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2007ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭シューベルト・フェスティバル
オーケストラ・アンサンブル金沢第229回定期公演PH
2007/10/03 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューベルト/歌劇「アルフォンゾとエストレルラ」序曲
2)シューベルト/交響曲第7番ロ短調D.759「未完成」
3)シューベルト/交響曲第8番ハ長調D.944「ザ・グレイト」
●演奏
大山平一郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
Review by 管理人hs  
ちょっと暗くなってしまいました。

一歩ホールに入ると,こういう楽しげな雰囲気になります。

ソプラノの中田留美子さんとマインハルト・プリンツさんによるプレコンサートが行われていました。私が着いた時は「シルヴィアに」を歌っていました。
こちらは終演後の交流ホールです。放課後の音楽室のように,ピアニスト(田島睦子さん?)が一人でシューベルトのピアノ・ソナタ第21番の第1楽章の最初の和音の響きを何回も何回も確認していました。こういう雰囲気も良いですねぇ。




”2年に一度”,石川県立音楽堂を中心に金沢市内で行われているビエンナーレいしかわ秋の芸術祭の今年のテーマはシューベルトです。10月2日から10月7日まで,「シューベルト・フェスティバル」と題して,オーケストラ公演,室内楽公演,声楽公演,ピアノ・リサイタル,子供向け公演など連日盛り沢山の演奏会が行われていますが,その2日目の公演に出かけてきました。この日は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演とも兼ねていたのですが,音楽堂の入口付近のシューベルトにちなんだ売店やカフェが並び,通常の定期公演にはない,華やいだ気分に満ちていました。

この公演は,当初,ペーター・シュライヤーさんが指揮される予定でしたが,シュライヤーさんの体調が悪く,来日できなくなったため,大山平一郎さんに変更になったものです。シュライヤーさんの指揮が聞けなかったのは非常に残念でしたが,大山さんの作る音楽も,大変充実したものでした。

大山さんの指揮を聞くのが今回が初めてのようなものですが(一度,ファンタジー公演で聞いた記憶があります),大変緻密で,しっかりと計算された音楽を聞かせてくれました。大山さんはヴィオラ奏者出身ということですが,音楽作りにもその経験が生きているのではないかと感じました。

最初に演奏された,歌劇「アルフォンゾとエストレルラ」序曲は,ほとんど演奏される機会のない珍しい曲です。どこかデモーニッシュな雰囲気のある曲で,大変聞き応えがありました。冒頭の音から,大山さんのただならぬ気迫が伝わり(何かドシンというような音が聞こえました),これから何ごとが始まるのだろうという気分になりました。OEKの音色は,井上道義さん指揮の時よりも,艶を消したような落ち着いた渋さを感じましたが,この辺も大山さんのキャラクターが反映しているような気がしました。

その後は,「未完成」「ザ・グレイト」と交響曲が2曲というプログラムです。協奏曲なしで,交響曲2曲というプログラミングは意外に珍しいと思います。私が中学生の頃,カール・ベームが,ホーエネムスというところで行われたシューベルティアーデ(今回のシューベルト・フェスティバルのような音楽祭)で,この2曲を指揮したライブがFMで放送されたのですが,この時の演奏が私のこの2曲の原点のような気がします。90分テープ(懐かしい響き)にこの2曲を録音したものが我が家に残っているはずなので,そのうち復刻したいと考えています。

というわけで,話が逸れてしまいましたが,交響曲2曲というのは「巨匠のプログラミング」とも言える組み合わせです。協奏曲のような華やかさがない分,オーケストラの響きと機能をのみを堪能できました。

まず,「未完成」の方ですが,第1楽章は大変ゆっくりとしたテンポで始まりました。冒頭の低弦の後,ヴァイオリンによる刻みが始まりますが,この辺が非常にデリケートでした。緊張感をぐっと抑え込んだような怖さ,不気味さがありました。第2主題のチェロもしっかりとコントロールされており,美しいけれども甘さは感じませんでした。このように独特の抑制感と粘り気のある雰囲気で始まりましたが,次第に強い響きがバシっと出てくるようになり,スケールの大きさを増していきます。テンポが非常に遅かったこともあり,ちょっと乱れを感じることもありましたが,とてもミステリアスな気分のある演奏でした。

演奏の解釈が分かれている,第1楽章の最後の音ですが,力強く「ジャーン」と伸ばした後,ちょっとデクレッシェンドするようなものでした。最近はこの形が定番のようです。呈示部の繰り返しも行っていました。

第2楽章の方は,とても軽やかな雰囲気で始まりました。第1楽章の暗さと明確なコントラストが付けられており,爽やかな軽みを感じました。途中に出てくる,クラリネットの遠藤さん,オーボエの加納さん,フルートの岡本さんとソロが続く部分は,いつもながら絶妙のメロディの受け渡しを堪能できました。ただし,この楽章もこの辺から暗くなり,気迫に満ちた響きに覆われてきます。その後のコーダがその分,非常に透明感のあるものになっていました。

コーダ付近では,ホルンのソロが出てきますが,この日は金星さんの代わりに,ベン・ジャックスさんという方が参加されていました。とても存在感がありましたので,どういう方か調べてみたのですが,どうもシドニー交響楽団の方のようです。
http://www.sydneysymphony.com/page.asp?p=75

この日のティンパニーは,トーマス・オケーリーさんでしたが,岩城さん以来のオーストラリアとの交流は続いているようです。

後半の「ザ・グレイト」は,このベン・ジャックスさんと山田さんのユニゾンによるホルンの信号で始まります。ピタリと息が合っていながら,緊張したところがなく,のびのびした気分がありました。この序奏部分はその後も緩やかで,どこか即興的な気分がありましたが,第1主題部になると一気に引き締まった感じになります。この気分の鮮やかな変化が見事でした。最初リラックスさせておいた後,手綱をギュッと引き締めるような趣きがありました。

この主要部では,「タタタタタ」という音型が執拗に出てきますが,これをキビキビを聞かせる部分の充実感はOEKならではです。途中,トロンボーンが印象的なフレーズを出す部分がありますが,ここでは全体の音量をぐっと落としており,とても新鮮に感じました。コーダは,キビキビした動きがさらにスケールアップするようにテンポを落とすのですが,この部分を聞いて,「格好良いなぁ」と惚れ惚れしました。

第2主題は,オーボエが大活躍します。後半は水谷さんがトップでしたが,水も滴るような音を楽しませてくれました。楽章全体に落ち着いた歩みがありましたが,中間部になり,チェロの響きをはじめ,それにどんどん懐かしさが加わるのが大変魅力的でした。第3楽章のスケルツォは,それほど荒々しい感じではなく,さり気なく始まりました。中間部では,ところどころ大きな間が入っており,部分間のメリハリが付けられていました。この中間楽章で特に感じたのですが,各楽器の合いの手の入れ方が室内楽的な感じで,ヴィオラ奏者として室内楽も演奏されている大山さんらしさが出ているような気がしました。

第4楽章もそんなに力むところはなく,爽快な音楽を聞かせてくれました。キリっとしたリズムが執拗に繰り返されるのですが,緻密に嬉々として積み上げていくようなところがあり,退屈するところはありませんでした(奏者の皆さんは大変だったと思いますが)。この繰り返しが陶酔感を生むあたり,ブルックナーの交響曲に通じるものがあると感じました。

この公演は,シューベルト・フェルティバル全体の核となる演奏会だったと思います。その構想どおり,オーソドックスだけれども,随所に隠し味があるような味わい深い演奏となっていました。この日はアンコールなしでしたが,その点も含めて,”本格的なシューベルト”だけを堪能させてくれるような演奏会でした。(2007/10/06)

今日のサイン会
指揮者の大山平一郎さんのサインです。このCDは,タワーレコード限定で販売しているモーツァルトのピアノ四重奏曲のCDです。アンドレ・プレヴィンがピアノを演奏し,大山さんがヴィオラで参加しています。とても貴重な録音だと思います(ただし,1枚1000円でした)



OEKのメンバーからは,トム・オケーリーさん,加納律子さん,谷津謙一さんから頂きました。


アビゲイル・ヤングさんだけは,プログラムの表紙に頂きました。このプログラムはシューベルトフェスティバル全体のプログラムを兼ねていました。