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弦楽四重奏曲でめぐるモーツァルトの旅:その8 スペシャル開催
2007/10/23 金沢蓄音器館
1)モーツァルト/弦楽四重奏曲第19番ハ長調,K.465「不協和音」
2)モーツァルト/弦楽五重奏曲第ハ短調,K.406
3)(アンコール)モーツァルト/弦楽五重奏曲第ハ短調,K.406〜第4楽章
●演奏
クワルテット・ローディ(大村俊介,大村一恵(ヴァイオリン),大隈容子(ヴィオラ),福野桂子(チェロ)),ジークフリート・ヒューリンガー(ヴィオラ*2,3)
Review by 管理人hs  

金沢蓄音器館でクワルテット・ローディによって行われている「弦楽四重奏でめぐるモーツァルトの旅」の8回目に出かけてきました。このシリーズも終盤に入り,今回演奏された第19番「不協和音」で「ハイドン・セット」も完結したこことになります。これで,大きな山場を超えたことになります。

今回は,さらに特別企画ということで,ジークフリート・ヒューリンガーさんという元ウィーン交響楽団員,元ウィーン六重奏団員のヴィオラ奏者がゲストで加わり,弦楽五重奏曲も演奏されました。四重奏以外の曲が演奏されるのは,ちょっと”ルール違反”ではありましたが,この演奏が大変素晴らしい演奏でした。今回は,「特別企画」ということもあり,大変なお客さんの入りでしたが(もしかしたらこれまで最高?),その期待どおりの演奏会となりました。

ただし,今回はあまりにも沢山の人が入っていたので,何となくラッシュアワーのバスに乗っているような気分でした。後半は,自然に椅子の位置がずれて,微調整されたお陰で,少しゆとりが出ましたが,前半は,隣の人との距離が近すぎて,ちょっと演奏に集中できない部分もありました。

■弦楽四重奏曲第19番ハ長調,K.465「不協和音」
このように前半の「不協和音」の方はボーッとなって聞いていました。しかもこの曲の肝心の冒頭部分で,同じ部屋内にあるドリンクの自動販売機のノイズが大きくなり(周期的にノイズが大きくなったり小さくなってりする冷蔵庫のようなノイズ),この点でも演奏の方に集中できない部分がありました。この点もちょっと残念でした。

さて,この曲ですが前回聞いた第18番の作曲の直後の5日間ほどに書かれたものです。「不協和音」というのは,第1楽章序奏の「掟破り」の和音から来ているものですが,その後は一点の迷いもない古典的な雰囲気になります。この対比が面白い曲です。クワルテット・ローディの演奏は,いつもどおり大げさになりすぎることなく,しかし,じっくりと聞かせてくれる演奏でした。

このシリーズでは,毎回大村俊介さんが,曲の聞き所を細かく解きほぐすように紹介をして下さるのですが,今回はゲスト奏者がいらっしゃった関係で,その分析がありませんでした。特に序奏部の和音についての解説は是非聞いてみたかったのですが...。また別の機会にお願いしたいと思います。

  • 第1楽章 [序奏]アダージョ,3/4−[主部]アレグロ,ハ長調,4/4,ソナタ形式
  • 第2楽章 アンダンテ・カンタービレ,ヘ長調,3/4,展開部を欠いたソナタ形式
  • 第3楽章 メヌエット,アレグロ,ハ長調,3/4
  • 第4楽章 アレグロ・モルト,ハ長調,2/4,ソナタ形式

前半の最後では,今回のゲスト・ヴィオラ奏者のジークフリート・ヒューリンガーさんの紹介がありました。今回,クワルテット・ローディとの共演が実現したのは,たまたま仲介される方がいらっしゃったからです。ヒューリンガーさんは,ヴィオラのマスタークラスのために日本によく来られているのですが,それ以外にも知人を訪れるためにプライベートで金沢に数回来たことがあるとのことです。その仲介の方の見事なアイデアで,うまい具合に共演が実現しました。

大村俊介さんはドイツ語でインタビューをされていましたが,ヒューリンガーさんは大変日本文化にお詳しい方で,特に禅の世界に関心があるようです。金沢にある禅宗のお寺の大乗寺で座禅をされたこともあるというのには驚きました(今回の来訪では,「ホテルでします」とのことでした)。

■弦楽五重奏曲第ハ短調,K.406
後半は,このヒューリンガーさんが加わって,ヴァイオリン×2,ヴィオラ×2,チェロ×1の編成で演奏されました。今回演奏された,ハ短調の弦楽五重奏曲はもともとは,管楽器のためのセレナード「ナハトムジーク」ですが,それをモーツァルト自身が,改訂したものです。ト短調の弦楽五重奏曲に比べると演奏される機会は少ないのですが,大変聞きごたえのある曲でした。楽章の構成は次のとおりです。

  • 第1楽章 アレグロ,ハ短調,4/4,ソナタ形式
  • 第2楽章 アンダンテ,変ホ長調,3/8,短いソナタ形式
  • 第3楽章 メヌエット・イン・カノーネ,ハ短調,3/4
  • 第4楽章 アレグロ,ハ短調,2/4,8つの変奏とコーダ

第1楽章はハッとさせるような印象的な暗い主題でユニゾンで始まります。この部分から,いつもの四重奏の時に比べて,音がとても豊かになっていることがすぐに分かりました。ヒューリンガーさんはヴィオラということで,単純に音を刻むような伴奏を担当される部分がありましたが,そういう部分でもとても音楽が生き生きしており,落ち着いた演奏なのに躍動感を感じさせてくれました。

第2楽章は緩やかな楽章で,さらに音楽はふくよかさを増していました。聞きながら,大輪の花がゆったりと開くような印象を持ちました。第3楽章はカノンとメヌエットが混じったような楽章で,独特の緊張感のある楽章でした。第4楽章は短調の主題による変奏が続いた後,最後は晴れやかに結ばれます。全体にとても穏やかな感じで進んでいましたので,コーダの部分が唐突に明るくなる感じはありませんでした。

このように,曲全体に豊かな気分が満ちた演奏でした。ヒューリンガーさんが加わることで,品の良い香りのする香水を1滴たらしたように,音楽の魅力が増してました。今回演奏されたのは,短調の曲だったのですが,暗さよりもおおらかさな気分を感じさせてくれたのも良かったと思いました。

このシリーズもこれで8回目が終わりました。いよいよ残りは,20番から23番の4曲(2回分?)です。そうなると,「その後」が気になったりしますが,今回ゲスト出演された,ヒューリンガーさんとのご縁を生かして,弦楽五重奏曲の他の曲を演奏するのも一つのアイデアだと思います。それ以外にも,モーツァルトにはいろいろな室内楽曲がありますので,まだまだネタは尽きそうにないですね。

PS.この日は,石川県立音楽堂では,定期公演の前々日ということで池辺晋一郎さんとオリバー・ナッセンさんとのトークが行われていたようです。こちらも面白そうな内容でしたが,やはり,「シリーズもの優先」ということにしました。(2007/10/24)