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オーケストラ・アンサンブル金沢第224回定期公演F
2007/06/29 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ヘンデル/水上の音楽〜ア・ラ・ホーン・パイプ
2)パッヘルベル/カノン
3)モーツァルト(青島広志?編曲)/きらきら星変奏曲
4)モーツァルト(青島広志?編曲)/トルコ行進曲
5)モーツァルト/フルート協奏曲第2番ニ長調K.314
6)(アンコール)バッハ,J.S./管弦楽組曲第2番〜ポロネーズ,バディネリ
7)ベートーヴェン/トルコ行進曲
8)ベートーヴェン(青島広志?編曲)/エリーゼのために
9)グリーグ/ノルウェイ舞曲第4番
10)グリーグ/劇音楽「ペール・ギュント」〜イングリッドの嘆き,山の魔王の宮殿にて,オーゼの死,朝,アニトラの踊り,ペール・ギュントの帰郷,ソルヴェーグの歌
11)グリーグ/ノルウェイ舞曲第2番
●演奏
青島広志指揮とお話とピアノ*3,4,7.8,オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング),yumi(フルート*5,6),プレトーク:一柳慧,青島広志
Review by 管理人hs  
この日は学生さんの姿も沢山みかけました。

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の6月のもう一つの定期公演は,テレビでおなじみの青島広志さんの指揮とお話による楽しいコンサートになりました。青島さんについては,NHKラジオの「みんなのコーラス」の解説者として出演されているのを以前聞いていたことがあるのですが,この数年,民放のテレビ番組にも出演するようになり,一気に知名度が高くなりました。その解説の鋭さには,ラジオ番組時代から密かに注目していたのですが,生で聞くトークには...何というか圧倒されてしまいました。

黒柳徹子さんに匹敵するぐらいのものすごい早口で,ぎっしりと内容とウィットが詰まっており,全く退屈する部分はありませんでした。青島さんの外見的な雰囲気はコメディアンのようであり,腰の低さは道化師風なのですが,話されている内容は,実は非常に真面目であり,時に辛辣です。しかし,言葉遣いは上品です。真面目さと上品さと俗っぽさとのブレンドは,計算されている部分もあるのですが,青島さんの生来のキャラクターだと思います。そのせいもあり,動作や言葉の一つ一つのアクは強いけれども嫌味ではなく,見ていて自然に微笑んでしまいます。さすが「世界でいちばん」の方だと感心しました。

今回のプログラムは,”音楽鑑賞教室”に出てくるような曲が中心だったのですが(実際,今回,学校向け公演も行われたようです。そして今回のステージ上にも音楽室でお馴染みの”作曲家の肖像画”が飾られていました。その中の1枚が青島さんの肖像でした。),最後に演奏された今年没後100年となるグリーグの「ペール・ギュント」の音楽が全体の中心になっていました。上述のとおり,どの曲についても,青島さんの解説が大変面白く,恐らく,初めてクラシック音楽を聞く人も全く退屈しなかったと思います。最近流行のクラシック音楽のコンピレーション・アルバム風に短めの曲を並べた後,最後に長い曲を1曲入れるというような構成も良かったと思います。

コンサートは,青島さんがものすごいスピードで歩いてステージに登場し(走るのではなく歩いていました),いきなりヘンデルの「水上の音楽」の中の1曲を指揮して始まりました。派手なジャケットに帽子という服装も目を引くもので,お客さんの目と耳を一気に集中させてくれました。

2曲目はおなじみのパッヘルベルのカノンでした。OEKの編成は,ヴァイオリン,チェロ,コントラバスのみという変わったものでした。ヴァイオリンが3部に分かれて追いかけっこをし,チェロとコントラバスがオスティナートを延々と演奏する構成をとても分かりやすくスマートに示してくれる演奏でした。

次の2曲は青島さんのピアノを聞くことができました。「きらきら星変奏曲」はもともとはピアノ独奏曲ですが,オーケストラと共演する形に編曲されており,さらに親しみやすいものになっていました。青島さんが日本語の訳詞を歌っているうちに,自然に曲に入っていくという流れになっていましたが,青島さんは,iいろいろな曲の歌詞を実によく覚えています。青島さんは,オペラや声楽曲の専門家ですが,非常に日本語を大切にされていることが実感できました。

それとピアノの演奏もまた素晴らしいものでした。どの曲も,おしゃべりに負けないぐらいの速いテンポで演奏されていました。青島さの指は,本当によく回るので,次のトルコ行進曲などは目がくらみそうでした。この曲では,”トルコ風”を強調するためにシンバルやピッコロなどが特に活躍していましたが,ピッコロの上石さんはこの超高速テンポに見事について行っていました。

前半の最後には,OEKと既にCD録音を行っている若手フルート奏者のyumiさんが登場し,モーツァルトのフルート協奏曲第2番が演奏されました。yumiさんが登場する前,「○○の妖精と呼ばれている人は,これまでも何人も出てきていましたが,この方こそ真の妖精」という紹介をされていました。ピンクのふわっとしたドレスに包まれて登場したyumiさんは,まさにその言葉どおりで,何と言うか...私のような者には直視できないぐらいのまぶしさがありました。OEKとのCDジャケットを見てもわかるとおり,今どきのJポップス界にも存在しないぐらいの,「正統派アイドル」という雰囲気の売り出し方をされている方です。

フルートの音の方も,まったく屈託がなく大変伸びやかで,小柄の体をゆったりと動かして,堂々とした音楽を聞かせてくれました。ただし,やはり20分を超えるような曲になるとさすがに単調さを感じました。yumiさんの屈折したところのない素直さには好感が持てたのですが,まだ成熟していないといった印象を受けました。しかし,これはこの時期のyumiさんの特権でもあります。これからどのような音楽活動をされていくのか見守って行きたいと思います。

後半,青島さんは衣装を黒っぽいジャケットに変えて登場されましたが,内容の方は,前半のモーツァルトの音楽の続きのような感じでベートーヴェンの小曲が2曲演奏されました。「トルコ行進曲」については,「近づいてきて遠ざかるだけの曲です」という説明がされていましたが,テンポの変化や音量の変化がくっきりと付けられており,大変分かりやすい演奏となっていました。「エリーゼのために」はピアノと弦楽合奏で演奏されましたが,これもまた大変速いテンポで,スマートなものでした。

演奏会の最後のコーナーは,今年がメモリアル・イヤーであるグリーグ特集でした。最初に演奏されたノルウェイ舞曲第4番は,今回初めて聞く曲でしたが,弾むリズムがとても楽しい曲でした。そして,最後に「ペール・ギュント」の抜粋が,青島さんの解説とともに演奏されました。

ここでの青島さんの解説はさらに冴えていました。青島さんの場合,解説をしながらメロディを歌うのですが,これが実に面白いですねぇ。例えば,最初の「イングリッドの嘆き」については「タラララ,タラララ...と始まった後,ペチっと叩くような音が出てきて,その後,トランペットがプップッとか吹くんですけどこれは...を意味しています。」といった説明を一気に語られます。そして音楽が始まると,確かにそのとおりで,トランペットがプップッと本当に演奏すると思わず笑いそうになってしまいました。青島さんのトークが音楽と一体になっていることがよく実感できました。

演奏された曲の中では,「アニトラの踊り」が面白かったですね。この曲での青島さんの指揮ぶりは,まさに踊りでした。ひざをぐっと曲げたり,両手を同時に左右に回したり,とてもユーモラスでした。青島さんは意外に大柄の方で,後ろから見た感じは(頭部を中心に),井上道義さんに似たところがあります。ダイナミックなバレエを見るような井上さんの指揮ぶりと対照的に,せかせかとした感じがあるのですが,”見せる指揮”という点では共通する点があると感じました。

最後はドラマの展開どおりソルヴェイグの歌で終わりました。もちろんオリジナルに入るソプラノ独唱は入りませんでしたが,曲の始まる前に,青島さんが非常に念入りに歌詞を説明しメロディを歌って下さいましたので,すっかり歌を聞いたような気分になりました。

以上で用意されていたプログラムは終わりました。最後にグリーグつながりでノルウェイ舞曲の今度は第2番がアンコールで演奏されました。これも第4番同様大変親しみやすい曲でした。こちらの方は水谷さんのオーボエ独奏が活躍していました。機会があれば,ノルウェイ舞曲を全部聴いてみたいと思います。

というわけで,青島さんの大変スピーディなお話と指揮によって,あっという間に時間が過ぎ去ってしまいました。終演時間は9:00を過ぎていたのですが,全く疲労感を感じませんでした。青島さんのトークは非常にテンポが速く,ある面,とてもせわしないので,ゆったりと音楽にだけ浸りたいという人にとっては,物足りない部分もあったかもしれませんが,これからクラシック音楽を聞き始めようという方にとっては,絶好の入門となった演奏会だったと思います。また別の切り口からトーク付きの公演を期待したいと思います。

PS.青島さんのステージの特徴は,とても礼儀正しいという点です。ソロ楽器が出てくる曲が終わるたびにその奏者を立たせ,お客さんの拍手を促していました。前半最後では,「最後の奏者が退出するまで拍手をしましょうね」と語られていましたが,この辺は聴衆教育的にも,効果があると思いました。

PS.青島さんのトークは,話題が全く予想しない部分に飛んでいくことがありました。モーツァルトの幼少期の話とお母さんの手作りの食事がつながる辺り,苦笑して聞いている「お母様方」がいらっしゃったかもしれません。
(2007/06/30)

今日のサイン会


青島広志さんのサインです。青島さん著による「クラシックで世界一周(幻冬舎,2007)」という本の見開き紙に頂いたのですが,お一人ずつの名前を確かめながら,2色刷り・イラスト入りのサインをされていました(私の名前の部分は省略してあります)。

この本ですが,今年の連休に行われた「ラ・フォル・ジュルネ」の公式ガイドブックのうちの1冊です。”世界1周”というタイトルがついていますが,東欧,北欧,フランス等,ドイツ・オーストリア音楽以外の名曲についてのガイドブックとなっています。

この日演奏されたペール・ギュントについても楽しい解説が書かれていました。


こちらの方は,中年男性が1人で頂くにはかなり恥ずかしかったのですが...yumiさんのサインです。このCDはOEKと共演したものです。

この写真どおりの方でした。両手で握手して頂き,すっかり舞い上がってしまいました。