OEKfan > 演奏会レビュー
オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ:もっとカンタービレ第2回 安永徹,市野あゆみ室内楽の世界
2007/07/25 石川県立音楽堂交流ホール
1)ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第4番ハ短調,op.18-4
2)シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調,op.44
3)シュポーア/大九重奏曲ヘ長調,op.31
●演奏
市野あゆみ(ピアノ*2),安永徹(ヴァイオリン*2,3),竹中のりこ(ヴァイオリン*1,2),大隈容子(ヴァイオリン*1),石黒靖典(ヴィオラ*1,2),古宮山由里(ヴィオラ*3),大澤明(チェロ),今野淳(コントラバス*3),岡本えり子(フルート*3),加納律子(オーボエ*3),木藤みき(クラリネット*3),柳浦慎史(ファゴット*3),山田篤(ホルン*3)
Review by 管理人hs  

7月21日の定期公演以来,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーは,安永徹さん,市野あゆみさんと公演を行っていますが,このお二人をゲストに招いての室内楽公演が石川県立音楽堂交流ホールで行われました。OEKの室内楽シリーズは,今回が2回目ですが,定期公演のソリストをゲストに招いての室内楽というのは面白いアイデアだと思います。

今回演奏された曲は,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第4番,シューマンのピアノ五重奏曲,シュポーアの大九重奏曲ということで,前回同様,いろいろな編成の室内楽を楽しむことができました。しかも,今回は,3曲とも抜粋ではなく,全曲がしっかり演奏されましたので,演奏時間はかなり長くなりましたが,定期公演に劣らないぐらいの充実感のある内容となりました。

最初に演奏されたベートーヴェンの弦楽四重奏曲は,近年,OEKの弦楽メンバーたちが,集中的に取り上げているレパートリーです。今回演奏された第4番は,初期の作品ですが,淡い悲しみが漂うような曲で,どこかモーツァルトの短調作品に通じる雰囲気のある曲でした。特に印象に残ったのは,全曲の最後の部分でした。一気にギアチェンジをして,ダッシュするようなエンディングは非常に爽快でした。

その他の楽章も良かったのですが,安永さんが登場した2曲目のシューマンの演奏後に振り返ってみると,全体に慎重な感じがしました。それとこれはベートーヴェンの曲のせいなのですが,遅いスケルツォの第2楽章と速いメヌエットの第3楽章というのは,どうしても似た感じになり,メリハリが弱い気がしました。

というわけで,安永さんと市野さんの登場したシューマンのピアノ五重奏曲ですが,見事な演奏でした。シューマンのピアノ五重奏曲は,過去何度か実演でも聞いたことがありますが,この日の演奏は,まさに大人の演奏でした。慌てることのないテンポで,堅実に演奏されているのですが,安永さんのヴァイオリンをはじめとした各楽器の音にコクがありました。安永さんと市野さんの音のバランスの良さは当然ですが,OEKメンバーとも大変良く息が合っていました。

第1楽章では,ピリっとした緊張感のある出だしも良かったのですが,チェロとヴィオラが演奏する第2主題がとても印象的でした。この部分をはじめとして,音楽の至るところにちょっとしたユレがあり,ファンタジーが溢れていました。第2楽章はもともと葬送行進曲風なのですが,中間部に入るとさらにデリケートな雰囲気になります。この部分での安永さんのヴァイオリンの音を聞いてゾクっとしてしまいました。第3楽章は,対照的に生き生きとしたヴィヴァーチェとなります。この楽章などは,バリバリと速いテンポで演奏されることもありますが,市野さんのピアノを中心に,そんなに熱狂することはなく,余裕たっぷりに楽しい音楽を聞かせてくれました。室内楽の楽しさをしみじみ味わうことのできる演奏でした。第4楽章は,フィナーレに相応しい運動性と重みのある楽章ですが,何と言っても最後のフーガの部分の聞き応えがありました。

こうやってじっくり聞いてみると,改めて良い曲だと実感しました。ピアノが加わるだけで,弦楽四重奏にないダイナミックさと音の厚みを強く感じさせてくれる曲です。

ここで休憩になった後,後半は,シュポアの大九重奏曲が演奏されました。シュポアという作曲家自身,ベートーヴェンやシューマンに比べると知名度は低いのですが,さらに珍しいのは,九重奏という編成です。これだけの「大編成」の室内楽(言葉が矛盾するようですが)を聞くのは初めてのことかもしれません。編成は次のとおりでした。

  Cb Vc Fg Hrn Fl
  Va          Cl
Vn              Ob 

は女性奏者です。

つまり,トランペットとティンパニを除くOEKの楽器が1つずつ揃っているということになります。ここまで来ると,「室内オーケストラまであと一歩」です。曲想は,非常にのどかなもので,初めて聞くのに安心して聞けるような作品でした。この編成の大きさは,どちらかというと静かに演奏する部分で厚みを感じさせてくれました。激しい部分だと,室内オーケストラ編成と比較して響きの薄さを感じました。ただし,この薄さは短所ではなく,ディヴェルティメントやセレナードに通じる,リラックスしたムードを作っていたと思いました。

第1楽章は,同じモチーフが本当に何回も何回もいろいろな楽器に出てきました。例えば,弦楽四重奏で聞くとこういう場合,求心力を感じるのですが,9人編成だと,それぞれの奏者たちがおしゃべりを気ままに楽しんでいるような感じになります。前半の曲の時は皆さん黒い衣装で,引き締まった雰囲気を作っていましたが,この曲の時は,4人の女性奏者は,「もっとカンタービレ」のポスターの文字のように(上記の写真のとおりです)いろいろな色のドレスで登場されていましので,曲のムードにぴったりでした。

第2楽章は低弦楽器による不気味なモチーフで始まりました。このモチーフもその後,何回も出てきましたので,しっかりと耳に残りました。第2楽章と第3楽章では,安永さんのヴァイオリンのしっとりとした音もじっくりと堪能できました。第4楽章はヴィヴァーチェなのですが,ここでも密度の高さよりは,どこかのどかな気分を感じました。

というわけで,室内楽編成とオーケストラ編成の中間的な編成という滅多に聞くことできない,このシリーズならではの編成を楽しむことができました。以前,ウィーン・フィルの奏者がやはり9人ぐらいの編成でウィンナ・ワルツやポルカを演奏するのを聴いたことがありますが(ウィーン・リング・アンサンブルだったと思います),時にはこういう雰囲気も面白いなと思いました。

この日の公演は,石川県立音楽堂の向かい側にある金沢フォーラスが協賛しており,スターバックス・コーヒーが会場入口付近に店を出していました。交流ホールはもともと気楽な雰囲気があるのですが,このシュポアの曲のムードにも似合う気がしました。例えば,交流ホール全体を”模擬カフェ”にして,気楽な音楽をスターバックスコーヒーを飲みながら気楽に聞くという試みがあっても面白いかなと思いました。

OEK室内楽シリーズの第3回は10月に行われる予定ですが,ピアノ三重奏,弦楽四重奏を超える大編成の室内楽を交えたOEK団員プロデュース・シリーズには今後も期待したいと思います。(2007/07/26)









今日のサイン会
今回も,終演後,安永徹さんと市野あゆみさんによるサイン会がありましたが,先週頂いたばかりでしたので,今回は参加いたしませんでした。

交流ホールの風景

今回も1階の通路からのぞき込むことができました。


終演後,サイン会を行う,安永さんと市野さん


この日は,地下の出口から出てみました。


金沢駅に向かう辺りには,演奏会を振り返る写真が飾られていました。


日本オーケストラ連盟関連のポスターです。

CD情報

安永さんとOEKのCD