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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第68回定期演奏会
2008/01/19 金沢歌劇座
 
ウェーバー/歌劇「オイリュアンテ」序曲
グノー/歌劇「ファウスト」〜バレエ音楽
ブラームス/交響曲第4番ホ短調,op.98
(アンコール)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲ホ短調,op.72-2
●演奏
山下一史指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
Review by 管理人hs  

毎年1月に行われている金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に行ってきました。今回の指揮は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の指揮でもお馴染みの山下一史さんで,メイン・プログラムはブラームスの交響曲第4番でした。

山下さんが金大フィルを指揮するのはかなり前に1度あり,私自身,聞いた記憶があります。調べてみると,1991年のことで,その時もブラームスの交響曲第4番が演奏されました。私にとって山下さんと言えば,「若手指揮者」というイメージがあるのですが,既に17年も前のことになります。演奏している大学1年生が1,2歳の頃だと思うと月日の経つのは速いものだと感慨にふけってしまいました。その時と同じ曲というのも何かの因縁かもしれません。

ただし,山下さんの作る音楽も指揮ぶりも相変わらず若々しいもので,どの曲も学生オーケストラらしさのある演奏となっていました。演奏の精度の点では,アラが目立つ部分もありましたが(金沢歌劇座の方が残響が少ない分,音楽堂での公演の時よりも目立ちやすい?),特にブラームスの後半の楽章などは,年に一度の晴れ舞台にふさわしい音楽する喜びに満ちた演奏だったと思います。

最初に演奏されたオイリュアンテ序曲は,トロンボーンが入ることもあり,OEKが演奏したことはないと思いますが,いかにも序曲という感じのまとまりの良い曲です。冒頭の元気の良い主題は,とても輝かしく響き,開演に相応しいものになっていました。第2主題は対照的に優雅なもので,とても分かりやすい構成の曲だと思いました。プログラム中に聞き所として書いてあった”中盤でのヴァイオリン8人による演奏”というのは,そのとおり独特の雰囲気を持っていました。あまりこういう部分は,他の曲にはないかもしれません。

続く,「ファウスト」のバレエ音楽は,冒頭の金管楽器のファンファーレの部分のタイミングが合わなかった感じで,一瞬聞「おや?」と思ってしまいました。その後もちょっと苦戦している感じがあり,音楽の流れが慎重過ぎる感じがしました。この曲は昨年の6月に金沢交響楽団でも聞いているのですが,この曲の持つ流麗さを出すのはなかなか難しいものだと感じました。ただし,後半に行くにつれて音楽のノリは良くなってきて,終曲のクライマックスでの盛り上げ方はさすがだと思いました。スケールの大きさを感じさせてくれました。

後半のブラームスの交響曲第4番も,前半の楽章は比較的地味な音楽なので,演奏の精度の方が気になってしまいました。第1楽章などは,前へ行こうというキビキビした推進力は感じられたのですが,弦楽器の高音部などは,甲高く叫ぶような感じに聞こえてしまうことがありました。第2楽章も,ソリスティックな部分でデリケートさが欲しい部分もありましたが,全体的にはたっぷりとした落ち着きのある演奏になっていました。

第3楽章は見事な演奏でした。スピード感のある,キレの良い演奏で,オーケストラ全体としての音のまとまりも素晴らしかったと思います。とても若々しい演奏でした。終楽章もこの勢いが続き,楽章最初でのまとまりの良い管楽器の音をはじめ,大変充実した音楽が続きました。私の座席からは,トロンボーンがとても良く見えたのですが,3人とも女性奏者というのは珍しいと思います。例えば,「ワルキューレの騎行」などを演奏すると,見た目的にも面白いかも,などと勝手に考えながら見ていました。

楽章の中盤になると,各楽器のソロが出てくる部分になるのですが,ここではフルートのソロが見事でした。じっくりとテンポを落とし,存在感のある音を聞かせてくれました。この部分で室内楽的な気分をじっくり楽しませてくれた後,クライマックスになって行くのですが,重苦しくならずに,きっぱりと決然と終わっていたのが,非常に爽やかでした。全楽章を通じて堅実な音で曲をぐっと引き締めていたティンパニも良かったと思いました。

こうやって振り返ると構造的には,第1楽章の悲哀から第4楽章の開放感へという流れのある演奏になっていたと思いました。演奏的にも段々とノリが良くなってくるような感じがしました。

アンコールは,ブラームスの後だと通常はハンガリー舞曲なのですが,今回はドヴォルザークのスラヴ舞曲が演奏されました。これがまたぴったりの選曲でした。いちばん有名な作品72の2が演奏されたのですが,調性を調べてみるとブラームスの交響曲第4番と同じホ短調でした。これは取り合わせが良いわけだ,と納得しました。

今回の選曲は,多少アラが目立ってしまう部分があったのですが,演奏会全体の流れとしては,苦闘した後に勝利につながるというベートーヴェン的なストーリーが感じられました。学生らしい爆発力と共に曲の魅力を違った角度から感じさせてくれるような演奏を聞かせてくれたと思います。

PS.この1年ほど金沢は,ブラームス・ブームのような感じです。2007年は,フィンランド放送交響楽団の2番,金聖響さん指揮OEKによる1,2,3,4番が演奏されましたが,2008年2月には,ノリントンさん指揮でブラームス1番が演奏されます。その他,県内各地のアマチュア・オーケストラもブラームスを演奏する機会が多いようです。やはり,これも「のだめ」効果なのかもしれません。(2008/01/20)

歌劇座関連写真集
金沢市観光会館が,金沢歌劇座に完全に名称を変更をして初めてこのホールに出かけてきました。ホールの中自体は変わっていないのですが,いくつか写真を撮影してきました。

読みにくいですが...看板です。


喫茶コーナーの看板も変わっていました。


この公演の看板です。開場前にはかなり長い列が出来ていました。


公演パンフレットと金沢歌劇座のリーフレットです。