていますが,私自身,このホールで金大フィルを聞くのは初めてのことでした。今回は,コンサート・ホールにある立派なパイプオルガンを生かした選曲で,素晴らしい演奏を聞かせてくれました。

サン=サーンスという作曲家は,その分かりやすさ故に,かえって軽く見られる作曲家なのですが,今回パイプオルガンの真正面の席で,この曲を聞いて,なんと見事な曲だと感激しました。今回の指揮者は新田ユリさんでしたが,この「オルガン付き」でのしなやかでスケールの大きな響きをはじめとして,どの曲でも大変充実した聞き応えのある音楽を聞かせてくれました。

演奏会の前半では,シューベルトの「ロザムンデ」序曲とフォーレの「マスクとベルガマスク」の中からの5曲が演奏されました。後半に比べると,少々印象が薄くなってしまったのは仕方がないのですが,どちらの曲でもしっかりとした音楽を聞かせてくれました。

「ロザムンデ」の方は,個人的に大変好きな曲で(自分が高校生の頃,なぜかこの序曲と間奏曲,バレエ音楽ばかり聞いていた時期があります),とても懐かしい気分になりました。こういう曲だと音楽がシンプルな分,音程の悪さや音楽の粗さがどうしても出てくるのですが,そういう面を打ち消すような力強さを感じさせる演奏でした。序奏部冒頭の充実した響きから交響曲「ザ・グレート」の第1楽章を思い出させるような堂々とした気分がありました。 

「マスクとベルガマスク」は,私自身,生演奏で聞くのは今回が初めての曲でしたが,ラヴェルの「クープランの墓」などと同様に新古典主義的な作風の感じられる曲で,モーツァルトやバロック時代の音楽を新鮮な視点で懐古するような聞きやすい作品でした。

最初の序曲は,まさにモーツァルトのような曲で,大変気持ちよく音楽が流れて行きました。続くメヌエット,ガボットはさらに懐古的な気分のある曲でした。パストラールでは,ハープやホルンの音が所々に出てきて,フランス音楽風になってきます(今回のハープは,稗島律子さんが客演されていました)。パンフレットの解説によると,この曲が「全曲中の白眉」ということで,CDなどで是非もう一度じっくりと聞いてみたいものだと思いました。

通常の組曲版「マスクとベルガマスク」だとこの4曲でおしまいなのですが,今回は最後にパヴァーヌも演奏されていました。前半のプログラムについては,組曲版だけだとちょっと物足りない感じもしたので,このパヴァーヌが加わっていて,丁度良かったのではないかと思いました。

このパヴァーヌは,既存の曲をそのまま転用したものです。”フォーレといえばレクイエム”というぐらい,「レクイエム」は人気の高い作品ですが,その気分を感じさせてくれるような名曲です。曲は,フルートのソロで始まりますが,この落ち着いた響きを中心に静かな世界が広がっていました。

「マスクとベルガマスク」については,トロンボーンなしのニ管編成で演奏できる曲でしたので,是非OEKでも演奏してもらいたい曲だと思いました(演劇的な作品ですので,いろいろな演出を加えることもできそうです)。

後半の「オルガン付き」は,上述のとおり大変聞き応えがあったのですが,今回の演奏については,派手さよりもすっきりとした音の美しさを実感させてくれた点が素晴らしいと思いました。エンディングの部分をはじめ,もっと大げさに演奏することもできる曲ですが,今回の演奏は,古典派の交響曲の伝統に繋がるような,まとまりの良さを感じさせてくれました。

じっくりとした序奏に続いて,オ−ボエなどの管楽器が出てくるのですが,前半よりも各楽器の音がとてもクリアに音が聞こえて来るようで,一気に演奏に引き込まれました。第1楽章の第1部には,まだオルガンは登場しませんが,主題が再現して来る辺りの音楽の盛り上がりが素晴らしく,第2楽章第2部のエンディングに十分見合うような密度の高い演奏を聞かせてくれました。 

第1楽章第2部で初めてオルガンが登場します。この部分は,CDなどで聞いていると比較的印象が薄いのですが,実演で聞くと,華やかな部分以上に素晴らしい効果が上がると実感しました。オルガンの静かな低音の上に弦楽合奏が優しいメロディを演奏し,静かな音がホール中にしっとりとたっぷりと満ちていく様は,オーディオ装置ではなかなか再現できないのではないかと思いました。楽章の最後にオルガンの音だけが残る辺りの余韻も素晴らしいものでした。

なお,今回の演奏は,音楽堂でのパイプオルガンの演奏会ではすっかりおなじみの黒瀬恵さんが客演されていました。黒瀬さんは,音楽堂のオルガンをいちばんよく弾いていらっしゃる方だと思いますが,オーケストラの音とのバランスがぴったりで,清々しく自然な雰囲気を作っていました。

第2楽章第1部はスケルツォのような部分です。妥協のない,きびきびしたテンポで演奏されており,直前の部分とのコントラストが鮮やかでした。この部分には難しいピアノのパートも出てくるのですが(団員の方が弾いていらったようです),これもうまく行っていました。

第2楽章第2部は,オルガンが見得を切るように格好よく登場するのですが,この部分でもこれ見よがしの豪快さよりも,崇高な美しさを感じました。その後に続く,ピアノ連弾の上に弦楽合奏が出てくる辺りは大好きな箇所です。こういう部分を聞くとサン=サーンスは巧い作曲家だなぁと感じます。今回の演奏もイメージどおりの演奏でした。大詰めのクライマックスでは,ティンパニをはじめとする打楽器が盛大に加わり,大きく盛り上がりますが,ここでも荒々しさよりは,大きな仕事を終えつつある清々しい空気を感じました。パイプオルガンが加わると,音のありがたみ(?)が違うなぁと痛感したエンディングでした。

アンコールでは,これしかないという曲が演奏されました。「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲は,アンコールの定番曲なのですが,オルガン付きのこの曲の演奏というのは,なかなか聞けないと思います(CD録音では入っていると思いますが)。曲が静かに始まった後,しばらくして読点(、)を入れるように,ハープの音が入るのですが,これも今回の客演の稗島さんの音がしっかりと聞こえていて,効果的でした。この曲のオルガンの部分については,実際の歌劇の中でも,田舎の教会の中でオルガンを聞くようなイメージなのだと思いますが,この選曲は,音楽堂の機能と客演者を生かした,ジャスト・ミートという感じのアンコールでした。

今回の演奏会には,予想以上に(?)大勢のお客さんが入っていた上(最初,3階席は開放していなかったのですが,途中からは開放していました),サン=サーンスの後には大変盛大な拍手が続きました。これは,やはり音楽堂のオルガンの威力とそのパワーに負けない若い人たちのエネルギーによるものだと思います。「こういう場所でこういう曲を演奏できるとは...」と,学生たちをうらやましく感じた演奏会でした。(2007/01/14)



この日はとても寒い日でした。会場前のタテ看に掛けられたビニールも飛んで行きそうでした。