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オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ:もっとカンタービレ
第7回バロック音楽の夕べ
2008/04/21 石川県立音楽堂交流ホール
1)ヴィヴァルディ/室内協奏曲ニ長調「ラ・パストレッラ」
2)ロカテルリ/トリオ・ソナタト長調
3)バッハ,J.C./四重奏曲ト長調
4)ヘンデル/トリオ・ソナタ第4番ヘ長調
5)バッハ,J.S./ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調
6)(アンコール)バッハ,J.S./ゴルトベルク変奏曲〜アリア
●演奏
小林道夫(チェンバロ)
岡本えり子(フルート*1,5),水谷元(オーボエ*1,4),加納律子(オーボエ*4),柳浦慎史(ファゴット*1),渡邊聖子(ファゴット*4),ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*1),大村俊介,大村一恵(ヴァイオリン*2),山野祐子(ヴァイオリン*3),松井直,上島淳子(ヴァイオリン*5),石黒靖典(ヴィオラ*3),大澤明(チェロ*1-3,5),今野淳(コントラバス*5)

Review by 管理人hs  
1階から交流ホールをのぞきこんだ光景です。今年も金沢フォーラスとスターバックスコーヒーの協賛でした。
昨年度から始まった「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ:もっとカンタービレ」が,今年度も継続して行われます。指揮者主導による定期公演とは一味違った「OEK楽団員オール・プロデュース」によるオリジナリティ溢れるプログラミングで大いに注目をしていたのですが,2シーズン目に入り「もう一つの定期公演」的な位置付けがしっかりと定着しそうです。

通算7回目となる今回は「バロック音楽の夕べ」と題し,日本を代表するチェンバロ奏者である小林道夫さんをゲストに招いて,バロック時代の作曲家5人の作品5曲が演奏されました。どの曲にも小林さんは通奏低音として登場し,その上で演奏するOEKメンバーが次々と代わるというパターンでしたが,この構成も面白いと思いました。

演奏されたのは,ヴィヴァルディ,ロカテルリ,J.C.バッハ,ヘンデル,J.S.バッハの曲でした。最後に演奏された,J.S.バッハのブランデンブルク協奏曲第5番以外は初めて聞く曲ばかりでしたが,すべての曲の楽器編成が違い,雰囲気も違っていたので,飽きずに楽しむことができました。何よりも交流ホールのようなステージと客席が近いホールだと,チェンバロのような音量の小さな楽器の音もしっかりと聞こえます。室内楽を聞くにはぴったりの雰囲気ということで,優雅な時間を過ごすことができました。

今回のアンサンブルの核である小林道夫さんは,自称「後期高齢者」とのことでしたが,折り目正しい話しぶり,学究的で知的な雰囲気は以前と全く変わりません。OEKメンバーによるバロック音楽の演奏は比較的珍しいのですが,どの曲にも地に足が付いたような落ち着きがありました。近年,バロック音楽については,古楽奏法を取り入れたサラリとした感触の演奏が主流ですが,今回の演奏のようなしっかりと地に足が付いたような着実な演奏を聞くと「やっぱり落ち着くなぁ」と感じました。

最初に演奏されたヴィヴァルディの曲は,「ラ・パストレッラ」という田園舞曲風の曲でした。フルート,ファゴット,オーボエの響きが大変まろやかで,曲想にぴったりでした。2楽章は岡本さんのフルート・ソロによるシチリア舞曲でしたこれも大変聞きごたえがありました。

ロカテルリのトリオ・ソナタ(ただし奏者は4人)は,大村夫妻のヴァイオリンのハモリ具合が最高でした。聞いていて,大変心地よい二重奏でした。この曲でも2楽章のシチリア舞曲が印象でした。小林さんの書かれたプログラム・ノートには,「メロディを演奏する2つのヴァイオリンは3拍子,通奏低音は2拍子で演奏してみます」と書かれていたのですが,ちょっと割り切れないぎこちなさが,独特のひっかかりを作り,曲に陰影を付けていたように思えました。この曲以外についても,今回の小林さんの解説は,聞き所がコンパクトにまとめられており,曲間に読むには丁度良い長さでした。初めて聞く曲ばかりでしたので,特に参考になりました。

続く,J.C.バッハの四重奏曲は,今回演奏された曲の中では少し雰囲気の違う曲でした。これもプログラム・ノートに書かれている点ですが,より古典派の音楽に近い部分がありました。J.C.バッハは,有名なJ.S.バッハの末っ子で特に目をかけられていたとのことですが,バロック音楽というよりは,モーツァルトの曲などに近い部分がありました。この対比を聞かせるところに,この選曲の意図がありました。

個人的には,やはり古典派音楽の方が親しみ易いと感じました。ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,チェンバロという編成でしたが,チェロもチェンバロも独奏楽器のように動く部分があり,やはりトリオ・ソナタではなく四重奏だと感じました。小林さんのチェンバロの音がとても軽やかで,アレグロ?アレグロと宙に舞うような気持ちよさがありました。この大バッハとモーツァルトの間の時代というのは,名曲が多いのに盲点になっている時代のような気がします。次回はこの辺の音楽の特集なども期待したいと思います。

後半は,ヘンデルとバッハというお馴染みのお二人の曲が演奏されました。ヘンデルのトリオ・ソナタは,オーボエ2本,ファゴットにチェンバロという編成でした。水谷さんと加能さんの2本の艶やかなオーボエに渡邊さんのファゴットが加わり,線と線との絡み合いを楽しむことができました。目がさめるような鮮やかさと同時に息の合った暖かみのある,仲間の音楽となっていました。

トリのバッハのブランデンブルク協奏曲第5番は,OEKの定期公演の中でも演奏されたことのある作品ですが,今回は室内楽編成で演奏されました。とてもよくまとまった演奏で,他の曲同様,コンサートホールで聞くよりは,より親密な雰囲気を楽しむことができました。小林さんのチェンバロ・ソロが大活躍する曲ですが,前日に小曽根さんのピアノを聞いたばかりだったので,ジャズのアドリブに通じるものがあるなぁ,と感じてました(小曽根さんのバッハというのも,そろそろあり?)。室内楽そのものの第2楽章の落ち着いた雰囲気も良かったのですが,しなやかさと滑らかさのある岡本さんのフルートと松井さんのヴァイオリンがとても印象的で,協奏曲的な華やかさも十分ありました。

アンコールでは,小林さんのチェンバロ独奏で,J.S.バッハのゴルトベルク変奏曲の主題である「アリア」が演奏されました。どこかぎこちなさのあるしみじみとした音楽で,演奏会が終わる名残惜しい気分とシンクロしていました。かなり以前,石川県立美術館で室内楽や器楽曲の演奏会を頻繁に行っていた時期があるのですが,その時に聞いた,小林さんの独奏によるゴルトベルク変奏曲の記憶が甦ってきました。交流ホールはチェンバロのリサイタルなどにも丁度良いホールですので,機会があれば,チェンバロ・シリーズというのも面白い気がしました。

今回の演奏会については,今回の公演のプレデュース担当である大村俊介さんが「OEKがバロック音楽に取り組んだ特別な演奏会」であると語っていました。未知の名曲の宝庫であるバロック音楽の室内楽シリーズの第1歩ということで,大きな意味のある公演だったと思います。

PS.今回,交流ホールの座席がいつもと違っていました。交流ホールを階段状の構造にした場合,これまでは階段の上に敷かれたシートに座っていたのですが,今回は階段の上に椅子が置かれていました。座ってみて「これでいいんです」と感じてしまいました。シートの上に座った場合,背もたれがないため,演奏会が進むにつれて腰が痛くなるのが常だったのですが,椅子だとそういうことはありません。舞台もよく見えるし,大変快適でした。(2008/04/25)

音楽堂地下も
熱狂の準備中
交流ホールのある音楽堂の地下から金沢駅地下にかけてもラフォル・ジュルネ金沢のポスターが増えてきました。



北陸鉄道の地下の金沢駅前です。


こちらはホテル日航金沢方面です。


近づいてみると...ここにもベートーヴェンがいました。アートホールに移動する際はこの辺にも案内の人が必要かもしれません。




夜のもてなしドームです。