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14色の夢の場面:music@rt
井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢 金沢21世紀美術館シリーズ Vol.7
2008/01/27 金沢21世紀美術館
 
Stage1 13:00〜/Stage2 14:00〜 館内交流ゾーン
1)ayuo/ユーラシアン・タンゴ第1番
2)ayuo/太陽の光線
3)バルトーク/ルーマニア民俗舞曲(抜粋)
4)カタルニア民謡/鳥の歌
5)武満徹/映画「他人の顔」〜ワルツ
●演奏
坂本久仁雄,ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),細川文(チェロ),ヴェロニカ・パパイ(コントラバス*3-5)
※Stage2にのみ参加

Stage3 15:00〜 展示室11
1)ayuo/ユーラシアン・タンゴ第5番 Eurasian Tango No.5
2)ayuo/ユーラシアン・タンゴ第3番 Eurasian Tango No.3
3)ayuo/ターコイーズ色の鏡 A Turquoise Mirror
4)ayuo/夢は現実,現実は夢 When Illusion Looks Like Reality, Then Reality Becomes Just a Fantasy
5)ayuo/松風 Matukaze
6)ayuo/太陽の光線 The Rays of the Sun(Violin, Violin, Viola, Cello)
7)ayuo/ユーラシアン・タンゴ第1番 Eurasian Tango No.1
8)ayuo(Ayuo詞)/異なる言葉 A Language You can no longer Speak
9)ayuo/14色の夢の場面 A Dream Sequence in 14 Colors
●演奏
ayuo(ギター,歌*8),田島睦子(ピアノ*1-5,9)
坂本久仁雄(ヴァイオリン*3,6-7,9),ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*6-7,9),古宮山由里(ヴィオラ*6-7,9),細川文(チェロ*6-7,9),
末田瞳(歌*5,9),橋浦真紀,直江学美(歌*9)

Review by 管理人hs  

粟津潔展のポスター
こちらはノボリです。

展開会と今回の公演のチラシ類です。水色の紙は,図形楽譜です。これから林光さんや沢井一恵さんのコンサートなどまだまだ企画が続きます。

現在,金沢21世紀美術館では,「荒野のグラフィズム:粟津潔展」が行われていますが,その関連イベントとして,石川県立音楽堂も顔負けなぐらい頻繁にコンサートが行われています。しかも特定のジャンルに拘らないようなコンサートばかりです。このことは,粟津さんがいろいろなジャンルの音楽家と交流を持っていることを示していると同時に,粟津さんの作品自体の持つ音楽的な感性を反映してます。いずれにしても,異分野が交流する空間を美術館が提供するというイベントは大変面白いものです。今回もそういうような雰囲気のコンサートでした。

今回のコンサートは,今年度シリーズで行われてきたオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の金沢21世紀美術館シリーズを締めくくる第7回目の公演で,ayuo+OEKメンバー+地元の音楽家のコラボレーションという内容でした。演奏されたのは,ayuoさんの作品が中心でした。私自身,この方の音楽を聞くのが今回が初めてだったのですが,非常に面白いスタンスで音楽活動をされている方だと感じました。まず,ジャンル分けするのが非常に難しい音楽です。そもそも分類しようというのが間違いなのかもしれません。今回は,比較的シンプルなメロディが繰り返し演奏されるような曲が多かったのですが,前衛的でもあり原始的でもあり,民族音楽風でもありポップな部分もありクラシック音楽風でもある...という不思議な世界に浸ることができました。

演奏は3ステージに分けて行われましたが,OEKの弦楽メンバーだけで無料ゾーンで行われた第1,第2ステージの曲は,特にクラシック音楽的な側面が強く感じられました。バルトーク,武満徹の曲と並べて演奏されたのですが,全く違和感なく繋がっていました。私はそのうちの第2回の方を聞きました。

まず演奏された,ayuoさん作曲のユーラシア・タンゴと太陽の光線は,第3ステージでも再度演奏されたのですが,大変心地良く響く音楽でした。その一方,無料ゾーンでは,すぐ間近で,生の音を聞くことができますので,OEKの弦楽メンバーのキレの良い迫力たっぷりの演奏も堪能できました。

続いて,バルトークのルーマニア民俗舞曲が演奏されました。昨年11月にピヒラーさん指揮OEKでも聞いた曲ですが,自信たっぷりの堂々たる演奏となっていました。この曲では,弦楽四重奏にコントラバスが加わっていましたが,近くで聞くとその存在感がすごいと思いました。

鳥の歌は,今年になって一柳慧さんと寒川晶子さんの演奏で聞いたばかりですが,今回は弦楽五重奏版ということで,お馴染みのカザルス版に近い雰囲気がありました。今回は,OEKメンバーではなく,細川文さんがチェロを担当されていましたが,朗々としたのびやかな歌を聞かせてくれました。

ステージの最後は,これもまたOEKのニューイヤー・コンサートで聞いたばかりの武満徹作曲の映画「他人の顔」のワルツが演奏されました。オーケストラ版の艶やかさも良いのですが,弦楽五重奏による小粋な感じは,より曲想に合っている気もしました。このステージでは,第1ヴァイオリンの坂本さんが,鮮やかな赤のシャツで演奏されていましたが,この雰囲気も含め,美術館で聞くのに相応しい,大変ファッショナルブルな演奏でした。

この5曲で20分程度でしたので,次のステージが始まるまで展示を見たり,ミュージアムショップに行ったりして過ごしました。こういう時,美術館の友の会に入っていれば,会員証を提示するだけで気軽に何度も有料ゾーンに出入りできるので便利です。この日は雪が残っていた割に良い天気だったので,美術館の外や近くの商店街まで足を伸ばしてみたのですが,街との敷居が低いのもこの美術館の魅力の一つです。

そうこうしているうちに第3ステージの時間が近づいてきたので,美術館に戻り,今度は,有料の展覧会場内の展示室11に向かいました。この部屋は,上述の一柳さんの演奏会でも使われていましたので,すっかりお馴染みとなりました。今回も展示室内にピアノが置いてありましたが,一柳さんの時とは客席の位置が反対になっていました。

今回の演奏会には,「14色の夢の場面」というタイトルが付けられていたのですが,残響の非常に長いこの展示室で聞くと,まさに夢のような雰囲気になります。この第3ステージでは,すべてayuoさんの曲が演奏されたのですが,どの曲にも「どこかで聞いたことがあるようだけれどもオリジナル」という不思議さがありました。

最初は,田島睦子さんのピアノ独奏で,ユーラシアン・タンゴ第5番と第1番が演奏されました。ピアノ独奏で聞くとリズムが際立ち,エキゾティックな雰囲気と合わせて,バルトークを思わせるところがあると思いました。第1番の方は,もっとゆったりとした曲で,現代風のハバネラといった感じでした。

その後,坂本さんのヴァイオリンとの二重奏で「ターコイーズ色の鏡」が演奏されました。ピアノ独奏曲の空気にもう一色別の淡い色が加わったような雰囲気のある曲でした。シンプルでとても気持ちの良い曲でした。「夢は現実,現実は夢」という曲では,再度,ピアノ独奏に戻りましたが,ここでもピアノの淡い音色が印象的でした。こうやって聞いていると,ayuoさんの曲からは,色が感じられるなぁと思いました。そういう意味でも美術館の雰囲気に良くマッチする曲と言えます。

「松風」という曲では,女声が加わりました。歌といっても声を張り上げる感じはなく,かといって語るような感じでもありません。何か言葉を歌っていたのですが,残響が多くほとんど聞き取れませんでした。近くで歌っているのに,遠くから聞こえるような感じがあり,それがかえって幻想味を増しているところがあると思いました。

その後,第2ステージでも演奏された太陽の光線とユーラシアン・タンゴ第1番が,その時と同じ弦楽四重奏編成で演奏されました。やはり残響の具合でより神秘的な感じに響いていたのが面白いと思いました。この展示室11では,以前,OEKメンバーによる弦楽四重奏でペルトの曲を聞いたことがありますが,ayuoさんの曲には,バルト3国の現代の作曲家の曲に通じる静謐な気分があると思いました。

ここまでずっとayuoさんはステージの横で演奏を聞いていたのですが,次の曲では,ayuoさんのギター弾き語りで「異なる言葉」が演奏されました。ayuoさんの演奏するギターは,アコースティックギターでしたが,その音をアンプで増幅しているような感じで,独特の膨らみがありました。特に低音が豊かに響いており,ayuoさんのふんわりとした感じのヴォーカルとよく合っていました。対照的に速いパッセージでの切れ味の良い音も見事なものでした。いずれにしても,これまで演奏されてきたクラシック音楽系の曲とはまた違った系列でした。

演奏会の最後は,総勢8人で,演奏会のタイトルにもなっている「14色の夢の場面」が演奏されました。この曲は今回演奏された曲の中でも最も長く,聞き応えもあったのですが,何と言っても図形楽譜(グラフィック・スコア)を基に演奏していたのが大きな特徴でした。弦楽四重奏+ピアノ+ヴォーカル3人という編成なのですが,それぞれが何分から何分まで歌うといったことの書かれた数直線のような図形楽譜を見て歌っていたようです。ちなみに,タイミングの指示はストップウォッチを持った粟津ケンさんが出していました。

”譜面”には,CDEGA...という感じの音名が書かれているのですが,音の並びのパターンごとに桃色,紫,茶色..といった色合いが対応しています。きちんとしたメロディがあるわけではないので,8人の奏者の作り出す,音色とそのブレンドを味わうような曲ということになります。聞いていて,具体的な色のイメージが浮かぶわけではないのですが,色合いの変化が確かに感じられます。最後はリディア旋法調(Lydian mode)の「黄色」で終わる形になっていました。こういう”色のある音楽”を美術館内の残響の豊かな部屋で聞くというのは,大変面白い試みだったと思います。

今回のayuoさんを中心とした演奏会では,少々オリエンタルな雰囲気のある曲,現代的なのか原始的なのかわからないような曲などいろいろな作品がありましたが,この展示室11で聞くとどこか癒しの気分を持った音楽として響いていました。初めて聞く曲ばかりでしたが,美術館内で聞くのに相応しい静かさと大胆さとを同時に味わうことのできた演奏会でした。

PS.それにしてもこの美術館には,いつもよく人が入っています。無料で気軽に出入りしているのが何より素晴らしいところです。金沢観光の目玉の一つになったと同時に市民にとっても公園気分で過ごすことのできる場所になったと思います。

PS.今回,演奏前に粟津ケンさんが演奏者の紹介をされたのですが...「オーケストラ金沢アンサンブルのみなさんです」と繰り返し言っていたのが気になってしまいました。ピアノの田島さんや,声楽の3人の方の紹介もなかったのですが,OEKのメンバーではありませんので,個別に名前を紹介して欲しかったと思いました(プログラムを読めば分かるのですが...)。

(参考) 荒野のグラフィズム:粟津潔展粟津潔[公式サイト]ayuo公式サイト
(2008/01/29)

雪の21世紀美術館
美術館の周りには雪が残っていました。白い美術館が白い雪に包まれていました。


雪だるまが何人(?)もいました。背景に写っていのが館内無料ゾーンでのStage1の演奏会風景です。


だんだんと天気が良くなってきました。


逆光で撮影してみました。

こちらはStage2の演奏前の光景です。間近で聞くことができました。


(番外)
柿木畠商店街の方まで行ってみると,「まるびぃカレー」なるメニューを見つけました。


こんな感じのものです。一度食べてみたいものです。



(番外2)
美術館内のショップでayuoさんの演奏によるstonedというCDを1000円ほどで売っていたので,記念に買ってしまいました。