OEKfan > 演奏会レビュー
菊池洋子&木管五重奏
2007/12/11 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/ディヴェルティメント第14番変ロ長調K.270
2)モーツァルト/ピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調K.452
3)武満徹/雨の樹:素描
4)リゲティ/ムジカ・リチェルカータ〜第1,2,3,4,6,7曲
5)シュトラウス,R.(カーブ編曲)/ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら,op.28(ピアノと木管五重奏版)
6)(アンコール)ブラームス/セレナード第1番〜メヌエット
●演奏
菊池洋子(ピアノ*2-6),岡本えり子(フルート*1,5,6),加納律子(オーボエ*1,2,5-6),柳浦慎史(ファゴット*1,2,5-6),コンスタンチン・ティモキン(ホルン*1,2,5-6),原田綾子(クラリネット*1,2,5-6)
Review by 管理人hs  
この日のパンフレットと終演後のサイン会で頂いた菊池さんのサインです。このCDは,井上道義さん指揮OEKと共演したモーツァルトのピアノ協奏曲第20番他のCDです。

今回と同じ編成で,菊池さんが木管合奏と共演して,モーツァルトのピアノ五重奏曲とティルを収録した録音です。

12月になってからも,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーによる室内楽公演が頻繁に行われていますが,この日は,ピアニストの菊池洋子さんとOEKメンバーによる木管五重奏の演奏会に出かけてきました。この公演は,室内楽公演にしては珍しく,石川県立音楽堂のコンサートホールで行われました。会場はさすがに空席が多かったのですが,のびのびとした空間の中で,ピアノと木管楽器のアンサンブルを楽しむことができました。

菊池洋子さんは,OEKとのCD録音をはじめとして,金沢のクラシック音楽ファンにはすっかりお馴染みの方ですが,今回の演奏では,これまでとは少し違った雰囲気のレパトリーを披露してくれました。前半のモーツァルトから後半のリヒャルト・シュトラウスまで,6人という少ない人数にも関わらず,万華鏡のように多彩なプログラムを楽しませてくれました。

最初の曲は,菊池さん以外の5人の奏者のみによる演奏でした。OEKの岡本えり子さん(フルート),加納律子さん(オーボエ),柳浦慎史さん(ファゴット)に客演の原田綾子さん(クラリネット),コンスタンチン・ティモキンさん(ホルン)が加わった編成で,次のような形に並んでいました。
  
    Fg
  Ob   Hrn
Fl        C
l

演奏されたディヴェルティメント第14番は,めったに演奏されない曲です。それほど個性的な曲ではありませんでしたが,とてもまとまりの良い曲で,4楽章構成ということもあり,どこか交響曲のミニチュア版といった感じの可愛らしさをもった曲でした。顕微鏡をのぞき込んでみると,完全なバランスを持った結晶が見えて感激―といった新鮮さがありました。演奏の方もひたすら清澄で,気持ちの良い明るさを持ったものでした。

2曲目のピアノと木管のための五重奏では,フルートの岡本さんが引っ込み,代わりにピアノの菊池さんが加わりました。こちらの方は,モーツァルト自身の脂の乗り切った時期に書かれた作品です。第20番以降の後期のピアノ協奏曲の雰囲気に近い気分を持っており,大変聞き応えがありました。

まず,非常にしっとりとした雰囲気の序奏で始まりました。とげとげしい部分がなく,包み込むような穏やかさがありました。菊池さんのピアノもバランス良く管楽器と溶け合っているなぁ,と思って聞いていたのですが...そのうちにホルンの音がいつもと違うことに気づきました。ホルンのティモキンさんをよく見ると,何とヴァルヴが全くついていないナチュラル・ホルンで演奏していました。つまり,口の形とベルに入れる右手の加減だけで音程を作っていました。そのため,時々違和感のある鋭い音が聞こえてきました。ピタリと音が揃った時の充実感も良かったのですが,バランス良く整ったたたずまいの中に一人だけ暴れん坊が加わっているような意外性のある響きもなかなか楽しめました。先日の,金聖響さん指揮OEKによるブラームスの交響曲第3番での演奏といい,このティモキンさんという方は,どう見ても「ただものではない」と思いました。

第2楽章は,基本的に濃密で穏やかな楽章なのですが,各楽器のソロを順に回していくようなところがあり,歌舞伎の渡り台詞を聞くような楽しさがありました。第3楽章は,プログラムの解説によると”軽やかなロンド”ということなのですが,どちらかというと全く慌てるところのない落ち着きを感じました。菊池さんのピアノも堂々としたものでした。この辺には,CD録音を含め,モーツァルトのピアノ協奏曲を繰り返し演奏さして来た菊池さんの自信が反映されていると思いました。

モーツァルトのピアノ協奏曲第23番など20番以降のピアノ協奏曲では,部分的に木管とピアノのための協奏交響曲と言っても良い雰囲気に変身するような箇所がありますが,この曲には,その気分と共通する味があります。演奏の方も,明るさの中にちょっと濃い味も漂わせたもので,円熟期のモーツァルトらしさを感じさせてくれる演奏になっていました。

後半のプログラムは,打って変わって武満徹,リゲティといった20世紀のピアノ独奏曲で始まりました。これまでのOEKとの共演では,モーツァルトしか演奏して来なかった菊池さんですので,少々意表を突く選曲でしたが,これがまた素晴らしい演奏でした。

たっぷりとした空間にキラキラとした音が広がる武満さんの曲も良かったのですが,リゲティの方が,まさに圧倒的な演奏となっていました。ムジカ・リチェルカータという曲集の中から6曲が演奏されたのですが,まず,この曲自体が,現代音楽にしては,大変聞きやすい作品でした。

曲が進むにつれて,使われる音数が増えて行くような構成で,比較的シンプルな曲が多かったのですが,その分,一音一音に込められた,菊池さんの力強いく集中力に満ちた打鍵の素晴らしさを堪能できました。リゲティは,ハンガリーの作曲家ということで,どこかバルトークと通じる部分もあると感じました。

ちなみにこの作品の2曲目ですが,スタンリー・キューブリック監督の遺作映画「アイズ・ワイド・シャット」の中で使われていた曲でした。大変印象的な曲なので,今回,思わぬところで実演で聞くことが出来,「おっ!これか」と嬉しくなりました。この2曲目は,夜中に一人で聞くとトイレに行けなくなるようなとても不気味な曲ですが,その他の曲には,どこかウィットを感じさせてくれるような曲もあり,リゲティという作曲家に対する関心が強くなりました。

演奏会の最後に演奏されたR.シュトラウスの「ティルオイレンシュピーゲル」のピアノ&木管五重奏による演奏も楽しいものでした。実は,これまで,この曲を実演で聞いたことはなかったのですが,この編曲は,かなりオリジナルに忠実な楽器使用法でしたので,室内楽演奏だったにも関わらず,オーケストラ版を聞いたような気になってしまいました。ステージの上には,6人しかいないのに,自分の耳を通して聞くと,頭の中にはオーケストラの音に拡大された形で印象が残るような感じでした。「あれ?騙されてしまったかな」と感じさせてくれるような面白さがありました。

この曲では,何と言っても冒頭のホルンが印象的ですが,ティモキンさんの演奏はここでも素晴らしく,まさに愉快ないたずらという雰囲気を出していました。曲の後半では絞首刑を宣告されたティルの叫び声を彷彿とさせるクラリネットの高音が印象的です。この日は,原田綾子さんという客演の方が担当されていましたが,突き刺すような音でしっかりと演奏されており,こちらも物語の展開にぴったりでした。オリジナルでは,弦楽器が演奏している部分は,菊池さんのピアノが一手に引き受けている感じでしたが,この発想の応用で行けは,他のオーケストラ作品にも応用できそうな気がしました。それだけ,効率的で効果的な編成だと言えます。

アンコールでは,ティルと同じ編成でブラームスのセレナード第1番からメヌエットが演奏されました。脱力した気分と哀愁に満ちたトリオでのホルンの音が大変印象的でした。

というわけで,演奏会に行く前は,菊池洋子さんのピアノ中心の演奏会かと思っていたのですが,ホルンのティモキンさんのホルンをはじめとして管楽器の多彩な音色も楽しむことのできた演奏会でした。この日のプログラムは,実演では初めて聞くような曲ばかりだったのですが(モーツァルトの五重奏だけは,2度目のことでした),今回の演奏を聞いて,ピアノ&管楽器という編成は,これからも注目の編成だと実感しました。

PS.第1曲目をはじめとして,この日の演奏会では,楽章の間ごとに拍手が入りました。これだけ曲の間に拍手が入るのも最近では珍しいことです。お客さんの中には,「吹奏楽部に入っている中学生」といった感じの若い女の人が多かったのですが,そのことと関連があったのかもしれません。(2007/12/13)




金沢のクリスマスの
イルミネーションめぐり
金沢市内も夜になるとクリスマスのイルミネーションが目立つようになりました。音楽堂から香林坊にかけての夜景を写真で紹介しましょう。

全日空ホテルのロビーのツリーです。


こちらはホテル日航の前のイルミネーション。雪吊り型です。


武蔵が辻付近です








こちらは香林坊


こちらでも雪吊型が人気


アトリオの外観です。


GUCCIの店の窓に雪吊り型照明が映っている写真