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オーケストラ・アンサンブル金沢第237回定期公演F
2008/03/16 石川県立音楽堂コンサートホール
オーケストラによる日本民謡
1)間宮芳生/コントルタンツNr.1「白峯かんこ」(2005年度OEKコンポーザー・イン・レジデンス委嘱作品)
2)堀内貴晃/小編成管弦楽のためのカプリチオ:あばれ祭りに寄せて(OEK設立10周年記念1998作曲登竜門オーディション最優秀賞受賞作品)
3)外山雄三/管弦楽のためのディヴェルティメント

津軽三味線の響き
4)十三の砂山
5)一川明宏/飛翔のひびき?じょんから
6)津軽よされ節
7)津軽じょんから節
8)木乃下真市/海流

民謡北から南から,そして北陸
9)ソーラン節(北海道)
10)花笠音頭(山形県)
11)佐渡おけさ(新潟県)
12)越中おわら節(富山県)
13)能登麦屋節(石川県)
14)山中節(石川県)
15)白峰かんこ踊り唄(石川県)
16)三国節(福井県)
17)貝殻節(鳥取県)
18)黒田節(福岡県)
19)(アンコール)花笠音頭(山形県)
●演奏
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)*1-7,9-19
木乃下真市(津軽三味線*6-8),一川明宏,明宏会(津軽三味線*4-5),
唄:小杉真貴子*11,16,加賀山昭*17,18,田村雅子*14,山本正之*9,山口幸晴*12,出島照磐*13,吉倉正治*10,加賀山紋*15※お囃子はローテーションで担当
踊り:中村梅也社中*10,瀬尾明美民謡社中*12
Review by 管理人hs  
立て看板です。

建物に入ると赤っぽいドレスが展示してありました。

今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演ファンタジー・シリーズは,民謡とオーケストラとのジョイントコンサートでした。つい先日は,金沢歌劇座のオーケストラ・ピットに入り,オペラの伴奏を担当したばかりのOEKですが,今度は民謡との共演ということで,またまた違った気分を味わわせてくれました。

今回の公演は,大きく分けて3つの部分から成っていました。第1部だけがOEKのみによる演奏でしたが,演奏された3曲とも現代日本の作曲家による作品でしたので,結局,この日演奏された曲はすべて日本の曲ということになります。これもまた珍しいことだと思います。

最初に演奏された間宮芳生さんの曲は,石川県内の白峰村(現在は白山市の一部)に伝わる「)白峰かんこ踊り唄」を題材に作られた曲です。この「かんこ」という言葉自体,鞨鼓(かっこ;太鼓の一種)と同じ語源ということで,冒頭から「トントントントン」という規則的なリズムが印象的でした。バルトークを思わせるようなところがあるのが面白い曲でした。最後は,OEKの奏者の「やーっ」という掛け声でおしまいとなりました。

その後,指揮者の鈴木織衛さんのトークが入りましたが。いつもどおり滑らかで分かりやすい語り口で,会場の気分をほぐしてくれました。

続いて演奏された堀内貴晃さんの「小編成管弦楽のためのカプリチオ:あばれ祭りに寄せて」は,OEKの設立10周年記念の作曲家登竜門オーディションで最優秀に選ばれた作品です。ただし,この曲は”演奏至難”ということで,その後ほとんど演奏されていない,いわば”幻の曲”です。この曲が初演された演奏会のことを今でも覚えているのですが,故岩城宏之さんが「ストラヴィンスキーより難しい,とんでもない曲」と演奏前に語っていたことを思い出します。そういうこともあって,今回の再演は非常に楽しみでした。

曲は,岩城さんの言葉どおり,ストラヴィンスキーの「春の祭典」ばりの変拍子連発で始まります。ただし,同じリズム・パターンが繰り返されているようで,だんだんとそれが快適さに変わっていきます。OEKの演奏からも余裕が感じられました。曲全体としても,映画音楽のテーマのような鮮やかさのある曲ですので,OEK必殺のアンコール・ピースとして今後も演奏していって欲しいと思います(奏者の皆さんは大変だと思いますが)。

対照的に外山雄三さんのディヴェルティメントは,OEKの編成にピッタリということもあり,本当に頻繁に演奏されています。この曲は,日本の有名民謡のパッチワークのような作品ですので,今回の定期公演には打ってつけの作品です。雄壮な第1楽章も良いですが,やはりフルートの味のある歌いぶりが印象的な第2楽章が心に染みます。世界でいちばんこの楽章を演奏しているオーケストラがOEKだと思いますので,フルートの岡本さんの演奏は世界でいちばん安心して聞ける演奏と言えそうです。この部分では,コントラバスの深い音やハープの神秘的な音も印象的でした。第3楽章はとてもリズミカルですが,ここでもコントラバスのズン,ズンという低音が非常に効果的でした。鈴木さんの指揮は大変しなやかで,とてもスマートにこの曲をまとめてくれました。

続いて,津軽三味線のコーナーになりました。私自身,津軽三味線を生で聞いたのはほとんと初めてのようなものだったのですが,非常に新鮮に感じました。癖になってしまいそうな魅力があります。最初に,石川県内を中心に活躍されている一川明宏さんとその一門の明宏会の皆さん6人とOEKとの共演で,「十三(とさ)の砂山」が演奏されました。比較的,淡々とした曲でしたが,前半のオーケストラだけによる演奏とは別世界のような雰囲気になりました。

次の「飛翔の響き」という曲は,「津軽じょんから節」をもとに一川さん自身が作られた曲とのことでしたが,こちらの方はより強い音が支配的で,オーケストラとのせめぎ合いを楽しむことができました。大変見事なアレンジでした(プログラムに編曲者名も書いておいてほしかったと思いました。)。

その後,木乃下真市さんが登場しました。この演奏会のチラシを見るまで,恥ずかしながら木乃下さんのお名前を知らなかったのですが,伝統芸能の津軽三味線に現代的な要素を取り入れ,新しいジャンルの邦楽を追求している”NO.1津軽三味線奏者”と言って良い方です。木乃下さんの公式サイトのURLは,”/king-of-tsugaru/”(キング・オブ・ツガル)となっていますが,演奏を聴いて,まさにそのとおりと感じました。

ここで,OEKの皆さんが一旦引っ込んだ後,木乃下さんの独奏で,津軽三味線の名曲が2曲演奏されました。木乃下さんの衣装は,白い着物を着てこられた一川さんとは対照的に,黒っぽい洋装でした。見るからにスマートな方で,邦楽奏者というよりは,Jクラシック奏者と呼ぶ方がぴったりという雰囲気がありました。

ステージのライティングも印象的でした。寒々とした津軽をイメージさせるような青白い照明が使われていましたが,木乃下さんの背後には独特の模様が広がり,オーケストラ奏者の椅子のシルエットと重なりあって,森を思わせる雰囲気を出していました。

津軽三味線の曲の開始部分ですが,チューニングなのか曲の始めなのか判別しがたい感じで始まります。この部分での燐とした,とてもよく通る音を聞いただけで,「これはすごい」と感じました。当然PAは入っていましたが,大変自然な使い方でしたので,気持ちよく三味線の音に浸ることができました。木乃下さんの三味線の演奏は,リズムのキレが非常に良い上,曲が進むにつれてうなりを上げるような迫力が出てきます。何よりも燐とした音の緊張感が持続しているのが素晴らしいと思いました。

途中,音量を抑えて高音のトレモロを聞かせる部分が出てきましたが,その粒立ちの良さと音量のコントロールも素晴らしいと思いました。この部分で,拍手を入れるのが「お作法」のようで,曲の途中にも関わらず拍手が入っていました。バレエでプリマドンナが連続で回転をする時に拍手が入るのと似たタイミングだと思いました。

3曲目の「海流」は,木乃下さん自身の作品で,OEKとの共演になりましたが,これはファンタジー公演ならではの曲だと思いました。ロックを思わせる,心地よいビート感が素晴らしく,リズムの饗宴という趣きでした。OEKは,これまでも尺八の山本邦山さん,和太鼓の林英哲さんといった邦楽界のスター奏者と新作の共演をしてきましたが,是非,今度は木乃下さんとの共演による「津軽三味線協奏曲」の新作などに期待したいと思います。邦楽ホールでのリサイタルなども実現して欲しいと思います。

プログラム後半は,「民謡北から南から,そして北陸」と題して,日本各地の民謡10曲が8人の歌手とOEKとの共演で演奏されました。小杉真貴子さんと加賀山昭さんによるおしゃべりも交え,すっかりリラックスして楽しむことができました。

まず嬉しくなるのは,歌手の皆さんの派手な着物ですね。見ているだけで気分が明るくなります。今回は8人の歌手が,NHK「のど自慢」のように順繰りに登場してきましたが,自分がリードボーカル(?)でない場合は,合いの手のお囃子担当になったりしており,視覚面でも退屈しませんでした。声の質の方も多彩で,若い歌手のまっすぐな声からベテラン歌手の渋い声まで,いろいろな表情を持った民謡を楽しむことができました。お囃子の甲高い声による「ハイーッ,ハイッ」という合いの手などは,ちょっとやってみたい気にもなります。

オーケストラの後方にちょっとしたステージがあり,その上で華やかな衣装を着けて踊りが踊られる曲もありました。「花笠音頭」では,歌詞にあるとおり本当におめでたい気分が出ていました。「マツケン・サンバIIの元祖,ここにあり!」という感じでした。「越中おわら節」にも踊りが入りましたが,こちらの方は,黒と赤の着物の色合いがとてもファッショナブルでした。この辺のビジュアル重視の気分は,いつもとてもお洒落な井上道義音楽監督の雰囲気とも意外にマッチするのではないかと思ったりしました。

最後は大御所の加賀山昭さんのとても大らかな唄で締められました。アンコールでは,出演者全員がステージに再登場し,「花笠音頭」が歌い,踊られました。すっかり脱力した雰囲気になり,会場からも手拍子が入りましたが,たまにはこういう気分も悪くありません。1ヶ月ほど早いお花見気分を味わうことができました。

過去の定期公演ファンタジー・シリーズで民謡が取り上げられたことはなかったのですが,今回の3部構成からなる公演を聞いて,色々な切り口からオーケストラと結びつけることができるんだなぁと実感できました。日本の音楽の原点ということで,年に一度とは言わないまでも,時々はOEKにも取り上げて欲しいジャンルだと思います。音楽堂の中でなくても,例えば,金沢城公園の特設ステージなどで,OEKの生演奏付き「豪華盆踊り大会」という企画があっても面白いかもしれません。

PS.木乃下真一さんのお名前ですが,以前は木下伸市の名前で活動されていたようです。プロフィールによると,青森県出身の方ではなく,和歌山県出身とのことでした。ちょっと意外でした。

PS.現在放送中のNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」には,三味線を演奏するシーンが出てきましたが,今回の演奏会を聞いて,ちょっとやってみたくなりました。日本人の血が騒ぐ音と言えそうです。
(2008/03/17)

JR金沢駅の中の
「熱狂の日」

ラ・フォル・ジュルネ金沢のチケットの発売も始まり,JR金沢駅にもラ・フォル・ジュルネのロゴマークやベートーヴェンの顔が現れてきました。


床にも広告が出ていました。


音楽堂のチラシコーナーです。


これは音楽堂内ですが,2005年のラ・フォル・ジュルネの映像がモニターで流されていました。