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2007ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭シューベルト・フェスティバル
オーケストラと歌曲の夕べ
2007/10/06 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューベルト/イタリア風序曲第1番ニ長調,D.590
2)シューベルト(編曲者不明)/野ばら,D.257
3)シューベルト(ブリテン編曲?)/ます,D.550
4)シューベルト(モットル編曲?)/セレナード,D.957
5)シューベルト(編曲者不明)/春の想い,D.686
6)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」第3間奏曲,D.797
7)シューベルト(リスト編曲?)/魔王,D.328
8)シューベルト(レーガー編曲?)/音楽に寄せて,D.574
9)シューベルト/イタリア風序曲第2番ハ長調,D.591
10)シューベルト(編曲者不明)/アヴェ・マリア,D.839
11)シューベルト(鈴木行一編曲?)/歌曲集「冬の旅」〜第1曲「おやすみ」,第5曲「菩提樹」,第6曲「あふれる涙」,第11曲「春の夢」
12)シューベルト(鈴木行一編曲?)/歌曲集「冬の旅」〜第21曲「宿屋」,第22曲「勇気」,第23曲「幻の太陽」,第24曲「辻音楽師」
13)(アンコール)シューベルト/野ばら,D.257
●演奏
橋本美香(ソプラノ*2,3,10,13)
吉田浩之(テノール*4,5,12,13)
安藤常光(バリトン*7,8,11)
梅田俊明指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
Review by 管理人hs  

過去2回,石川県立音楽堂行われたハイドン・フェスティバル,モーツァルト・フェスティバルでは,音楽堂を本拠地とするオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のコンサートが数回行われたのですが,シューベルトは何と言っても歌曲の作曲家ということで,この日は,OEKの伴奏で歌曲を歌う公演となりました。

ただし,オーケストラ伴奏によるシューベルト歌曲というのは,OEKの十八番のようなところがあります。故ヘルマン・プライさんとは,有名な歌曲集を共演し,ドイツ・グラモフォンにレコーディングを行ったことがあります。また,鈴木行一さん編曲によるオーケストラ伴奏版「冬の旅」全曲をプライさんと共にドイツで演奏し,そのライブ録音CDも発売されています。プライさんの死後は,定期公演で,プライさんの息子さんと同じ「冬の旅」の共演をしたこともあります。

今回の公演は,梅田俊明さん指揮で国内のソプラノ,テノール,バリトン歌手によって歌い分けられるという点がポイントとなっていました。プライさんとの共演の時は,バリトンで歌える曲ということで比較的暗めの曲が続きましたが今回は,ソプラノ,テノールが加わることで,より変化のあるステージとなっていました。

まず,最初にOEKのみの演奏で,イタリア風序曲第1番が演奏されました。OEKも以前に演奏したことのある曲で,悪くはない曲ですが,「ロザムンデ」序曲を聞いた後だと,どうしても「ロザムンデもどき」に響いてしまうところがあります。ちょっと損な曲かもしれません。

その後,ソプラノの橋本美香さんによって,野ばら,ます,という最もよく知られた2曲が歌われました。橋本さんは,東京芸術大学大学院博士課程に在籍中の方ですが,すでにキャリアをかなり積んでおり,プログラムのプロフィールによると,宗教曲のソリストとしても活躍されている方です。今回の2曲も,曲の持つ初々しい気分を素直に表現されており,曲の雰囲気にぴったりでした。

ただし,声質的には,オーケストラ伴奏版よりも通常のピアノ伴奏版の方が,しっくりくるような気がしました。実は,今回のプログラムには,オーケストラ版の編曲者名が全く書いてなく残念だったのですが(これはかなり重大なミスなのではないかと思います),「ます」などは,クラリネット伴奏による楽しい雰囲気が出ていた一方で,ちょっとムード音楽的な甘さがあるかな,という気がしました。ピアノ伴奏だと,もっと理知的な雰囲気になる気がしました。

続いて登場した,テノールの吉田浩之さんは,過去,OEKとも数回共演されているおなじみ方です。今はやりの「王子」役がぴったり来る,リリックな声質は相変わらず素晴らしいものでした。個人的には,今回登場した3人の方の中ではいちばん印象に残りました。

「セレナード」は,弦楽器のピツィカートの上に艶と落ち着きのある声が広がり,心地よい世界が広がりました。威圧するのではなく,鋭く迫ってくるような声の力にも感服しました。「春の想い」の方は,吉田さんの若々しい声が曲想にぴったりでした。世の中の平和を歌にしたら,こういう感じになるのではないか,と思わせるような歌でした。

OEKのみで,お馴染みの「ロザムンデ」間奏曲第3番が演奏された後(前回の定期公演同様,クラリネットの遠藤さんとオーボエの加納さんがソロで活躍されていました),前半最後は,バリトンの安藤常光さんが登場しました。

安藤さんは,今回のシューベルト・フェスティバルの歌曲部門の責任者という感じで,いくつかのミニコンサートのナビゲータ役として登場されていましたが,ここでは,「魔王」と「音楽に寄せて」をたっぷりと歌われました。

オーケストラ伴奏版の「魔王」は,聞くたびに「マーラーの復活の出だしに似ている」と思うのですが,今回は最後のクライマックス付近でティンパニとトランペットが入ってくる部分を聞いて「ヴェルディのオペラみたいな感じだな」と感じました。「音楽に寄せて」は,素朴な感謝な歌です。ヘルマン・プライさんとOEKが共演したCDに残っているので,どうしても比べてしまうのですが,もっと陶酔的な甘さがあると良いかなぁと思いました。

後半は,イタリア風序曲の第2番がまず演奏されました。こちらの方は,ロッシーニ風のクレッシェンドがあったりして,よりイタリア風の序曲だと感じました。

橋本美香さんによってアヴェ・マリアがすっきりと歌われた後,その後はOEKの十八番である,オーケストラ伴奏版「冬の旅」の抜粋が歌われました(この編曲は,鈴木行一さんだとは思いますが,テノールによって歌われる曲もありましたので確かなことは言えません)。

今回の「冬の旅」ですが,前半12曲からの4曲を安藤さんが,後半12曲からの4曲を吉田さんが歌いました。前半の4曲は「おやすみ」「菩提樹」「あふれる涙」「春の夢」という有名曲が並んでいましたが,今回聞いた感じでは,通常は暗く難解に感じる,後半4曲の方が新鮮に感じました。

前半の4曲を聞いた後は,やはり「冬の旅」はバリトンによって,渋く歌われるのが相応しいと思ったのですが,後半の吉田さんの歌を聞いて,輝かしいテノールで歌われるのも良いなぁと感じました。

第21曲「宿屋」の最初の部分で弱音の美しさを聞かせた後,大河ドラマの音楽のようにグーッと盛り上がる辺りはオーケストラ伴奏版の面白さが出ていたと思いました。

最後の「辻音楽師」は,ピアノ伴奏版では,極限まで色彩感を無くしているようなところがあるのですが,鈴木行一さんによるオーケストラ伴奏版だと,後期ロマン派的な色彩感が感じられます。水谷さんによるくすんだオーボエの音がずっと短調な伴奏を続けた後,最後の最後だけオーケストラ全体で一音強い音を入れる辺りが本当に見事です。マーラーの「大地の歌」には,テノール独唱が入りますが,今回もバリトンではなくテノールで歌われることにより,さらに「大地の歌」に似た雰囲気になっていたと思いました。

今回,個人的には吉田浩之さんの登場する歌に特に強くひかれたのですが,もしも機会があるならば,オーケストラ伴奏版「美しい水車屋の娘」などを吉田さんのソロで聞いてみたいものだと思いました。

アンコールでは,吉田さんと橋本さんによって「野ばら」が歌われました。デュエットではなく,2番の途中まで吉田さんが歌い,その後を橋本さんが引き継ぐ形になっていました。このアンコール曲を安藤さんが紹介されたのですが,「「野ばら」は3番まであるので本来3人で歌うと良いのですが...バリトンだけは調が合わず歌えません。それで私がこうやってご説明しています」という感じでとても面白く説明されていました。

今回のシューベルト・フェスティバルでは,前回のモーツァルト・フェスティバルに比べると大変バラエティに富んだ内容になっていました。この日の公演を聴きながら,やはり,有名な歌曲が沢山あるのが,その多彩さの理由かなと感じました。(2007/10/08)

終演後,少々おなかがすいたので,夜の公演に備えて,軽く食事をすることにしました。


ジャーマン・ソーセージ・ドッグを食べました。



そうこうしているうちに,エーデルワイス・カペレの皆さんの演奏が始まりました。