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金沢交響楽団第44回定期演奏会
2007/06/23 金沢市観光会館
1)大能正紀/交響詩「Linne(輪廻)」(管弦楽版初演)
2)グノー/歌劇「ファウスト」〜バレエ音楽
3)チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調op.64
4)(アンコール)シューマン/トロイメライ(弦楽合奏版)
5)(アンコール)オッフェンバック/喜歌劇「天国と地獄」序曲(抜粋)
●大能正紀指揮金沢交響楽団
Review by 管理人hs  

演奏会の看板です。入口の上に掛かっているものです。
この名称もそろそろ消えてしまいますので,記念に撮影しておきました。
この1週間中に既に2回演奏会に出かけているのですが,この日は,金沢で活動しているアマチュアオーケストラの一つである金沢交響楽団の定期演奏会が行われたので出かけてきました。

今回は,チャイコフスキーの交響曲第5番がメインプログラムでしたが,前半最初にまず大能さん自身の交響詩「Linne」という作品が演奏されました。この曲はもともとピアノ曲だったものをオーケストラ用に編曲したもので,今回が初演ということになります。

タイトルの"Linne"というのは,スコットランド語で「水たまり」のことを指すとのことで,これに日本語の「輪廻」という言葉と掛けています。「水たまり」と「輪廻」ということで,.「方丈記」冒頭の「淀みに浮かぶうたかた」―といった連想も働いています。

全体としてそこはかとなく和風のテイストが入った重厚な感じの作品で,映画音楽風のところがありました。同じモチーフが繰り返し出てきていることは聞いていて分かりましたので,すっと耳に入っていく明快な構成を持った作品だったのではないかと思います。打楽器奏者が5人加わり,木管楽器も活躍する曲でしたので,色彩的な感じもしました。曲が始まるまで何が出てくるか分からないオリジナル曲を聞くのもなかなか面白いものだなと思いました。

次のグノーの歌劇「ファウスト」の中のバレエ音楽は,個人的には大好きな曲です。今回聞きに行こうと思ったのは,半分ぐらいはこの曲を生で聞けるからという理由でした。私の定番はシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団による1980年代のCDの演奏なのですが,それに比べるとさすがに泥臭い感じはしたものの,最後の曲の迫力をはじめ,フル編成のオーケストラによる生演奏の迫力を実感できました。

第1曲のワルツは,ちょっと雰囲気が硬い気がしましたが,曲が進むにつれて,段々とノリが良くなってきた感じでした。遅めのテンポで始まったのですが,ハープが華やかさを加える5曲目の「トロイの娘たちの踊り」などはとても滑らかな演奏でした。6曲目の「鏡の踊り」は特に好きな曲で,私の場合,聞いていると,何故かチャプリンの昔の無声映画の音楽など思い出してしまい,「明るいのに切ない」というもの悲しさを感じます。今回の演奏からもそういう気分を感じることができましたので大満足でした。そして,打楽器の迫力が全開になる終曲でビシっと締めてくれました。

後半のチャイコフスキーの交響曲第5番は,大変テンポのユレの大きな,堂々とした演奏でした。この曲はストレートなテンポで演奏しても格好良いのですが,かつてのストコフスキーとかのように変幻自在な演奏だとさらに面白く聞けるようなところもあります。今回の演奏はどちかというと後者に近かったと思います。

第1楽章の冒頭のクラリネットから非常にねっとりとした雰囲気で始まり,「これぞロシア音楽!」という感じだったのですが,しみじみと聞いているうちに,先日亡くなられた植木等さんの歌う「これが男の生きる道(”帰りに買った福神漬けで...”で始まる曲です)」という曲のムードと何故かシンクロしてしまい,大能さんの背中を見ながら「男の哀愁(?)」のようなものを感じてしまいました。その後,豪快に盛り上がりますので,哀愁は吹っ飛びますが,意外な接点に自分で可笑しくなってしまいました(変なことを書いて失礼しました)。

第2楽章は,まず,ホルンの独奏が聞き所となります。低弦の充実した響きの上に,とてもスムーズに始まったのですが,途中からはかなりハラハラしてしまいました。1回引っかかると,なかなか普通のペースに復帰するのは難しいものなのだなと思いました。それだけプレッシャーが掛かる難しいソロと言えそうです。その中で最後まで弾き切ったのは立派だったと思いました。

第3楽章は,どこか引っかかりのある感じのワルツでした。優雅さよりは,不思議な暗さを感じさせてくれる演奏でした。第4楽章も遅めのテンポで,じっくり聞かせてくれました。その分,コーダの部分に入ってからが,非常に自然でのびのびした感じに聞こえました。特にトランペットが加わって輝かしさを増す部分が,とても爽やかでした。最後の最後の部分は念を押すようにどっしりと決めてくれました。

アンコールは2曲演奏されました。最初のトロイメライの弦楽合奏版は,ピアノで演奏する時のようなちょっとしたテンポのユレを合奏で表現するのが難しいと感じました。ちょっと聞いていて落ちつかない気がしました。2曲目は,「天国の地獄」序曲(さすがに全部だと長いので抜粋でした)でした。こちらもお馴染みの曲ですが,打って変わって運動会気分を味わわせてもらいました。

金沢交響楽団の定期演奏会に出かけるのは今回が2回目のことですが,前回同様,指揮者の大能正紀さんの個性的でダイナミックな曲作りを楽しむことができました。チャイコフスキーをはじめ,テンポの変化の大きな演奏が多かったので,演奏される方は大変だったと思いますが,しっかりとその指揮について行っている様子を見て,素晴らしいなと思いました。

.今回,関係者の方から招待状を頂いて出かけてきたのですが,この場を借りて感謝させて頂きたいと思います。どうもありがとうございました。(2007/06/24)