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能登半島地震震災復興支援チャリティーコンサート
2007/07/07 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ブラームス/ピアノ協奏曲第1番ニ短調op.15
2)(アンコール)ブラームス/ワルツ変イ長調op.39-15
3)ブラームス/交響曲第2番ニ長調op.73
●演奏
金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:マヤ・イワブチ)*1,3
菊池洋子(ピアノ*1,2)
プレトーク:金聖響,青澤隆明
Review by 管理人hs  

↓OEKでは,今回以外にも次のような「復興支援コンサートシリーズ」を行ってきました。

石川県内で今年の上半期で起こった最大の事件が能登半島地震でした。誰も予想もしなかったような出来事で,能登半島に多くの被害をもたらしました。発生して既に3ヶ月以上経ち,経済的な復興支援だけでなく,地震の被害者をメンタルな面から励まそうというイベントももいろいろと行われています。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーも被災地で慰問公演を行ってきました。今回の復興支援チャリティコンサートは,その活動の集大成となる公演でした。日付の面でも07年7月7日の七夕の日ということで,象徴的な意味を感じさせるものでした。

この公演に登場したのが指揮者の金聖響さんとピアニストの菊池洋子さんでした。お二人ともOEKとのCD録音ですっかりおなじみの方ですが,今回の公演は,聖響さんとOEKとが大阪で行っているブラームス・チクルスの第2回公演と同じものでした。第1回公演については,金沢では4月の定期公演として行われたのですが,第2回の方はもともと金沢で行われる予定はありませんでしたので,予想外の形で実現することになりました。大阪公演の前日ということで,ゲネプロ&セッション録音がそのままチャリティコンサートになったような形になります。

今回演奏されたのは,ピアノ協奏曲第1番と交響曲第2番という大曲2曲の組み合わせでした。横綱2人ががっぷり四つに組んだような大変重量感のあるプログラムとなりました。

ピアノ協奏曲第1番は,私自身生演奏で聞くのが今回が初めてのことでした。菊池さんのピアノは大変正統的なもので,この難曲をしっかり聞かせてくれました。CDで聞くと,曲の最初の部分などは怒涛のような勢いで始まるのですが,この日の演奏は,力んだところがなく,むしろ抑え気味といった感じでスーッと始まりました。このスマートさは室内オーケストラのOEKの特徴を生かしたものだと言えます。なお,この日のティンパニは渡邉さんで,金聖響さんの時にはすっかりお馴染みとなったバロック・ティンパニを使っていました。

楽章の前半は,このようにすっきり始まり,菊池さんのピアノを含め,どこか慎重な雰囲気があったのですが,呈示部,展開部,再現部と進むにつれて,徐々に力を増していくような構成になっていました。菊池さんのピアノは,第2主題のコラール風の部分の気品のあるムードが印象的でした。要所で出てくるホルンの信号もとてもたっぷりしており,ブラームスらしさを醸し出していました。

第2楽章は,さらにゆったりとした気分になりました。この日のプレトークでは,金聖響さんと音楽ライターの青澤隆明さんの対談が行われたのですが,その中で「午後の演奏会には独特の緩さがある」というような話が出てきました。この楽章などを聞きながら,確かにそのとおりと感じました。また,”洋子”だけあって”陽光”が差し込んでくるような温かさがありました(失礼しました)。

第3楽章は,菊池さんの大変明晰なピアノで始まりました。ほとんどアタッカで前楽章とつながっていましたので,ハッとさせるようなコントラストの強さがありました。この楽章はロンドなのですが,愉悦感よりは,がっちりした構築感を感じさせてくれます。菊池さんのピアノの音は大変瑞々しいのですが,中規模編成のOEKの演奏とがっちりと組み合うことで,ロマンティックな気分よりは,古典派の曲を聞くようなまとまりの良さを感じさせてくれました。エンディングにも,力で圧倒するというよりは,小気味よい爽快さがありました。

その後,盛大な拍手に応え,ブラームスのワルツが演奏されました(「ブラームスのワルツといえばコレ」といういちばん有名な作品です)。ここでの菊池さんの音は,大変たっぷりとしたもので,健康的な美しさに満ちていました。

このアンコールの時ですが,「ブラボー!」の大きな掛け声が気になりました。盛大に掛け声を掛けるのも悪くはないのですが,罵声に近い大声で,会場の空気を壊していました(1回ならまだ良いのですが,繰り返していました)。かなり私の座席に近いところから出ていたのですが,突然の大声に驚いている人もいたのではないかと思います。

後半の交響曲第2番の方は,OEKも過去数回演奏している曲ですが,こちらもまた,堂々たる演奏でした。オーケストラの編成は,第1ヴァイオリン以外の弦楽器は少しずつ増やしていたようでした。配置の方は,以下のとおりの古典的な対向配置でした。

       Cl*2 Fg*2
  Hrn*4 Fl*2 Ob*2  Timp Tp*2
 Cb*4 Vc*5   Va*6    Tb*3
Vn*8     指揮者  Vn*8   Tuba

第1楽章は呈示部の繰り返しを行っていた上,全体にゆっくり目のテンポだったので,演奏時間はかなり長かったのではないかと思います。上述の対談に出てきたとおり,緩やかな時間が流れていくのですが,その一方,すっきりとまとまっているのが,OEKならではです。チェロ・パートの熱い歌をはじめ,低音も充実しており,まろやかさにも不足していませんでした。

第2楽章では,ホルンに一瞬ドキリとする部分があったのですが,この曲の持つ田園的・牧歌的な”まったり”とした気分がよく出ていました。後半では大きく盛り上がるのですが,その後静かに終わる部分の名残惜しい気分も見事でした。

第3楽章でも,水谷さんのオーボエを中心として,つつましく牧歌的な気分がよく出ていました。第1楽章から第3楽章までは,このとおり,のんびりとした気分が持続していました。第4楽章になるとこれが一気に開放されます。この楽章でもまったりとした部分とのびのびとした部分が交互に出てくるのですが,そのメリハリが心地よく感じました。コーダの部分はそれほど熱狂的ではなかったのですが,ホルンを中心にくっきりとしたアクセントが付けられており,大変鮮やかで格好良いものでした。最後の音は,4月に聞いた1番の時同様に,長く伸ばされた音が,スーっと減退していく感じでしたが,この辺に金聖響さんのブラームスの特徴がよく表れているようです。

今回の演奏会は,能登半島地震という思いがけもない運命の巡り合わせによって行われたものでしたが,文字通り「午後のブラームス」でした。緩やかに流れる贅沢な時間を堪能できました。チクルス第3回は,11月末の定期公演に行われますが,交響曲第3番とピアノ協奏曲第2番ということで,「晩秋のブラームス」を楽しめそうです。ブラームスの交響曲は4曲ということで,1番から順に「四季」それぞれの雰囲気によく合っているのではないかと実感した次第です。(2007/07/08)

今日のサイン会



この日は,ピアニストの菊池洋子さんのサイン会のみ行われていました。プログラムは定期公演と同じ装丁でした。震災復興支援に関する活動をまとめた記事などが掲載されていました。

ロビーには次のような復興支援活動に関するパネル展示などもありました。



午後の音楽堂
この日は,晴れた午後のコンサートということで,ホール内のステンドグラスが大変きれいでした。終演後に撮影してみました。

1階席横


2階席横



その他
翌日,交流ホールで行われる「歌劇「椿姫」のレクチャーコンサートの用意も行っていました。すばらしい声が下の階から漏れ聞こえてきていました。