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第7回北陸新人登竜門コンサート:ピアノ部門
2008/04/12 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番ハ短調,op.35
2)ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調,op.11
3)ショパン/ピアノ協奏曲第2番ヘ短調,op.21
●演奏
河合美知(ピアノ*1),徳永雄紀(ピアノ*2),竹田理琴乃(ピアノ*3)
藤井幹人(トランペット*1)
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
Review by 管理人hs  
この日のポスターです。

ラ・フォル・ジュルネ金沢のポスターにも新しいものが出来ていました。石川門がデザインしてあるのが嬉しいですね。

北陸新人登竜門コンサート」に今年も出かけてきました。今回はピアノ部門で,河合美知(福井市出身)さん,徳永雄紀(福井市出身)さん,竹田理琴乃(金沢市出身)さんの3人の方が登場し,井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演しました。今回は,登場した3人のうち2人が中学3年生ということで,例年になく初々しい感じの演奏会となりました。

この中学生の演奏に先立ち,河合美知さんによるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番がまず演奏されました。恐らくこの登竜門コンサートで取り上げられるのは初めての曲だと思いますが,井上道義音楽監督の好みの作曲家ということで,OEKの演奏も大変生き生きしたものでした。この曲はピアノ協奏曲と言いつつ,実はピアノとトランペットのための二重協奏曲ですので,OEKの藤井幹人さんによるトランペット・ソロもピアノ同様の存在感を示していました。

河井さんのピアノは,曲の最初から最後まで非常にチャレンジングでした。最終楽章での一気に駆け抜けるスピード感など”新人”という名に相応しい演奏でした。おもちゃのピアノを思わせるようなキラキラとした音と,ロシアのピアノ音楽の歴史を思わせるようなたっぷりとした音との使い分けも巧みでした。コンサートホールで聞くには,強い音にもう少しダイナミックさがあっても良いかな,とも思いましたが,最終楽章の途中での「決めの音」などでは,ほとんど立ち上がってフォルテの音を演奏しており,奏者の気合いが伝わってきました。

井上道義さんの指揮も”水を得た魚”ように生気に満ちたもので,河合さんの選曲は見事に当たったと思いました。”もう一人の独奏者”の藤井さんのトランペットも,大変華やかに活躍していましたが,うるさくなる部分が全くなく,全曲に渡りマイルドな音を聞かせてくれました。進軍ラッパのような最終楽章の効果も面白かったのですが,中間楽章でのミュートを付けた音のデリケートさも聞きごたえがありました。演奏後,井上さんも盛大な拍手をしていましたが,ショスタコーヴィチのオーソリティとの共演ということで河合さんにとっては,大変良い刺激になったのではないかと思います。

その後,徳永君,竹田さんの順に中学生二人が登場しました。前述のとおり,大変完成度の高い演奏が続き,”驚きのステージ”となりました。

ショパンのピアノ協奏曲第1番を弾いた徳永雄紀君は,燕尾服姿で登場しました。新入生の制服姿を見るような初々しさがありましたが,すでにこの段階からとても落ち着き払った雰囲気がありました。OEKによる大河の流れを思わせるような豊かさを持った序奏部に続いて,徳永君のピアノが入ってくるのですが,全く慌てたところがなく,芯のあるしっかりとした音を聞かせてくれました。

この曲の序奏はかなり長いのですが,それを待つ緊張感を全然感じさせない見事な入り方でした。その後も細部まで神経が通った,安定した演奏を聞かせてくれました。普通に演奏しているだけで,すっきりとした抒情性が漂い,聞いていて切なくなるような美しさがありました。「少年の演奏するショパン」という意味で,大人には真似できないような,完成度の高さを持った演奏だったと思います(そういえば,この登竜門コンサートに男性ピアノ奏者が登場するのは今回が初めてのことです)。

この切なさは第2楽章でも同様で,OEKの管楽器のおじさん(?)たちの作る,暖かなオブリガードとともにとてもデリケートかつ豊かな音楽を堪能できました。すっかりここまでで安心しきって聞いていたのですが,第3楽章の最初の方で一瞬「どきり」とする部分がありました。この辺は,ちょっと若さが出たかもしれません。しかし,素晴らしかったのはその後のフォローです。

徳永君が,同じフレーズを弾き直してしまい,OEKの伴奏とずれてしまいそうになりました。演奏が止まる?と一瞬思ったのですが,さすが井上さんとOEKです。素早く軌道修正し,全く止まらずに演奏が続きました。恐らく,このトラブルに気付かなかった人も多かったのではないかと思います。徳永君の方も見事で,その後は平然と最後まで弾き切りました。この辺の舞台度胸も素晴らしいと思いました。

最終楽章では,高音のトランペットの音がとても印象的でしたが,ピアノの音も鮮やかでした。楽章の最後の方でショパン国際コンクールのライブ録音などを聞いていても,よくミスタッチのある部分があるのですが,その部分も難なくこなしており,素晴らしい技巧を堪能できました。

ここで休憩が入り,後半は同じショパンのピアノ協奏曲第2番が竹田理琴乃さんのピアノ独奏で演奏されました。竹田さんについては,昨年のシューベルト・フェスティバルをはじめ,過去何回か実演を聞いたことがあるのですが,今回もまた大変安定したピアノを聞かせてくれました。

徳永君も最初に登場した河合さんも小柄な方でしたが,竹田さんはさらに小柄でステージに登場した時は,ピアノ教室の発表会が始まるような雰囲気がありました。とても鮮やかな赤いドレスで登場したこともあり,見ていてほのぼのとしてくるような,華やかさを感じさせてくれました(最初に演奏した河合さんのワインレッドのドレスと好対象でした)。

しかし,演奏が始まると雰囲気が一転し,線の太さを感じさせてくれるほど堂々とした演奏を聞かせてくれました。第1番を弾いた徳永君と甲乙付けがたい演奏,男女の区別はあるけれども雌雄を決しがたい見事な演奏でした。

今回の演奏の中では,特にノクターン風の第2楽章の美しさが絶品でした。中間部での思い詰めたような表情も大変聞きごたえがありました。第3楽章では,ホルンがソロで信号音を演奏した後,一気にコーダに流れ込むのですが,この部分での鮮やかな技巧も見事でした。ちょっとソツがなさ過ぎる?と思わせるくらい素晴らしい締めくくりでした。

ショパンの2曲のピアノ協奏曲はショパン自身が10代の頃に作曲した作品ですので,今回の中学生二人による連続演奏は(意図したものではなかったと思いますが),大変好企画だったと思います。それを男子・女子が弾き分けるというバランスもとても面白く,会場もとても盛り上がっていました。この二人は同じ北陸出身の同年齢のピアニストということで,これからも良きライバルとして頑張って欲しいと思います。

実は,私にもこのお二人と同世代の子供がいるのですが,自分自身に当てはめてみた場合,演奏者以上に,お二人の御両親にとっては夢のような出来事だったのではないかと思います。我が家の子供と比較すると...ちょっと信じられない気もします。

終演後,3人のソリストが再度ステージに勢ぞろいしたのですが,徳永君のおっかけ(?)風の女性数名が客席最前列からスタンディング・オベーションで熱烈な声援を送り,ついにはステージまで駆け寄り握手を求めていたのが印象的でした(さしずめ”ピアノ王子”といった所でしょうか?)。それに反応して,井上さんが竹田さんと河合さんに駆け寄り,ひざまづいて握手を求めていましたが,この辺のアドリブのセンスは井上さんならではです。最高でした。

といったこともあり,大変和やかな雰囲気の中でお開きとなりました。過去の登竜門コンサートの中でも特に盛り上がったコンサートだったような気がします。

PS.ちなみに徳永君ですが,以下のような形で井上道義さんと再度共演するようです。
http://hpac-orc.jp/news/20080324.php
また,ホームページでは未発表ですが,ラ・フォル・ジュルネ金沢の5月3日(土)の交流ホールでの無料コンサートにも登場するようです。

(2008/04/13)









春の浅野川
この日は,ちょうど浅野川周辺で浅の川園遊会を行っていました。浅野川を上流から下流に向けてご紹介しましょう。

鈴見橋から上流を見た風景


天神橋と桜


園遊会の看板登場


瀧の白糸像。背景は新装された梅の橋。


以前に比べると随分白っぽくなりました。



梅の橋から上流を見てみました。左側は徳田秋声の記念館です。



梅の橋から下流を見てみました。私のもっとも好きな金沢の風景の一つです。


この辺りでイベントを行っていました。


浅野川大橋です。


ポスターです。