弦楽四重奏曲でめぐるモーツァルトの旅:その7 二人の父レオポルトとヨゼフ
2007/07/27 金沢蓄音器館 |
モーツァルト/弦楽四重奏曲第17番変ロ長調,K.458「狩」
モーツァルト/弦楽四重奏曲第18番イ長調,K.464
(アンコール)/弦楽四重奏曲第17番変ロ長調,K.458「狩」〜第4楽章
●演奏
クワルテット・ローディ(大村俊介,大村一恵(Vn),大隈容子(Vla),福野桂子(Vc))
金沢蓄音器館でオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽メンバーを中心として行われている「弦楽四重奏でめぐるモーツァルトの旅」の7回目に出かけてきました。第1ヴァイオリンの大村さんは,今回演奏された2つの曲の間にモーツァルトの人生の転機があると語られていましたが,このシリーズもいよいよ佳境に入ってきた感じです。
「二人の父レオポルトとヨゼフ」というサブタイトルは,アマデウス・モーツァルトの実の父レオポルト・モーツァルトとハイドン・セットを献呈したヨゼフ・ハイドンのことを指しています。アマデウスは,レオポルトに反発する一方,ヨゼフを尊敬していました。ヨゼフの方は,レオポルトに対して「あなたの息子さんは最高の作曲家だ」という賛辞を送っています。この辺の微妙な親子の心理の”綾”が人間ドラマを感じさせてくれます。そのこともまた音楽にも反映しているのかもしれません。
今回,モーツァルトの円熟期の傑作ハイドン・セットの中の2曲が演奏されたわけですが,ひとくくりにされることの多い,ハイドン・セットを作曲している間にモーツァルトの人生はかなり変化したという大村さんのお話が大変興味深いものでした。図式的に言うと,
年 |
出来事 |
ハイドン・セットの作曲時期 |
1781年 |
モーツァルト,ウィーンへ |
|
1782年 |
コンスタンツェと結婚 |
第14番「春」 |
1783年 |
第1子の出産 |
第15番,第16番 |
1784年 |
モーツァルトの人気の絶頂期
フリーメイソンに入団 |
第17番「狩」 |
1785年 |
ハイドン・セットの出版 |
第18番,第19番「不協和音」 |
という感じになります。第17番「狩」は曲想そのままに,お客さんの好みを考えて作った名曲,第18番の方は,現代に残る傑作が続出した後期(しかし生活的には落ち目になっていく)への入口的な作品という位置付けになります。
■弦楽四重奏曲第17番変ロ長調,K.458「狩」
最初に演奏された17番「狩」は,モーツァルトの弦楽四重奏曲の中でも最も”キャッチー”なメロディを持つ曲で,全体のバランスも大変良い作品です。大村さんのお話によると携帯電話の”着メロ”にもこの曲はあるそうです。
クワルテット・ローディの演奏は,いつもどおり,じっくりと曲を味わい尽くすようなものでした。今回は特に響きが充実しているように感じましたが,これはやはり曲の良さによるのかもしれません。「狩」のタイトルの由来にもなった第1楽章には素朴な楽しさがにじみ出ていましたが,渋味を感じさせる第3楽章も印象的でした。
- 第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ,変ロ長調,6/8,ソナタ形式
- 第2楽章 メヌエット,変ロ長調,3/4
- 第3楽章 アダージョ,変ホ長調,4/4,展開部を省略したソナタ形式
- 第4楽章 アレグロ・アッサイ,変ロ長調,2/4,ソナタ形式
前半は,この後,大村さんのトークが入り,第18番の第4楽章の別稿の断片が演奏されました。穏やかでとても感じの良い曲でしたが,こういうCDなどにも入ることのない断片的な部分まで演奏してくれるのが,このシリーズのお得なところです。
■弦楽四重奏曲第18番イ長調,K.464
後半に演奏された第18番は,私自身初めて生で聞く曲でした。予習で聞いたCDの印象だと,ちょっと捉えどころのない曲だなと思っていたのですが,大村さんの「不思議な霊感に満ちていて...聞いているうちにウトウトしてしまうような(?!)曲です」といった話を聞くと俄然が増します。実際に生演奏を聞くと,「これは,なかなか個性的な曲だ」と印象が変わりました。ベートーヴェンが大変好んだ曲で,彼の作品18の弦楽四重奏はこの曲を参考にしたとのことです。同じモチーフを繰り返ししつこく使うような作品でしたので,その理由が分かるような気がしました。
- 第1楽章 アレグロ,イ長調,3/4,ソナタ形式
- 第2楽章 メヌエット,イ長調,3/4
- 第3楽章 アンダンテ,ニ長調,2/4,変奏曲
- 第4楽章 アレグロ・ノン・トロッポ(自筆譜はアレグロ),イ長調,2/2,ソナタ形式
第17番の方は,お客さんの耳を意識した曲だったのに対し,第18番の方は,モーツァルトが自分自身のために作曲上のチャレンジを行った曲なのではないかと思います。そういう意味で,今回のプログラムはとても面白いカップリングでした。
曲はかなり規模が大きく,多分,30分以上は掛かっていたと思います。演奏時間的に言うとモーツァルトの弦楽四重奏曲の中でいちばん長いのではないかと思います。演奏の方も第1楽章の冒頭部分からゆったりと演奏していました。このモチーフがユニゾンになったり,対位法的になったり,いろいろと料理されていくことになります。
その中で面白かったのが第3楽章の長大な変奏曲です。主題がしみじみとそして多彩に展開され,次第に短調になっていきます。そのうちにチェロのリズムが「タンタカタンタン...」と行進曲的な感じになって行きます。この意外性も独特です。弦楽四重奏曲の楽章としては珍しい曲だと思います。第4楽章は,通常の曲と違い,元気良く終わるのではなく,フッと力が抜けるような感じになります。このさり気なさも何とも言えず格好良いものでした。
今回は実演でじっくりと楽しむことができましたが,今度はCDの方でもじっくりと味わってみたいと思います。聞くほどに味が出る曲なのではないかと思います。最後に「アンコールらしいアンコール」ということで,「狩」の最終楽章が演奏されて,お開きとなりました。
今回,大曲二曲を演奏されたクワルテット・ローディの皆さんも大変だったと思いますが,聞く方もなかなか歯ごたえがありました。主催者の方のお話によると,今回はリハーサルを何回も何回も行われたということです。このシリーズも曲の充実度が増すに連れて,ますます演奏の方も充実して来てるのではないかと思います。
PS.恒例のトークコーナーですが,今回は客席のお客さんに「何かお尋ねはありませんか?」という新たな試みがありました。視聴者参加型コンサートというのも良いアイデアですが...いきなりだと,やはりちょっと恥ずかしいかもしれません。
PS.もう一つのお楽しみのワインですが,この日はドイツのシャンパン(モーゼル・ワインの辛口)がサービスされました。シャンパンについては,イタリアではスプマンテと呼ばれますがが,ドイツではゼクトと呼ばれるということです。こちらの方も実地の勉強(?)を始めるとハマリそうです。
PS.こちらも恒例の「金沢の甘いもの」の話題もありましたが...こちらも後日,実地確認し,別途報告てみたいと思います。(2007/07/28)
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