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井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢 金沢21世紀美術館シリーズ
第1回ストリングの波動 Stage3 連鎖する旋律
2007/04/29 金沢21世紀美術館 コレクション展I展示室内
1)清水目千加子/静寂(2007年改訂)
2)ウェーベルン/弦楽合奏のための緩徐楽章(1905)
3)ペルト/フラトレス(弦楽四重奏のための)(1977/1985)
4)ショスタコーヴィチ/弦楽四重曲第1番op.49
5)(アンコール)バルトーク/子供のために
●演奏
江原千絵,原田智子(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),ルドヴィート・カンタ(チェロ)
井上道義(監修,トーク)
Review by 管理人hs  
↑今回のチラシ
↑これらはすべて,21世紀美術館内のイベントのチラシです。非常に活発に活動を行っている美術館です。

↑美術館の平面図です。ピンクの印の場所に集合した後,会場に入りました。


この日は,別に書いたとおり,16:00から18:00まで石川県立音楽堂で東京混声合唱団による岩城宏之さんを追悼する演奏会が行われました。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のファンとしては,何としても聞きたい公演でしたので,まずこの公演に行くことにしたのですが,その後,同日の18:30から,金沢21世紀美術館で井上道義さんの発案で,展示室の中でOEKメンバーが弦楽四重奏を演奏する企画が行われることが分かりました。こちらの方も,新音楽監督による新しい企画ということで,何としても聞きたいと思い,かなりタイトなスケジュールとなってしまいましたが,18:00過ぎに石川県立音楽堂を出た後,車で急いで美術館まで向いました。久しぶりに演奏会のハシゴをしてしまいました。

井上道義さんは,岩城さんの後を継いで,OEKの新音楽監督に就任した後,例の大きな顔写真の看板をはじめとして,いろいろなアイデアを出されていますが,この21世紀美術館内での演奏会という企画もその一つです。井上さんは,就任記者会見の際,21世紀美術館の展示の見せ方の巧さについて高く評価されていましたが,その点をOEKも見習いながら,美術館の方にもインパクトを与えてやろう,というのが,このシリーズの狙いなのではないかと思います。

今回はそのシリーズ第1回で,山崎つる子さんの作品が展示されている展示室11で演奏が行われました。この美術館は外観だけではなく,中身も大変斬新です。天井も壁も真っ白というコンビニ並みの明るさを持った展示室での演奏というのは,非常に新鮮でファッショナブルでした。

この展示室はかなり天井が高い上,壁面は硬い材質で出来ていますので,大変音がよく響きます。例えて言うならば銭湯の中で演奏をするようなものです。この長い残響の中で演奏されたのが,ペルト,ショスタコーヴィチ,ウェーベルンといった20世紀音楽でした。これらに加え,地元の清水目千加子さんの曲も演奏されましたが,どの曲も,一度聞いたら病みつき(?)になるような独特の気持ち良い響きを持っていました。

20世紀音楽の多くについては,ドライな音楽という印象を持っていましたが,今回は選曲が巧かったこともあり,聞きやすい音楽ばかりでした。

最初に演奏された清水目さんの「静寂」という作品は,その名のとおり,音を出すことによって,静けさをさらに強調しようというワビサビ的な雰囲気のある曲でした。清水目さんは,以前,OEKのためのアンコール・ピースを募集するコンクールで入賞されたことのある方ですが,今回の曲も大変センスが良いと実感しました。

次にウェーベルンの曲が演奏されました。ウェーベルンと言えば,「トン...キー...ポツン...」という点描的な音楽ばかりを書いていた人という印象が強いのですが,今回演奏された曲は,大変甘い曲でした。どこかマーラーの曲に通じるような雰囲気が感じられました。

ペルトの作品は,以前,ギドン・クレーメルとクレメラータ・バルティカの演奏で聞いたことがありますが,今回は弦楽四重奏版で演奏されました。演奏後,井上さんがヴァイオリンの江原さんに向って「ほとんど禅の境地のような曲だね」といったことを語っていましたが,江原さんは,最初から最後までずっと同じ音を演奏されていたようです。このような瞑想するような気分を持った曲ということで,この部屋の長い残響が大変よく合っていました。教会の中で聞いているようなムードがありました。

そして,最後にショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第1番が演奏されました。この曲はそれほど演奏時間は長くはなく,全体の構成も古典的な感じでしたので,ショスタコーヴィチの曲らしからぬ雰囲気がありました。残響が長いと,必然的に間の取り方も大きくなると思うのですが,大変たっぷりと演奏を楽しむことができました。

最後に,この展示室の”主”である,山崎つる子さんの好きな作曲家であるバルトークの曲がアンコールで演奏されて,演奏会は閉じられました。

今回の演奏会は,井上さんのトークも合わせて,1時間ちょっという長さでしたが,この長さも丁度良いと思いました。数年前から連休中に行われて話題を集めている「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭」での各公演の長さは45分ぐらいが基本となっていますが,美術館の中で行うイベントとしても,これぐらいが妥当だと思いました。

というようなわけで,今回の試みは大変うまく行ったのではないかと思います。何よりも素晴らしいのは,井上道義さんの雰囲気が美術館の持つ雰囲気にピタリとマッチしている点です。実際に演奏を行っているのはOEKのメンバーなのですが,井上さんの全身から出ているオーラはアートそのもので,ファッショナブルです。その雰囲気が,演奏の方にも反映していたような気がします。OEKのメンバーにとっても井上さんの監修の下で美術館で演奏を行うということは,とても刺激的なことなのではないかと思います。

井上さんは上述の記者会見で,OEKのメンバーによる室内楽の活動も充実させたい,というようなことを語られていましたが,今回の企画を初めとして着々と”公約”を果たして行っているようで,頼もしい限りです。この21世紀美術館シリーズは,今後,頻繁に行われるようですが,OEKにとっても美術館にとっても刺激となる企画なのではないかと思います。第2回以降の企画に注目していきたいと思います。

PS.この演奏会の後,家族を迎えに行くため,再度金沢駅方面に戻ったのですが,さすがに帰ってきた後はぐったりとしてしまいました。やはりハシゴはあまりするものではありません。(2007/05/02)

金沢21世紀美術館写真集
この演奏会は入場無料でしたが,井上道義さんの登場する18:30〜のStage3を聞くためには入場整理券が必要でした。その発行が午前10時から行われたので,まず,午前中に一度美術館に出かけてきました。


連休中ということで,大勢のお客さんで賑わっていました。


OEKの演奏会はこのオブジェのある部屋の隣の部屋で行われました。無料ゾーンから有料ゾーンがガラス越しに見えるのがこの美術館の特徴です。


18:00過ぎに再度美術館に来ました。この辺で開演まで待ちました。


美術館の天井にいる,雲の大きさを計る人の像です。建物の上には小さく月も見えています。