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Romanticピアノの翼コンサート:第6回華麗なるピアノ・デュオ
2007/01/14 石川県立音楽堂交流ホール
1)モーツァルト/2台のピアノのためのソナタニ長調,K.448〜第1楽章より
2)モーツァルト(グリーグ編曲)/ピアノ・ソナタハ長調,K.545〜第1楽章
3)チャイコフスキー(エコノモウ編曲)/バレエ組曲「くるみ割り人形」〜行進曲,こんぺいとうの踊り,トレパーク,花のワルツ
4)ミヨー/スカラムーシュ〜第3曲「ブラジレイラ」
5)ラフマニノフ/組曲第2番op.17〜第4曲「タランテラ」
6)ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
7)(アンコール)バッハ,J.S.(ヘス編曲)/主よ人の望みの喜びよ
●演奏
大野由加(ナビゲータ,ピアノ*1,6,7),加藤純子(ピアノ*1,2),村田裕子(ピアノ*2),澤田加能子(ピアノ*3),徳力清香(ピアノ*3),奥田理恵子(ピアノ*4,5),杭田直美(ピアノ*4,5),長野良子(ピアノ*6,7)
Review by 管理人hs  小人の踊りさんの感想

このようにピアノが向かい合って並べられました。反響板は第1ピアノ(左側)だけに付けらていました。ピアノは,第1ピアノがスタインウェイで,第2ピアノがヤマハでした。
今年度,石川県立音楽堂交流ホールで6回シリーズで行われてきた「Romanticピアノの翼コンサート」の最終回「華麗なるピアノ・デュオ」に出かけてきました。昨年度のショパンのシリーズ以来,大野由加さんの解説による交流ホールでのピアノの演奏会シリーズはすっかりお馴染となり,毎回沢山のお客さんが入っているのですが,今回は特に大勢の人が入っていました。備え付けの椅子のない,交流ホールには,”満席”という概念自体がないのですが,開演が近づくにつれて,どんどん補助椅子が増えて行きました。

我が家もそうだったのですが,今回はかなり親子連れのお客さんが多かったのも特徴でした。「日曜午後の1000円の演奏会」という設定も良かったのですが,その他に例の「のだめ」効果もあったようです。

この演奏会の企画が立てられたのは,このドラマの始まるかなり前でしたので,プロデューサーの大野由加さんもドラマを意識してはいなかったようですが,今回演奏されたプログラムの最初と最後で「のだめ」で使われた曲が演奏されましたので,それを目当てに来られた方もいらっしゃったようです。そういう意味では,今回の選曲は,非常に先見の明があったといえます。

この「のだめ」効果は別にしても,8人の女性ピアニストによって,ピアノ・デュオの曲が6曲演奏されるというのは,とても豪華な雰囲気がありました。今回は,モーツァルトからガーシュインまでという時代の古い順に演奏されましたが,どの曲も大変聞き応えがありました。

最初のモーツァルトの2台のピアノのためのソナタは,「のだめカンタービレ」の中では,千秋とのだめがはじめてデュオで演奏した曲として使われました。今回は,その第1楽章の呈示部だけが,大野由加さんと加藤純子さんによって演奏されましたが,わくわくするように展開していく音楽は,華やかな演奏会のための最高の序曲となりました。

次の曲もモーツァルトの作品でしたが,こちらはグリーグがピアノ・ソナタを2台のピアノ用に編曲したものです。この曲は,1年半ほど前に,田部京子さんと小川典子のデュオで聞いたことのある曲ですが,おなじみのK.545のハ長調のピアノ・ソナタを第1ピアノが弾き,その上に第2ピアノがグリーグの作曲したパートを付け加えるような面白い編曲です。今回,2台のピアノはお互いの顔が見えるように向かい合って並べられていましたが,特にモーツァルトの曲の場合,音の動きが滑らかで,対話をするように曲が進んでいくので,横から見ていると,まるで音でピンポンをしているような趣きがありました。この曲は,第1ピアノを村田裕子さん,第2ピアノを加藤純子さんが担当されていましたが,ゆっくりとしたテンポでしっとりと歌われた,とても優雅な演奏でした。

前半最後はエコノモウ編曲による「くるみ割り人形」組曲の抜粋4曲が演奏されました。この曲は,徳力清香(第1ピアノ)さんと澤田加能子(第2ピアノ)さんのデュオで演奏されましたが,それぞれの衣装がクリーム色と薄緑とパステルカラーでコーディネートされており,とてもファッショナブルでした。今回演奏された曲は,どれも技巧的な曲でしたが,腕を交差させながら,音階を駆け上っていくような部分など,見ているだけで華麗でした(今回,かなり近くの場所で聞いていたので,腕の動きがとてもよく見えました)。

「こんぺいとうの踊り」は,もともとチェレスタ用の曲ですが,2台のピアノ版も面白い味が出ていました。途中,テンポをぐっと落として第1ピアノだけになる部分などは,協奏曲の中のカデンツァを聞くような感じでした。演奏された4曲の中では,やはり最後の「花のワルツ」が聞き応えがありましたが,演奏後,大野さんが解説していたとおり,このエコノモウによるアレンジは,華やかな掛け合いがあるけれども全然うるさくないもので,交流ホールのような場所で気楽に楽しむには丁度良いムードを持ったものでした。

ちなみにこの曲の編曲者のエコノモウは,エコノムという表記で聞いたことのある人ですが,39歳の若さで亡くなられたピアニストとのことです。マルタ・アルゲリッチが演奏した録音もあるということなので,機会があれば是非聞いてみたいと思います。余談ですが,ピアノの入った「くるみ割り人形」というと,何故か私はカーペンターズのクリスマス・アルバムに入った編曲を思い出します。

後半は,ミヨーの「スカラムーシュ」の第3曲「ブラジレイラ」で始まりました。目が覚めるような力強い演奏でしたが,”そのまんまラテン音楽”という感じの曲ですので,もう少し楽しげな表情で弾いて欲しいなぁ,と思いました。その後は,ラフマニノフの組曲第2番の中のタランテラが演奏されました。この曲は,暗い情熱がひたひたと盛り上がってくるような,いかにもラフマニノフらしい曲です。「のだめカンタービレ」の中で千秋とのだめがラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を2台のピアノで演奏するシーンがありましたが,そのムードに近い曲だと思います。今回の杭田さん(第1ピアノ)と奥田さん(第2ピアノ)による演奏も,とても熱のこもった聞き映えのする演奏でした。

演奏会の最後は,長野良子さんと大野由加さんのデュオで,ラプソディ・イン・ブルーの全曲が演奏されました。実は,今回,この曲をいちばんの目当てに聞きに来ました。この曲は,オーケストラとピアノによる通常の版で一度聞いたことがあるのですが,例の山下洋輔さんのピアノによる「なんじゃこりゃ!」という演奏でしたので(インパクトは非常に強かったのですが...),一度,まとも(?)な演奏でこの曲を生で聞いてみたいとずっと思っていました。今回,やっと念願がかなった感じです。

演奏は,ジャズ的なフィーリングとクラシック音楽のまとまりの良さを同時に感じさせてくれるバランスの良いものでした。この「2台のピアノ版」は,ガーシュイン自身によるものですが,第1ピアノが独奏ピアノ・パートを演奏し,第2ピアノがオーケストラ・パートを演奏するものです。そのため,ここまで聞いてきた,2台のピアノのための曲と比べると,パートの偏りがあるのが特徴です。今回は,長野さんが第1ピアノを弾かれていましたが,とても豊かな表情とダイナミックスを持った演奏で,大野さんの弾かれたオーケストラ・パートと合わせ,「シンフォニック・ジャズ」という言葉に相応しいスケールの大きさを持った演奏を聞かせてくれました。

演奏会の最後は,アンコールとして演奏された,バッハの「主の人の望みの喜びよ」で締められました。この「ピアノの翼コンサート」の6回シリーズでは,第1回のバッハ,スカルラッティからはじまり,前回の20世紀の音楽までピアノ音楽の歴史をたどってきたのですが,ここで最初のバッハに戻ったことになります。いつものことながら,よく考えられたプログラミングだと感心しました。

今回の第6回目は,ピアノ・デュオの持つ華やかさに加え,次々と登場する女性ピアニストのファッションを見る楽しさもありました。交流ホールは,客席とステージとの距離がとても近い独特の空間ですが,ファッションショーを兼ねたような演奏会という企画も考えられそうだと思いました。今回の「ピアノの翼」シリーズもまた,昨年度のショパン・シリーズに続き,大変公表だったようですが,来年度もまた新たなシリーズに期待したいと思います。

PS.これから年度末にかけて,保育園,幼稚園,小学校...の学芸会や卒業式のシーズンになりますが,この辺にも「のだめ」効果が出ているようで,我が家の子供は「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏するとのことです(ピアニカ版ではないと思いますが...)。今回は,その参考にするために子供も聞きに来たのですが,このドラマの効果は,いろいろなところに波及しているようですね。(2007/01/16)



Review by 小人の踊りさん
今回初めて、日曜日の午後という、人が集まりやすい時間帯に開催されたことも要因でしょうけど、本当に「うわッ!」と驚くほど会場は満席でしたね。

今日はピアノ・デュオの豪華絢爛で楽しいコンサートでした。

普段よく耳にする有名な曲(モーツァルトのソナタ K.545、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」4曲抜粋、ガーシュインの「ラプソイン・ブルー」)を2台ピアノで演奏するとどうなるか、という好奇心をくすぐる企画もあれば、ラフマニノフの組曲第2番第4曲「タランテラ」のように、アクロバティックで聴き応えのある曲も用意されていたりして満足度は高かったです。 ただ、そのために演奏時間のやや長い曲が多く、たくさん来場されていた子供さん達にはチョッチ辛かったのではないかと・・・。 まぁ、このシリーズは全体的に大人向けの企画だったので、仕方ないでしょうね。 とは言え、闊達で華やかな演奏が多かったので、きっと楽しめたことでしょう。

さて、私はこの全6回のシリーズをなんとか全て見に行くことができたのですが、全体的な満足度は非常に高かったです。司会の大野さんが仰っていたように、スカルラッティーから始まってモーツァルト、ベートーヴェン、ロマン派、フランス・ロシアと時代を駆け抜けていく壮大なパノラマの中で、私達観客は節目節目の重要な楽曲を生演奏で堪能することができたわけであります。これは、かなり幸せな体験だったのではないでしょうか?

仮にこのシリーズがすべて映像収録されていて、テレビ放映されたりなんかしたらどうなるか・・・のだめ人気と共鳴現象を起こしそうな気が・・・、あっ妄想、妄想。

2006年12月12日に開催された第5回の感想を少し。

この回は「フランス印象派とロシアンピアニズム」というテーマで、ドビュッシー・ラヴェル・ラフマニノフ・プロコフィエフの楽曲が演奏されました。

なぜか前半・後半それぞれにアンコール曲が演奏され、そのなかでも曲名は忘れたのですが、3人による連弾曲が強く印象に残っています。けっして広くはない1台のピアノの前に3人の女性ピアニストが並んで座り演奏されたのですが、あれは女性3人だから絵にもなるし、演奏可能なのだと感じました。間違っても、野郎が3人密着して並んでいる構図は見たくもないし、物理的に演奏は無理だろうと、強く強く思いました(笑)。(2007/01/15)