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第5回石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢合同公演
2008/02/17 金沢歌劇座
 
1)グリーグ/「ペール・ギュント」第1組曲,第2組曲〜朝,アニトラの踊り,山の魔王の宮殿にて,ソルヴェーグの歌
2)グリーグ/ホルベルク組曲
3)ベルリオーズ/幻想交響曲,op.14
●演奏
大勝秀也指揮石川県学生オーケストラ(1,3);オーケストラ・アンサンブル金沢(2,3)
Review by 管理人hs  

雪の中,金沢歌劇座で行われた石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)合同公演に出かけてきました。このコンサートも5回目ということですっかり定着した感じですが,今回,合同で演奏される曲が,ベルリオーズの幻想交響曲ということもあり,特に楽しみして出かけてきました。

今回の学生オーケストラは,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,金沢工業大学室内管弦楽団,北陸大学室内管弦楽団の団員からなる臨時編成のオーケストラで,OEKを加えた総勢は,130名(プログラム等による)という大人数でした。大勝秀也さんの指揮の下,合同で演奏された幻想交響曲は大変な迫力でした。特にほとんどブラスバンドのような感じの金管楽器群の響きには圧倒されました。

演奏会の前半は,合同演奏に先立ち,まず学生オーケストラだけによる演奏,続いてOEKだけによる演奏が行われました。最初に演奏された「ペール・ギュント」組曲からの抜粋は,学生オーケストラのみによる演奏でしたが,弦楽器のみ指導を行ったOEKの奏者が各パート1名ずつ加わっていました。「朝」は,口火を切ったフルートの音が大変清潔な音で,”気持ちよい目覚め”という感じでした。次の「アニトラの踊り」も含め,全般に遅めのテンポでしっかりと演奏されていましたが,その分,「山の魔王の宮殿にて」の後半部分での金管楽器とティンパニの迫力のある響きが特にワイルドに響いていました。冒頭のミュートを付けたホルンの音も不気味な味わいを出していました。

ここまでは第1組曲からの抜粋でしたが,最後は第2組曲の「ソルヴェーグの歌」で締められました。これもまた大変遅いテンポでじっくりと演奏されました。通常ならば「山の魔王の宮殿にて」の豪快な音で締めても良さそうなものだったのですが,それを受けてさらに余韻をしっかり感じさせてくれる重みのある演奏でした。この曲はほとんど民謡のような感じで,同じメロディが素朴に繰り返されるのですが,そのたびにホルンの強い音で始まっていました。どこかシューベルトの「冬の旅」の最終曲の「辻音楽師」と似た感じがするな,と思いながら聞いていました。

続いて,OEKのみで,同じグリーグの「ホルベルク組曲」が演奏されました。グリーグ2曲を並べた選曲はとても良かったと思いました。この曲ですが,定期公演のアンコールなどで,一部分が何回か演奏されていますが,組曲の全曲をOEKが演奏するのは,意外に少ないような気がします(もしかしたら,今回が初めて?)。OEKにぴったりの作品ということで,安心して音楽の流れに浸ることができました。

古典的な組曲を模したような構成の曲なのですが,OEKの演奏はとても清潔で,そのイメージどおりの演奏でした。各曲の気分が明確に描き分けられており,しっかりとメリハリが付けられていました。慌てることがなく,常に余裕を感じさせてくれる辺り,さすがOEKだと思いました。

アンコールなどでよく演奏される,第1曲の「前奏曲」から大変爽やかな演奏でした。力が抜けてスーッと流れているのにビートがよく効いていました。「サラバンド」の落ち着きのある歌も魅力的でした。段々と人の歌声のように聞こえてきました。「ガヴォットとミュゼット」のキビキビとした雰囲気に続いて,全曲の核となる「アリア」となります。そして,最後の「リゴードン」では,この日のリーダー,アビゲイル・ヤングさんとヴィオラの首席奏者(今回は,大江のぞみさんという客演の方でした)が闊達なソロを聞かせてくれました。

一生懸命演奏する学生オーケストラの演奏も魅力的でしたが,曲想からして涼しげで鮮やかなOEKの「ホルベルク組曲」の演奏も魅力的でした。同じグリーグの曲で,いろいろな面での対比が楽しめた前半でした。

さて,後半の幻想交響曲ですが,上述のとおり130人編成ということで,ステージ上はほぼ満員という感じでした。特に目についたのは,ステージ奥に並ぶ打楽器6名,その前に並ぶトランペット8人,トロンボーン5人,ホルン8人(数は概数です)でした。木管楽器の人数も各パートとも4人以上はいたと思います。まさに壮観でした。なお,当然のことながら,コンサートマスターを含め首席奏者はすべて学生オーケストラの奏者の方が担当していました。

というわけで,一体どういう音が出てくるのだろうという期待があったのですが,粗野な感じはなく,迫力を感じさせながらも,むしろ明るくすっきりと引き締まった響きに聞こえました。とても音楽的な響きだったのが,素晴らしいと思いました。

第1楽章の冒頭部分から,大人数にも関わらず,大変透明感がありました。木管楽器も好調で,メリハリの効いた演奏となっていました。楽章の後半,トランペット軍団(これだけ多いと見た目にも大変目立ちます)が入ってくると一気に泡立つように音楽が盛り上がりましたが,全曲を通じて「疲れを知らない」見事な演奏を聞かせてくれました。大勝さんの作る音楽は大変明快で,大変フランス音楽らしさを感じさせてくれました。

第2楽章は,速目のテンポでスムーズに進むワルツでした。今回,ハープもちゃんと2台使っていましたが,1台はOEKとも何回か共演している上田智子さんが担当していました。もう1台の方は学生オーケストラの方にお名前が書いてありましたが,学生さんでこれだけ見事に演奏できれば素晴らしいと思いました。

第3楽章は,不気味さよりは,弦楽器をはじめとした響きの美しさを感じさせてくれる演奏でした。楽章の最初に出てくるコールアングレとオーボエの対話の部分は,楽器各1本ずつによる正真正銘の「ソロ」になりますので,大変なプレッシャーだったと思いますが,本当にしっかりと聞かせてくれました。オーボエ奏者の方は,3楽章が始まる前に舞台裏に移動していたのですが,その仕事が終わると,ステージの方に戻ってきていました。幻想交響曲の生演奏を聞くのは久しぶりなのですが,こういう光景が見られるのも楽しみの一つです。

楽章の後半では,4人の打楽器奏者が2対のティンパニを叩く部分がありますが,この部分も,視覚的にも楽しむことができました。4人の中にはOEKの渡邉さんもいらっしゃいましたが,違和感なく(?)学生さんに溶け込んでいました。

第4楽章以降は,華やかな音楽が続き,オーケストラ音楽の醍醐味を楽しむことができました。「断頭台への行進」は,快適なテンポでした。ここでもトランペット軍団の率直さが威力を発揮していました。「断頭台」という言葉など抜きにして,爽快感たっぷりの演奏でした。それに比べると低音の管楽器はもう少し聞こえてきても良いかな,という気もしました。

第5楽章も大変明快な演奏でした。グロテスクな狂気の世界という感じはありませんでしたが,学生オーケストラに相応しい爽快さのある演奏になっていました。楽章後半では,クラリネットが恋人を表現する「固定楽想」を演奏する部分が多いのですが,大変難しいフレーズに食らいついているのが印象的でした。この楽章では,鐘の音も聞き物です。今回は,チューブラー・ベルに加えピアノの音が入っていました。いずれも舞台裏にある楽器を叩いていました(演奏後,舞台裏からハンマーを手に持った人が出てきたのは,とてもユーモラスでした。この光景を見て,初めてどこに楽器があったかに気づいた方もいたかもしれません)。

終盤,大太鼓のロールが加わる辺りから,圧倒的な迫力が出てくるのですが,それでもキツ過ぎる感じはしません。最後の最後の部分で,もう一段アクセルを強く踏み込むように畳み込むようなテンポになり,爽快感たっぷりに駆け抜けて終わりました。この部分は非常に格好良く決まりました。今回のオーケストラは臨時編成の団体だったのですが,大勝さんの統率力は素晴らしいと感じました。学生オーケストラなので若々しいのは当然なのですが,そのパワーをフルに引き出したようなエンディングでした。

この曲は,ベルリオーズがまだ若い頃に作った出世作にして最大傑作ですが,学生オーケストラが演奏するのにぴったりの曲だと実感しました。いろいろな面で演奏するのは大変な曲ですが,金沢では滅多に聞くことのできない曲ですので,5年に1回ぐらいはこの合同オーケストラで聞いても良いのではないかと思いました。それだけの挑戦のしがいのある曲だと感じました。

PS.管楽器が多い編成で思い出すのは,石川県立音楽堂が開館した直後に演奏された,県内のアマチュア・オーケストラの合同編成によるホルストの「惑星」です。この曲などももう一度聞いてみたい曲です。その他,レスピーギの「ローマの松」辺りも聞いてみたい曲ですね。(2008/02/19)

雪の歌劇座
この公演のポスターです。130という文字が目立ちます。


金沢歌劇座前の様子です。雪が断続的に降っていました。


こちらは金沢歌劇座前の本多通りです。