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フィンランド放送交響楽団演奏会
2007/02/07 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シベリウス/交響詩「タピオラ」op.112
2)ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調,op.104
3)(アンコール)バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第3ハ長調,BWV.1009〜ブーレ
4)ブラームス/交響曲第2番ニ長調,op.73
5)(アンコール)ブラームス/ハンガリー舞曲第1番
6)(アンコール)シベリウス/悲しいワルツ
●演奏
サカリ・オラモ指揮フィンランド放送交響楽団(1-2,4-6),ミッシャ・マイスキー(チェロ*2,3)
Review by 管理人hs  
毎年この時期,金沢では,東芝グランド・コンサートで来日オーケストラの公演を楽しむことができますが,今年は,サカリ・オラモ指揮フィンランド放送交響楽団による演奏会でした。オラモさんは,サイモン・ラトルの後を継いでバーミンガム市交響楽団の音楽監督を務めると同時に,このフィンランド放送交響楽団の首席指揮者でもある注目の指揮者です。

フィンランド出身のオラモさん指揮によるフィンランドのオーケストラということで,ローカルな感じの響きを予想していたのですが,非常に洗練された完成度の高い音楽を聞かせてくれました。特にオラモさんの指揮は見事でした。オラモさんの指揮は,非常に明確で,安心して聞くことのできるような雰囲気を持っていました。王道を行くような正統的な雰囲気を持っており,ヨーロッパの指揮界のニュー・リーダーと言えるのではないかと思いました。オーケストラものびのびと演奏しているようで,若くして2つのオーケストラのシェフを務めるのも納得できました。

#後でプロフィールを調べて分かったのですが,オラモさんは,もともとフィンランド放送交響楽団のコンサート・マスターだったようですね。その音楽の安心感の理由が分かるような気がしました。

最初に演奏されたシベリウスの「タピオラ」は,このコンビにとっては,「お国もの」「あいさつがわり」のレパートリーです。私自身,この曲については,シベリウスの名作という認識はあったものの,実演で聞くのは今回が初めてです。CDでは,カラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏などで聞いたことがありますが(カラヤンはこの曲が好きだったようで何回も録音しています),その重いムードとは全然違う,むしろくっきりと鮮明な演奏でした。もちろん,華やかというほど明るくはないのですが,演奏している間,ステージ上の空気がすっきりと澄み渡っているようでした。

冒頭から速目のテンポで演奏しており,力感のある部分と繊細な部分とのメリハリがよく利いていました。全曲が終わった後は,起伏のある叙事詩を見たようなスケールの大きさも感じられ,初めてこの曲の全体像が分かった気がしました。特に印象的だったのは,速い動きでも熱くならないクールさとしなやかな強さを感じさせてくれた弦楽器の響きでした。さすが本場と思わせる自信に満ちた演奏でした。

なお,この日の楽器の配置は,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが対向する形となっていましたが,金聖響さん指揮OEKの時によく見られるような下手にコントラバスが来る配置ではなく,コントラバスは通常の場所に居ました。その代わり,チェロは第1ヴァイオリンの隣に居ました。その他は,標準どおりでしたが,この弦楽器の配置は,ロマン派の曲の演奏としては珍しいかもしれません。

続いて,チェロのミッシャ・マイスキーさんの独奏で,ドヴォルザークのチェロ協奏曲が演奏されました。マイスキーさんは,現在,世界的にもっとも有名なチェリストだと思うのですが,それほど華やかな感じはなく,オラモさん指揮の生きの良い伴奏に比べると内向的で,どちらかというと地味な印象を持ちました。その分,第2楽章のような静かな部分での魂が込められたような音が大変聞きごたえがありました。また,要所要所で秘めていた情熱が沸き上げって来るような表現も見事でした。

オラモさんの方は,有能なホワイトカラー・ビジネスマンのようなきっちりとした髪型だったのに対し,マイスキーさんの方は,「どうみても芸術家」という髪型でした。この対比に,音楽面でのコントラストに通じるものあるのも面白いと思いました。オーケストラの演奏は,前曲同様,大変立派なもので,ホルン,クラリネット,フルートといった随所に出てくる楽器のソロも,どれも瑞々しいものでした。オラモさんの指揮は,基本的には,ソツ無くスケール感たっぷりにまとめたものでしたが,こういったソリスティックな部分を中心に要所をギュっと引き締めており,メリハリの利いた音楽を作っていました。今回の演奏は,この瑞々しさとマイスキーさんの演奏の持つじっくりと聞かせる深みとがうまく融合した演奏となっていました。第3楽章には,コンサートマスターとの二重奏という聞き所がありますが,その辺のハモリ具合も見事でした。

アンコールに応えて,マイスキーさんの独奏でバッハの無伴奏チェロ組曲第3番の中のブーレが演奏されました。この曲は,アンコールとして取り上げられることの多い曲ですが,今回の演奏は,ふっと力の抜けた自由自在の浮遊感を持った見事な演奏となっていました。チェロ演奏の年季からにじみ出る軽やかさのようなものを感じました。今回,マイスキーさんの演奏からは,力強さよりは,渋みと秘めた情熱のようなものを強く感じましたが,機会があれば,音楽堂で室内楽の演奏などを聞いてみたいものです。

演奏中,マイスキーさんは,背もたれにチェロのデザインのされたコンパクトでおしゃれな椅子を使っていましたが,そういった面も含め,全体にファッショナブルな雰囲気がありました。この点はさすがスター奏者だなぁと思いました。

今回のメイン・プログラムのブラームスの交響曲第2番は,オラモさんとフィンランド放送交響楽団の作る,明るく透明な音色が曲想に合っていました。ドイツのオーケストラによる重いブラームス演奏とはちょっと違った気分を持っていましたが,この第2番は,リゾート気分のような爽快な曲想も併せ持っていますので,個人的にはぴったりだと思いました。

第1楽章は,抑制の聞いた控えめな感じで開始した後,展開部に向けて,徐々に大きなクライマックスを築いて行くような演奏でした。熱くなり過ぎることがないので,かえってスケールの大きさを実感することができました。他の曲でも同様でしたが,どの曲の解釈も自信に満ちており,曖昧な部分が残っていません。それが各パートの演奏にも反映していました。小細工をしているような所は皆無なのですが,どの部分を取ってもなるほどと思わせるようなメリハリが利いており,曲の良さだけがすっと耳に入って来るような演奏となっていました。

第2楽章には,さらに伸びやかな気分があり,オケの自発性と指揮者との信頼関係の強さを実感できました。自由な気分を持ちながら,全体としてよくまとまった演奏でした。第3楽章は,オーボエの独奏で始まります。このソロは,たくましさを感じさせてくれるもので,牧歌的な雰囲気によく合っていました。しばらくしてかなり大きな休符が入りましたが,このちょっと引っかかりを作るような解釈だけはオラモさん独特のものだと思います。次に出てくる速い動きを持った部分と鮮やかなコントラストを作り,楽章全体を起伏のあるものにしていました。

第4楽章もまた,伸びやかで堂々としたものでした。このオーケストラの持つ特色だと思いますが,弦楽器を中心としたクールな肌触りと自然な高揚感が絡み合い,ほのかに熱い気分を作っていました。慌てないテンポで伸びやかにまとめたエンディングのスケールの大きさも見事でした。

拍手が続くうちに,ピッコロとトライアングルが入ってきてアンコールが始まりました。まず,ブラームスのハンガリー舞曲第1番が演奏されました。この曲は,ブラームスの交響曲の後のアンコールの定番ですが,エネルギーの大きさを実感させる演奏でした。かなりテンポを動かしているのに,小ざかしいところがなく,大変堂々とした演奏となっていました。

アンコール2曲目は,シベリウスの「悲しいワルツ」でした。この曲も時々アンコールで聞く曲ですが,ひんやりとしたムードが心地よいテンポの揺れの動きの上に漂う,素晴らしい演奏でした。

結果的には,「シベリウスで始まり,シベリウスで終わる」構成となりましたが,全プログラムを通じてこのオーケストラの良さをしっかり聞かせてくれるような内容となっていました。オラモさんは,まだ40代前半の方ですが,これから世界各地でどんどん活躍の場を広げて行くことになるでしょう。演奏後,オラモさんによるサイン会も行われ,気さくな一面を見ることができましたが,この新鮮な指揮者とオーケストラの今後の活躍に期待したいと思います。(2007/02/10)

今回のサイン会


この日はサカリ・オラモさんのサイン会がありました。このバルトークのCDは会場で買ったものです。

Sakari Oramoという母音が沢山入るお名前は,日本語と通じる響きがありますね。妙に親近感を感じます。