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小松シティ・フィルハーモニック第9回定期演奏会
2008/02/10 こまつ芸術劇場うらら大ホール
1)エルガー/ピアノ五重奏曲イ短調op.84〜第1楽章
2)ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
3)プロコフィエフ/交響的物語「ピーターと狼」op.67
4)ブラームス/交響曲第1番ハ短調op.68
5)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
野村幸夫指揮小松シティ・フィルハーモニック(2-5)
馬越浩子(語り*3)
ノーザン・シンフォニアのメンバー(ピーター・キャンベル・ケリー,サイモン・ブラウン(ヴァイオリン),ジェイムス・スレター(ヴィオラ),ガブリエル・ウエイト(チェロ),ケイト・トンプソン(ピアノ))*1
Review by 管理人hs  

公演のポスターです。
演奏前に配置を撮影してみました。いちばん後ろにコントラバスが並んでいます。
石川県小松市にあるアマチュア・オーケストラ,小松シティ・フィルハーモニックの定期演奏会に出かけてきました。小松シティ・フィルハーモニックは,1994年に「クラスター合奏団」として創立し,その後,管楽器を加え,2000年に小松シティ・フィルハーモニックと改称された小松市を中心として活動しているオーケストラです。県内のアマチュア・オーケストラの中では,いちばん新しい団体で今回が9回目の定期演奏会ということになります。

私自身,金沢市にあるアマチュア・オーケストラの演奏会は,折に触れて聞いてきたのですが,それ以外の都市にあるアマチュア団体の演奏を聞いたことはほとんどありません。せっかくの機会なので,40分ほどドライブをして,聞きに行くことにしました。これで,石川県内のアマチュア・オーケストラは,ほぼ制覇(?)したことになります(大学のオーケストラなどはまだ全部聞いていませんが)。

今回,聞きに行こうと思ったのは,後半,メインで演奏される曲が,ブラームスの交響曲第1番だったということも理由の一つです。2月6日に石川県立音楽堂でロジャー・ノリントン指揮シュトゥットガルト放送交響楽団でこの曲を聞いたばかりだったのですが,聞き比べも面白そうだと思い聞きに行くことにしました。その結果ですが,コントラバスが正面奥にズラリと並ぶ配置が共通しており,ステージ上の並びを見た瞬間に「おっ,これは面白そうだ」と思いました。その他の曲の演奏も含めとても正統的でストレートな演奏を楽しむことができました。

このストレートな感じは,ホールの特性にもよると思います。今回演奏会が行われた,こまつ芸術劇場うらら大ホールは,大ホールという名前は付いていますが,それほど大きなホールではなく,石川県立音楽堂の邦楽ホールを一回り大きくしたぐらいの中規模のホールです(公式ページによると定員は851席ということです)。歌舞伎にも使えるホールということで,客席のいちばん奥からでもステージが大変良く見えます。つまり横長のホールということになります。そのこともあり,音がダイレクトに飛び込んできます。演劇用のホールということで,残響は多くないのですが,その分,大変クリアに音が聞こえてきます。このことが演奏全体の印象にもそのまま反映していたのだと思います。フル編成のオーケストラ用にはちょっと空間が小さい気もしましたが,例えば,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)ぐらいの編成には丁度良いのではないかと思います。

(参考)こまつ芸術劇場大ホール http://www.komatsu-urara.com/facilities/01.html

最初のワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲は,大変明快な演奏でした。私は2階席で聞いていたのですが,特に金管楽器の音がダイレクトに耳に飛び込んできました。この「マイスタージンガー」という曲は,一種のコメディですので,その面では明るい響きがよく合っていると思いました。途中,軽妙な感じになったり,しっとりした感じになったりと,色合いの変化も楽しむこともできました。なお,この曲には本来ハープが入るのですが,今回は使われていませんでした。あまり影響が無いと言えば無いのですが,ちょっと残念でした。

2曲目のプロコフィエフの「ピーターとおおかみ」は,アマチュア・オーケストラが演奏するのは,珍しい曲なのではないかと思います。編成は,ワーグナーの時よりもコンパクトになっていました。ホルン以外の管楽器は各1名ずつになっていましたので,一種,「管弦楽のための協奏曲」的な雰囲気もありました。

この曲には,ナレーションが入りますが,今回は小松おはなしの会の馬越浩子さんが担当されていました。OEKの公演では,俳優の西村雅彦さんや声帯模写の江戸家小猫さんのナレーションが加わった演奏を聞いたことがありますが,今回の馬越さんのナレーションには,ひねったところが全く無く,それがとても良かったと思います。とても若々しく聞きやすい声で,安心して音楽に浸ることができました。

いわゆる芸能人がナレーションを行った場合,オーケストラの演奏を聞くというよりは,芸達者なナレーションばかりに耳が行ってしまうという難点があるのですが(それが狙いであり,楽しみでもあるのですが),今回の演奏の場合,音楽の流れとナレーションがうまく馴染んでおり,語りの作るドラマと音楽が作るドラマのバランスとが丁度良かったと思いました。とても流れの良い演奏でした。

上述のOEK版やいろいろなCDで聞くことのできる,「ピーターとおおかみ」は,オリジナルのシナリオをかなり変更するのが普通ですが(今は亡き古今亭志ん朝が語りを担当している山本直純さん指揮による演奏ではタヌキが出てきたりします。これは本当に面白い演奏です),今回は変更なしで語っていたのではないかと思います。それがとても良かったと思いました。この曲を聞いて「音楽を聞いたなぁ」と感じたのは,もしかしたら初めてのことかもしれません。上述のとおり,楽器のソロが活躍する曲ですので,特に管楽器奏者はプレッシャーが大きかったと思いますが,とても鮮やかな演奏を聞かせてくれました。特にホルン四重奏によるおおかみが,とても良い感じでした。

後半のブラームスの交響曲第1番は,上述のとおり,ブラームス時代の楽器配置に近い形で演奏されました。ノリントンさんの時とトランペットとトロンボーンの位置が違ってきましたが(ノリントンさんの方は上手側に寄せていましたが,今回は正面奥のコントラバスの前に並んでいました),それ以外は全く同じ配置というのは,不思議な因縁を感じさせるほどでした。

演奏は,とてもオーソドックスでした。第1楽章の序奏部から,ティンパニのエネルギーに満ちた音が印象的でしたが,それ以降も虚飾のないストレートな演奏で,着実に前に進もうというしっかりとした歩みを常に感じさせてくれました。テンポが落ち着いていた割に重量感はあまり感じなかったのですが,その分,明快な若々しさがありました。

第2楽章は,たっぷりとした響きが印象的でした。この楽章では,オーボエ,ホルン,ヴァイオリンのソロが出てきますが,それぞれ見事な演奏を聞かせてくれました。この日のコンサートミストレスは,石川県内ではヴァイオリンの指導者としてもお名前を聞くことの多い坂口真紀さんでしたが,「さすが」という演奏でした。とても引き締まった音で,オーケストラ全体の士気を高めてくれるような演奏だったと思います。

後から振り返ると第3楽章の印象はちょっと薄くなってしまったのですが,その後の第4楽章はとても充実した演奏でした。まず,楽章の最初の方で,コントラバスによるピツィカートの部分が出てきますが,今回の配置だと非常にスケールが大きく聞こえると思いました。プログラム中に「聴き所」として書かれていた「アルプホルン→フルート→金管のコラール」の部分もしっかり決まっていました。特にしみじみとしたトロンボーンの和音が良いなぁと思いました。

その後出てくる,第1主題も,これぞブラームスというたっぷりとした歌わせ方でした。その後もがっちりとした歩みが続きましたが,演奏全体に大きなうねりがあるのが素晴らしいと思いました。アマチュア・オーケストラの演奏では,ホルンが不安定になることが多いのですが,今回の演奏では,「ピーターとおおかみ」同様,このホルン・パートがとても充実しており,演奏全体の力感を増していました。オーケストラ全体の響きも隙なくまとまっていました。コーダ付近では,トロンボーンやトランペットが爽快にコラールを吹き,さらに密度の高いフィナーレを作っていました。

アンコールでは,ニューイヤー・コンサートでおなじみのヨハン・シュトラウス1世のラデツキー行進曲が演奏されました。とても手拍子のしやすい落ち着いたテンポで,演奏会を暖かい雰囲気で締めてくれました。

今回演奏された曲ですが,どの曲も小細工をせずに,そのまま曲の魅力を伝えてくれている点に気持ち良さを感じました。機会があれば,また聞きに行きたいと思います。

PS.この演奏会に先立ち,小松市の姉妹都市であるイギリス・ゲイツヘッド市にあるノーザン・シンフォニアのメンバーによる室内楽の演奏が1曲行われました。エルガーのピアノ五重奏曲(第1楽章のみ)という,演奏される機会の少ない作品が演奏されましたが,とてもしっとりとした良い雰囲気がありました。このノーザン・シンフォニアは,OEKにも客演したことのある,トーマス・ツェートマイヤーさんが指揮をされているということで,この縁を機会に是非,このオーケストラ自身の県内での公演も期待したいと思います。

(参考)ノーザン・シンフォニアの公式サイト
(2008/02/12)

関連写真集
ホールの壁面の写真です。


うららの外観です。JR小松駅のすぐそばです。


演奏会のパンフレットとノーザン・シンフォニアについてのチラシです。


小松シティ・フィルハーモニックの過去の公演のCDを1枚800円で販売していたので,記念に1枚買ってきました。CDを一般向けにも販売するというアイデアは面白いと思いました。

小松市の姉妹都市であるイングランド北部のゲイツヘッド市にちなんだイベントが行われているようです。その関連で,今回の公演に先立って室内楽の演奏が行われました。

ホール内ではシルクの衣装のコンテスト(?)行われていました。