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イースター・チャリティー・キッズ&ファミリー・コンサート
2008/03/20 石川県立音楽堂コンサートホール
ドビュッシー(カプレ編曲)/子供の領分
ドビュッシー(カプレ編曲)/子供のためのバレエ音楽「おもちゃ箱」
(アンコール)グリーグ/組曲「ペール・ギュント」?朝
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:サイモン・ブレンディス)
お話:井上道義,司会:山田彰子,イースターバニー:金沢大学教育学部附属幼稚園児

Review by 管理人hs  
ポスターです。井上さんが卵の中から飛び出しているポスターは相変わらず見事な発想です。
春分の日の午前中は石川県立音楽堂で行われたイースター・チャリティ・キッズ&ファミリー・コンサートに我が家の子供と2人で出かけてきました。この演奏会は,石川県内では「森のたまご」などのブランド卵で知られているイセ食品提供のコンサートということで,ステージ上の両脇には大きな卵が並び,照明でも卵の模様が映し出していました。ロビーには,子供向けにイースター・エッグに色を塗るコーナーもあったりして,会場は楽し気な雰囲気に包まれていました。ボランティアの方も大勢お手伝いをされていましたが,これも雰囲気を盛り上げていました。何といっても,卵の会社がイースター・エッグにちなんだイベントを行うという発想の分かりやすさが良いと思いました。

今回は「キッズ&ファミリー」コンサートということで,ホール内にも小さな子供連れのお客さんが沢山いました。午前の部と午後の部の2回行われましたので,満席ではありませんでしたが,赤ちゃんの泣き声が時折聞こえてきたりして,いつもの定期公演のとはかなり違った雰囲気となっていました。

こういうシチュエーションでどういう演奏が出てくるのか大変楽しみだったのですが,その期待どおりの工夫と遊び心が散りばめられたパフォーマンスを楽しむことができました。その中心になっていたのは,もちろん井上道義さんです。今回は,子供を意識して作られた作品とはいえドビュッシーの「おもちゃ箱」という,一般的にはちょっと馴染の薄い作品が取り上げられたのですが,それを子供が見ても,大人が見ても楽しめるエンターテインメントに仕上げていました。

この「おもちゃ箱」は,22日の定期公演でも演奏されるのですが,恐らく,今回のキッズ&ファミリー向けバージョンとはちょっと違う感じで演奏されるのではないかと思います。その比較も楽しみにしたいと思います。

演奏会は,「なんだこれは!」という感じで始まりました。「おかあさんといっしょ」などの子供向け番組風なのですが,その中に洒落たユーモアと暖かみがあり,大人が見てもほのぼのとした気分になるものでした。次のような雰囲気でした。


オーケストラの椅子の配置がいつもと違い,ちょっと真ん中部分が空いているな,と思って見ていたのですが,何とこの部分から井上さんとOEKメンバーが登場しました。ステージ奥の壁面が開き,ドライアイスが溢れる中,赤い大きな卵が,「ゴリウォークのケークウォーク」の音楽に乗って,前方に向かって進んできます。それが最前面に来たところで,縦に割れ,その中から井上道義音楽監督が大の字になって飛び出してきました。

「さすがミッキー」という演出でした。このはじけ方は,井上さん以外の指揮者にはちょっと出せない雰囲気です。その後に続いて,OEKのメンバーが入ってきたのですが,この登場もとても面白いものでした。サッカーの国際試合の開始前に選手と子供が手をつないでグランドに入ってくるシーンをよく見掛けますが,これと同じような雰囲気で,OEKの各メンバーが幼稚園児と手をつないで登場しました。しかもOEKのメンバーは,卵を意識したように,全員クリーム色系統のシャツを着ていいました。

この衣装もまた新鮮でした。「オーケストラのおにいさん・おねえさんと子供たち」という何とも微笑ましい光景でした(うん,遠くからだと,確かに「おにいさん」「おねえさん」に見えました)。子ども達は,ウサギの耳のついた着ぐるみのようなものを着ていましたが,これはイースター・バニーをイメージしていたようです。イースター・バニーにどういう由来があるのか,私もよく知らないのですが,”春を呼ぶイースター”という雰囲気にはぴったりです。

最後に大きな卵を思わせる,白い風船が会場からステージ上に上げられ,パーンと割られるとその中からは黄身と白身を思わせる小さな風船が沢山出てきました。この辺の演出や小道具がどこまでこの演奏会のためのオリジナルなのか分からないのですが,本当に見事な演出でした。オリジナルだとすれば,「ブラボー,イセ食品」という感じです。いずれにしても「さすが卵メーカー」と思わせるオープニングでした。

そして,解説なしで,オーケストラ版「子供の領分」の第1曲に入って行きました。恐らく,「おもちゃ箱」の編曲者でもあるカプレ編曲による版だと思うのですが,もともとオーケストラ用に作られたと思わせるような,こなれた編曲であり演奏でした。ピアノの音階の練習をイメージした第1曲目からファンタジーに満ちており,ウキウキとした気分にさせてくれました。その後の曲も「象ならコントラバス」「羊飼いならばオーボエ」という感じで,イメージどおりの童話的な世界に安心して入ることができました。「雪は踊っている」では,ステージ上の照明を雪のイメージにしていましたが,この演出も大変効果的でした。最後の「ゴリウォークのケークウォーク」は,ドビュッシーの曲の中でもいちばんポップな曲ですが,井上さんの指揮ぶりにぴったりの曲です。大人も子供の楽しめる演奏だったと思います。

2曲目の「おもちゃ箱」は,井上さんの語りを交えて演奏されましたが,堅苦しいものでは全くなく,アドリブも含めた変幻自在の自由自在のものでした。井上さんお得意のパントマイム風の動作もふんだんに取り入れた指揮&パフォーマンスには感心するばかりでした。

この「おもちゃ箱」という作品は,おもちゃ箱の中の人形たちの繰り広げるやりとりを童話的に描いたものですが,バレエ音楽ということもあり,音楽だけを聞いていてもよくわからない部分があると思います。それを視覚面で補い,さらに想像力を掻き立ててくれるような演奏でした。

次のような展開でした(これからOEKの実演を聞くという方は後で読んだ方が良いでしょう)。
  • まずフルートの上石さんが立ち上がって主要テーマを演奏しました。
  • その後,他の楽器も重要なソロがあると立ち上がっていましたが,主題の持つキャラクターをアピールしていたようでした。特に金星さんのホルンの音が,とても柔らかでフランス音楽にぴったりだと思いました。
  • 井上さんが,「コンサートホールに幕はないけど,幕開きです」と語った後,オーケストラをおもちゃ箱に見立てた,夢の中の世界が始まります。
  • 井上さんとピアノの松井さんのやりとりがあり,ミッキーさんの方がからかわれます。この曲は,ピアノが加わることで音に締まりが出ているようなところがあります。
  • 井上さんがティンパニ奏者のウゲッティさんにライフルで撃たれてしまい,倒れ込んでピアノの下に寝込んでしまいます。
  • オーボエの水谷さんが,その傍まで演奏しながら近づいてきて様子を見にきます。
  • 井上さんが起き上がると,何故か不思議な”かぶりもの”をしています。
  • その後,いろいろな人形の踊りがコラージュ風に続きます。グノーの「兵士の行進」,メンデルスゾーンの「結婚行進曲」,ドビュッシー自身の「小さな黒人」の断片など聞いたことのあるメロディが出てきます。
  • 途中,コントラバス奏者がおもちゃの兵隊のような黒い帽子をかぶっていました。フェレンツ・ボカニーさんは,ヒゲがあるので”イメージどおり(ブラーボ)”でした。
  • サングラスを掛けていたお巡りさんがステージ上のラジコン・カーを追って客席から乱入し,井上さんに「駐車違反の張り紙」を渡して行きます(どなたが演じたのでしょうか?ちょっと難解なギャグ風でした。植木等の「およびでない?」という雰囲気もありました。)
  • 音楽堂のレセプショニストの女性が4人組で人形風の動きで上手から下手へと通り過ぎます。それに井上さんが付いていこうとします(何となく気持ちは分かる)。
  • それをコンサートマスターのブレンディスさんが引き留めます。ここでかなりもめます。このお二人なのですが...実はとても良く似ています。遠くからだと,一瞬どちらがどちらか分からなくなるぐらいです。
  • オーケストラで演奏の出番のない皆さんが,様々な動作で居眠りを開始。加納さんの演奏する,コールアングレの見せ場,聞かせ所になります。
  • 教会の朝の鐘の音で,現実に戻り,最後は「ドン」という音でおしまい。

このように,どこからどうやってこれだけのイマジネーションが出てきたのだろう?という素晴らしいステージでした。

その後,「朝になったので...」ということで,アンコールでグリーグの「ペール・ギュント」組曲の中の「朝」が演奏されて,演奏会は終わりました。演奏時間はほぼ1時間で,1階にはいろいろな店も出ており,交流ホールでは無料コンサートを行っていましたので,「ラ・フォル・ジュルネ金沢」の予行練習のような感じのところもありました。

このように大変工夫に満ちた演奏会で,すっかり感心してしまいました。イセ食品さんありがとう,という内容でした。

PS. イースター・エッグと言えば,私は,昔テレビのアニメーションで見た「スヌーピー」を思い出します。確かスヌーピーがイースター・エッグを配るようなシーンがあったはずです。調べてみると,次のようなシーンです。

http://www.snoopy.co.jp/clubhouse/encyclopedia/index.php?%A5%A4%A1%BC%A5%B9%A5%BF%A1%BC%A5%D3%A1%BC%A5%B0%A5%EB

なぜこれを覚えているかというと,背後に流れていた音楽がベートーヴェンの交響曲第7番の第1楽章だったからです。あの「のだめカンタービレ」のテーマになっているあの部分と全く同じ部分ですが,私にはスヌーピーが踊るこのシーンの方がしっかりと刷り込まれてしまっています。

イースターエッグ体験コーナー
この日は,コンサートホール前のロビーで,イースター・エッグを作ってみよう,というコーナーがありました。我が家の子供も試しに作っていました。描いているのは本物の卵ではなく,プラスティックで出来た卵です(1個100円)
沢山の子供が参加していました。
我が家の子供の手です(前方)。 完成作品です。ハートをしきりと描いていました。きれいなビニール袋に包んでもって帰りました。 色々なデザインの卵が入っていました。
イースターにちなんだ作品も展示されていました。
(2008/03/23)

イースター・コンサート
関連イベントetc

この日のコンサートのチラシとリーフレットです。下に敷いてあるのは,この日発行された,「CADENZA」です。


音楽堂に入るとこのような感じで店が出ていました。


交流ホールの上部も開けられており,カフェ風になっていました。


イセ食品関係のショップです。


私も記念にカステラを購入しました。


こちらは中身です。


交流ホールではミニコンサートが行われていました。