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クリスマス・メサイア公演
2007/12/09 石川県立音楽堂コンサートホール
1)パッヘルベル/カノンニ長調
2)新井満/千の風になって
3)フランス曲/ディンドン空高く
4)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル)
5)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋,11,19,21,25,29-32,34-39,41,43,49-52曲は省略)
6)(アンコール)きよしこの夜
●演奏
ゲアノート・シュマルフス指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*4-6
北陸聖歌合唱団(合唱指揮:朝倉喜裕)*5-6,OEKエンジェル・コーラス,北陸学院高等学校聖歌隊(2,6)
朝倉あづさ(ソプラノ*4),小泉詠子(メゾ・ソプラノ*4),君島広昭(テノール*4),増原英也(バリトン*4)
春日敏美指揮北陸学院高等学校ハンドベルクワイヤ*1-3
Review by 管理人hs  
演奏会の看板です。

この日は,いつもとは違い,地下入口から入ってみました。天候の悪いときなどは便利ですね。
地下入口には,このような案内が出ていました。

年末恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と北陸聖歌合唱団によるクリスマス・メサイア公演に出かけてきました。金沢ではここ数年,OEKが第9交響曲を演奏する機会がありませんので(全国的にかなり珍しいオーケストラだと思います),私にとって年末と言えば「メサイア」です。恐らく,こちらの方が欧米の標準に近いのではないかと思います。

昨年のメサイア公演は平日の夜に行われたのですが,今回は例年通り休日の午後に行われましたので,時に厳粛な気分を交えながらも,ゆったりと「正しい金沢のクリスマス気分」を味わうことができました。

今年の特徴は,メインプログラムの「メサイア」が演奏される前に,かなり沢山の曲が演奏された点です。OEKエンジェル・コーラスを加えてのクリスマス・ソング集は定番ですが,その前に北陸学院の生徒によるハンドベルの演奏が入りました。演奏自体はとても素晴らしかったのですが,「メサイア」の演奏時間と合わせると,聞く方は大変だったかもしれません(15:00に始まり,休憩2回とアンコールを含め,18:00少し前に終わりました)。

今回のハンドベル演奏ですが,以前聞いた時とは違い,パイプオルガンの前の高いステージで演奏されました。視覚的に楽しめたのに加え,演奏後も楽器をそのままにしておけば良いので,演奏会の進行上も好都合だったのではないかと思います。お馴染みのパッヘルベルのカノンでは曲が進むにつれて,音が増えていく面白さを味わえました。曲の終盤で全員が別々の動きをしているような速い動きの部分は壮観でした。今年いちばんのヒット曲「千の風になって」は,とてもすっきりとした演奏で,オルゴールか何かを聞いているような心地良い気分が残りました。最後の「ディンドン高く」という曲では,ベルなのにあまり金属的でない音も使っており,多彩な響きを楽しむことができました。

続くクリスマス・メドレーは,毎年恒例のコーナーです。数年前に亡くなられた榊原栄さん編曲によるオーケストラ伴奏による合唱版なのですが,こうやって歌い継がれているのは素晴らしいことです。歌い方もアレンジもとても素直で,暖かなクリスマス気分が率直に伝わってきました。合唱団の声もとてもよく出ていたのではないかと思います。

ここで10分の休憩が入った後,「メサイア」がハイライトで演奏されました。今回は,クリスマス・シーズンに相応しい第1部をほぼ全曲演奏し,第2部,第3部は有名曲のみを演奏するという感じで構成されていました。第1部の後に休憩が入っていましたが,とても良いバランスだったと思いました。

今回の指揮者は,ゲアノート・シュマルフスさんでした。北陸聖歌合唱団との共演は通算3回目ということになります。シュマルフスさんはとても正統的で,ピシっと締まった音楽を作っていましたが,冷たい感じはなく,最後のアーメン・コーラスに向けて,どんどん演奏が熱くなって行くようなところがありました。ライブならではの,ちょっとスリリングな感じのする演奏でした。それと何と言っても100名を超える合唱団のたっぷりとした響きが魅力でした。

オーケストラの配置ですが,以下のとおり古典的な対向配置となっていました。ティンパニもバロック・ティンパニを使っていました。ただし,弦楽器のヴィブラートは控えめでしたが,古楽奏法にこだわった演奏という感じではありませんでした。また,4人のソリストが合唱の前に居たのも今回の配置の特徴だったと思います。

合唱 S   A   T   B
独唱 S  MS  T   Br

   Fg Org Cem Ob Timp
     Cb Vc Va     Tp
    Vn1 指揮者 Vn2

序曲はとてもしっとりとした響きで始まりました。しばらくして出てくるキビキビとした部分とのコントラストがとても鮮やかでした。この日はアビゲイル・ヤングさんがリーダーでしたが,こういうキビキビした部分でのキレの良さはOEKならではです。

続いてテノール独唱になります。序曲の後の静かな空気の中からテノールの声がスーッと出てくるのを聞くたびに「メサイアだ!」と気分が高まるのを感じます。この曲は,ハイライト版でも欠かせない曲です。テノールの君島さんは,昨年に続いての登場ですが,とてもリリックで上品な歌を聞かせてくれました。

暖かな気分を持った合唱の後,バスとメゾソプラノの独唱が続きました。どちらもOEKの「メサイア」公演に初登場の方ですが,素晴らしい歌を聞かせてくれました。バリトンの増原英也さんは,とても若々しく,張りのあるしびれるような声の方でした。外見の方もなかなか印象的でした。

メゾ・ソプラノの小泉詠子さんは金沢出身の方で,今年の日本音楽コンクールの声楽部門で3位に入賞されている方です(このことはもっと地元で大きくとりあげられても良いニュースだと思うのですが,あまり大きく報道されていないようです。)。しかも,3月に金沢歌劇座で行われるOEKによる「カルメン」公演で主役を歌うことになっています。というわけで,地元注目の歌手なのですが,その瑞々しさと落ち着きを兼ね備えた素晴らしい歌を聞いて,その期待がさらに膨らみました。「注目の新星現る」と言えます。

「ワンダフル」という言葉がしっかりと響いた12番の合唱の後(正直なところ,私のヒアリング能力ではこの言葉(とその次の「カウンセラー」)ぐらいしか聞き取れないのですが),田園交響曲となり,クリスマスの場面になります。

この部分の主役は,お馴染みのソプラノの朝倉あづささんです。毎年書いているとおり,私にとって,この方の声が「デフォルト」ですので,安心して音楽に浸ることができました。安定したソロと若々しい可憐な声質は,この場面にぴったりです。続く「高きところには栄光」の合唱の部分で初めてトランペットが入るのですが,そのキビキビとした輝かしい音も印象的でした。その後,「地には平和」と続くのですが,この部分では対照的にとても静かで落ち着いた気分になり,鮮やかなコントラストが表現されていました。

第1部最後のメゾ・ソプラノ→ソプラノと続くアリアは,とても流れがスムーズでした。聞いているうちに,これは田園交響曲のエコーなのだな,と実感できました。

第2部と第3部は,省略された曲がかなりあったこともあり,休憩なしで演奏されました。プログラムに書いてありながら数曲カットされていた曲もありましたが,この辺は演奏会全体の長さとの関連があったのかもしれません。シュマルフスさんの指揮も心なしか第1部の時よりはテンポが速かったように感じました。しかし,前述のとおり,このことが合唱曲を中心に演奏全体に熱気を加えていたようにも思えました。

後半では,まず,第23番のメゾ・ソプラノのアリアが心にしみる素晴らしい歌でした。第40番のバリトンによるスピード感たっぷりの歌は,とてもスマートで格好良いなぁと思いました。OEKの弦楽器の表現力も聞きものでした。

第33番の合唱曲も欠かせない曲です。歌詞どおり,輝きに満ちた歌だったと思います。そして,第2部最後のハレルヤ・コーラスです。ここでは4人のソリストも立ち上がって一緒に歌っていましたが,本当に晴れやかなハレルヤ(良い語呂合わせです)となっていました。特にバロック・ティンパニとトランペットの効果が目覚しく,爽快な盛り上がりを作っていました。このハレルヤ・コーラスですが,短い曲ながら,毎年毎年,違った表情の演奏を楽しむことができます。やはりこの曲を鑑賞する際のいちばんのポイントだと思います。

第3部からは5曲演奏されましたが,どの曲もおなじみの曲でした。45番のソプラノのアリアは,ハレルヤ・コーラスの直後ということで,この曲を聞きながら途中で抜け出す人が見られましたが,大変もったいないことです。私は,この曲の落ち着いた雰囲気が大好きです。朝倉さんの情感豊かな歌は,体の中にしみ込んでくるようでした。

次の46番の合唱曲は,静寂のコントラストがはっきりしている曲です。歌詞の内容から言っても,レクイエムのような雰囲気のある曲です。途中,突然速くなる部分でのキビキビとした感じも印象的でした。そして,トランペットがソリストと共に活躍する48番のバリトンのアリアになります。今回は,OEKの藤井さんがソロを担当していました。藤井さんは,先月富山で行われたクリスマス・オラトリオでも大活躍されていましたので,すっかりバロック音楽づいている感じです。この日の演奏は,途中,「おやっ」という部分が一瞬あったのですが,晴れやかな歌に溢れた演奏で,曲の雰囲気にぴったりでした。バリトンの増原さんの声もこのトランペットに負けない輝かしいものでした。低音の歌手とは思えない華やかさを持った方だと思いました。

そして,最後はアーメン・コーラスで締められます。前半は,大変がっちりとした雰囲気で始まりました。この部分でも,前曲に続いてトランペットが祝祭的な気分を盛り上げていました。アーメンのフーガになった後,一瞬弦楽器だけの演奏で美しく絡み合う部分になりますが,ここも大変印象的です。アーメンの繰り返しの部分では,4人のソリストも一緒に歌っていましたが,全曲のクライマックスとなる大変スケールの大きな頂点を築いていました。この部分では,バロック・ティンパニの素晴らしい音が特に効果的でした。ティム・コーケロンさんという客演の方が演奏されていましたが,大変切れ味の良い音で全曲をビシっと締めてくれました。

アンコールでは,これもまた恒例の「きよしこの夜」が,出演者全員で歌われました。この曲のたっぷりとした響きと余韻を味わいながら,今年も何とか無事に年末を迎えることができた安堵感をかみ締めてホールを後にしました。
(2007/12/01)

音楽堂周辺の
クリスマスの光景
音楽堂内部&周辺もすっかり年末らしい装いとなっていました。写真で紹介しましょう。

入口の左右にツリーが登場していました。


向かって右側のツリーはこういう感じです。


終演後,向かって左側のツリーにはこういうイルミネーションが点灯していました。これはクマでしょうか?


デパートのショーウィンドウのように見えますが音楽堂です。


玄関には,クリスマス飾りがありました。その横にはサンタクロースが居ました。


交流ホールでは,別の公演も行われていました。こちらはクリスマス・キッズコンサートです。


こちらは音楽堂の向かいの金沢フォーラスの入口です。青っぽいイルミネーションが流行のようです。


金沢駅のドームです。クリスマス飾りではありませんが,なかなか幻想的な雰囲気があります。