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オーケストラ・アンサンブル金沢第217回定期公演M
2007/03/04 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ハイドン/交響曲第104番ニ長調,Hob.I-104「ロンドン」
2)モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調,K.364
3)ハイドン/交響曲第99番変ホ長調,Hob.I-99
4)(アンコール)ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調,op.93〜第2楽章
●演奏
トーマス・ツェートマイアー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)
トーマス・ツェートマイアー(ヴァイオリン*2),ルート・キリアス(ヴィオラ*2),フロリアン・リーム(プレトーク)

Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は2005年の夏,ドイツで行われたシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭にレジデンス・オーケストラとして出演し,好評を博しましたが,今回の定期公演は,その時の再現となりました。指揮は,音楽祭の時同様,トーマス・ツェートマイアーさんでした。ツェートマイアーさんは,ヴァイオリニストとしても大変有名な方ですので,もしかしたら今回は弾き振りかなとも予想していたのですが,交響曲では指揮に専念し,協奏交響曲の時だけが弾き振りでした。

この日演奏された曲は,ハイドンの後期の交響曲2曲とモーツァルトの協奏交響曲の3曲でしたが,この中の協奏交響曲が2005年7月15日に音楽祭で行われた公演の再現ということになります。ヴィオラ独奏は,ルート・キリアスさんでした。この方との共演も音楽祭以来ということになります。

このように今回は,”オール古典派”のプログラムとなりましたが,穏やかな春の休日の午後に室内オーケストラによる古典派の音楽を楽しむというのは,とても健全で贅沢なことだと改めて感じました。OEKは,もともとハイドンの交響曲を演奏するのに最適の編成ですので,この日の演奏会は,おいしい白ごはんとおいしい味噌汁の付いた食事をじっくり味わって食べたような,まさに”ジャスト・フィット”という感じの演奏会となりました。

演奏された曲は,どの曲もとても密度が高く,キリっと引き締まったものでした。ツェートマイアーさんの作る音楽にはあいまいな部分がなく,非常に洗練されたものでした。バロック・ティンパニの硬質な音,トランペットの強いアクセント,弦楽器のすっきりした音色などに古楽器奏法風の部分もありましたが,過激すぎるところはなく,全曲に渡り格調の高さを感じさせてくれました。OEKの室内オーケストラとしての特性が見事に発揮されたプログラムであり演奏でした。

この日の楽器の配置は,次のとおりでした。
      Tp Timp
      Cl Fg
   Hrn Fl Ob

    Vn2 Vla Cb
 Vn1 指揮者  Vc


このところ,古典派以前の曲の場合,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが対向配置になることが,普通になっていましたので,この形で演奏するのはかえって珍しいことです。チェロがいちばん客席側に来るのも久しぶりのような気がします。

プログラム前半は,「ロンドン」交響曲,協奏交響曲の順に演奏されました。てっきり「ロンドン」がトリかと思っていましたので,少々意外でしたが,最後に置かれた99番も素晴らしい曲でしたので,全く不満な点はありませんでした。かえって,このことにより演奏会の新鮮味が増したような気もしました。

「ロンドン」交響曲は,大変ゆっくりした序奏ではじまりました。ただし,緊張感が緩むことはなく,トーマス・オケーリーさんのバロック・ティンパニの音を中心とした辛口で硬質な音によって折り目正しい音楽が築かれていました。ツェートマイアーさんは,要所要所でかなり大きな間を取っていましたが,これも効果的でした。主部に入ると気品のあるメロディが出てきます。その後,各楽器がキビキビと活躍し始めるのも聞き応えがありました。

第2楽章は,静かで平静な気分で始まりましたが,ここでも中間部に出てくる,ティンパニを含む強打が印象的で,両端部分と鮮やかなコントラストを作っていました。第3楽章は,大変速いメヌエットでした。最後に演奏された99番のメヌエットも同様だったのですが,ベートーヴェンの交響曲のスケルツォ楽章を意識したようなキビキビとしたテンポ設定でした。ここでもティンパニとトランペットの響きが祝祭的な気分を作り,中間部のソフトなムードと好対照を成していました。このコントラストの強さがツェートマイアーさんの指揮の特徴の一つだったと思います。

第4楽章は,比較的ゆったりとしたテンポで始まりました。重過ぎることはないのですが,音が次第にしっかりと組み合わされていき,堅固な建築を見るようなスケールの大きさを見せてくれました。この楽章でもティンパニの音が全体のエンジンのようにビートの利いた気持ち良い音を聞かせてくれていたのが印象的でした。

2曲目のモーツァルトの協奏交響曲も,大変な名演だったと思います。2人の独奏者の演奏には室内楽的な密度の高さがあり,非常に聞き応えがありました。甘い雰囲気はなく,常に思索するような深さを感じさせてくれる音楽となっていました。

各楽章のバランスも素晴らしいものでした。第1楽章はゆったりとしたテンポによる立派な雰囲気で始まりましたが,音にふやけた所が無く,曲全体のしっかりとした骨格が見えるような演奏になっていました。独奏が出てくる前のクレッシェンドの部分などは,弱音がとてもデリケートに演奏されていましたので,フォルテの音が大変ダイナミックに聞えました。室内楽的な演奏でありながら,スケールの大きさも感じさせてくれるような演奏でした。

ツェートマイアーさんとキリアスさんのお2人は向き合って演奏するのではなく,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが隣り合って演奏するような感じで並んで演奏したのも面白いと思いました。管弦楽だけの部分でも,お2人ともしっかりと演奏に参加していましたので,首席奏者2人が時々,ソロを演奏しているようなムードがありました。ただし,カデンツァの部分ではお2人は向き合って演奏し,ソリスト2人による二重奏といった感じになっていました。

第2楽章は,さりげなく始まった後,次第に深い深い世界に入っていくような趣きがありました。特に,はかなさを感じさせるような弱音で演奏されたカデンツァが印象的でした。音に甘さがないのでゾッするような寂しさが伝わってきました。

第3楽章は,第2楽章からインターバルなしでアタッカで演奏されました。こちらの方は,対照的にスピード感があり,流れの良い音楽を作っていました。ただし,音楽には常に落ち着きがあり,慌て過ぎるような感じはありませんでした。

お2人の演奏は,特に古楽器風というわけではありませんでしたが,すっきりとした美しさを持ったもので,音色がよくマッチしていました。このお2人は,室内楽でもよく共演されているようで,2人セットで一つの楽器を聞かせてくれるようなバランスの良さがありました。3つの楽章の間のコントラストとバランスの良さも素晴らしく,古典的な均衡の美しさを感じさせてくれました。OEKの定期公演でも過去何回かこの曲の演奏を聞いたことはありますが,その中でも特に完成度の高い演奏だったと思いました。

後半は,ハイドンの交響曲第99番が1曲だけ演奏されました。少し軽いかなとも思いましたが,終わってみれば丁度良いバランスでした。曲の解釈は「ロンドン」と似ている部分がありましたが,この曲自体,実演で聞くのが初めてということもあり,さらに新鮮な感じがしました。

この曲も立派な序奏が付いているのですが,変ホ長調ということもあり,1週間前に井上道義さんの指揮で聞いたばかりの,モーツァルトの交響曲第39番の冒頭部の響きとついついシンクロさせて聞いてしまいました。この曲でも「ロンドン」の時同様,大きな間を要所要所で取っており,パッと緊張感が走る部分があるのが印象的でした。

主部は,とても滑らかなレガートで演奏していました。今回私は,コリン・デイヴィス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のCDで予習をしていったのですが,この部分の歌わせ方は,デイヴィス盤の演奏のキビキビした雰囲気と全然違う解釈で,大変面白いと思いました。

第2楽章は,大変濃厚でインティメートな音楽となっていました。それでいてしつこくなり過ぎることはなく,古典派らしさを保っていました。ここでも大きな間が入り,部分部分をくっきりと区切っていました。この間の取り方は,OEKの前プリンシパル・ゲストコンダクターのギュンター・ピヒラーさんの解釈とも似ている部分があると思いました。

第3楽章は,「ロンドン」同様,速く軽快なスケルツオ的なメヌエットとなっていました。トリオと鮮やかなコントラストを作っていたのも同様でした。

最終楽章も「ロンドン」同様ゆっくりめのテンポ設定でしたが,各楽器の音がくっきり演奏され,次から次へと音が飛び交うような面白さがありました。楽器による対話のような感じでした。ホルンなどは毎回毎回,答え方が違うようで,ハイドンらしいユーモアを感じさせてくれました。各楽器の歌わせ方も多彩で,一見,穏やかなのだけれども,とても新鮮で刺激に満ちた演奏となっていました。聞いているうちに元気が出てくるような演奏でした。

アンコールでは,ベートーヴェンの交響曲第8番の第2楽章が演奏されたのですが,これもなるほどという選曲でした。力みなく,すっきりと快速なテンポで演奏されたことがあり,ハイドンと並べて演奏しても全く違和感がありませんでした。

というわけで,終わってみると,ハイドン,モーツァルト,ベートーヴェンの3人が,「いつの間にか勢揃い」という感じでした。「やっぱり古典派音楽がOEKの基本かな」と再認識させてくれるような演奏会でした。 (2007/03/05)

今回のサイン会


↑トーマス・ツェートマイアーさんのサイン

↑ルート・キリアスさんのサイン



上からアビゲイル・ヤングさん,トム・オケーリーさん,左に行って金星眞さん,大村俊介さん,大村一恵さんのサインです。

【番外】
3月1日に発売された松井選手の公式応援歌「栄光の道」の宣伝ポスターです。これは石川県限定盤の表紙です。