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ふだん着ティータイムコンサートVol.11
2008/05/24 金沢市民芸術村
■オープン・スペース
14:00〜 子供のためのコンサート

シュトラウス,J./ポルカ「観光列車」
プライヤー/口笛吹きと犬
榊原栄/キッチンコンチェルト
久石譲/さんぽ
恒例,1分間指揮者コーナー(さんぽ,ベートーヴェン/交響曲第5番〜第1楽章)
シュトラウス,J./かじ屋のポルカ
手のひらを太陽に
●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバー(コンサート・マスター:松井直),司会:柳浦慎史

■ミュージック工房
室内楽コンサート
【第1部 15:00〜】
1)ジェイコブ/シンプル・セレナーデ
2)ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第10番〜第2楽章
3)ベートーヴェン/クラリネットとファゴットのための二重奏曲第3番〜第1楽章,第2楽章4)ベートーヴェン/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第3番からアリアと変奏
●演奏
岡本えり子(フルート*1),加納律子(オーボエ*1),渡邊聖子(ファゴット*1),木藤みき(クラリネット*1),松井直,竹中のりこ(ヴァイオリン*2),ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*4),石黒靖典(ヴィオラ*2),大澤明(チェロ*2,4),遠藤文江(クラリネット*3),柳浦慎史(ファゴット*3)

【第2部16:00〜】
1)ドホナーニ/セレナーデ
2)イザイ/無伴奏ソナタ第2番〜1,3,4曲
3)ベートーヴェン/エリーゼのために
4)ベートーヴェン/モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から「お手をどうぞ」の主題による変奏曲
5)ラヴェル/ヴァイオリンとチェロのためのソナタ〜第1楽章,第2楽章
●演奏
坂本久仁雄(ヴァイオリン*1,5),山野祐子(ヴァイオリン*2),古宮山由利(ヴィオラ*1),ルドヴィート・カンタ(チェロ*1,5),水谷元(オーボエ*3,4),遠藤文江(クラリネット*3,4),柳浦慎史(ファゴット*3,4)

【第3部17:00〜】
1)ヴィラ=ロボス/弦楽四重奏曲第4番〜第1楽章,第3楽章
2)コダーイ/無伴奏チェロソナタ〜第2楽章
3)高橋悠治/7つのバラがやぶにさく
4)フランセ/イングリッシュホルン四重奏曲
●演奏
原三千代(ヴァイオリン*1),上島淳子(ヴァイオリン*1),原田智子(ヴァイオリン*3),山野祐子(ヴァイオリン*4),古宮山由利(ヴィオラ*1,4),早川寛(チェロ*1,4),ルドヴィート・カンタ(チェロ*2),加納律子(オーボエ*4)
Review by 管理人hs  
公演のポスターです。

今回で11回目となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)団員によるふだん着ティータイムコンサートに出かけてきました。この日は午前中まで雨天,午後からも曇天だったのですが,例年どおり大勢のお客さんが金沢市民芸術村に集まり,午後2時から午後6時半頃までの4時間あまり,子供のためのコンサートとOEK団員による室内楽の公演を楽しみました。

今回のプログラムは,例年にも増して渋いところがありましたが,それでも芸術村のミュージック工房のような密度の高い空間だと迫力がダイレクトに伝わって来るので,オーケストラ全体を聞くのとは違った楽しみ方ができます。それと,やはり,OEKの皆さんも普通の人(?)なのだな,と実感できます。これがこのコンサートの良さです。今回演奏された曲の中では,無伴奏で一人で演奏する曲が特に印象的でした。3曲ありましたが,いずれも集中力の高い演奏で,じっくりと聞き入ってしまいました。

演奏会の構成は,「子供のためのコンサート」+「室内楽コンサート」×3,1公演が45分単位という点で,「ラ・フォル・ジュルネ」を先取りしたようなところがあります。曲間で柳浦さんが語っていたのですが,「ラ・フォル・ジュルネ」よりも「ふだん着」の方が歴史が長い点がエライところです。

休憩時間を入れて約4時間半ということで,演奏された皆さん,ボランティアでお世話をされていた楽友会の皆さんはお疲れだったと思います。ただし,11回目ということで,全体の進行は,とてもリラックスした感じで,OEKの皆さんのトークも余裕たっぷりでした。団員の皆さんのトークは毎年毎年,確実に上手になっていると思います。

演奏会は,まず最初に「子供のためのコンサート」が行われました。例年通り,「鳴り物」入りのシュトラウスの曲で始まりましたが,その後は,定番の”楽器紹介”ではなく,”団員インタビュー”となっていました。「金星さん,最近,歯の治療をしましたね(なぜか,金星さんが歯磨きセットを懐から出してきてびっくり)」とか「カンタさん,津幡は良い町ですか?」とか「ヴォーンさん,ヴァイオリンの大変なところは何ですか?」「高いところです(音ではなく値段が)」とか「今野さん,今年OEK設立20年ですが,辛かったことは?」「多すぎて思い出せません」とか,何と言うか司会の柳浦さんと団員の皆さんとの絶妙のトークの連続でした。

その後,「口笛吹きと犬」が演奏されました。ピッコロの上石さんが大活躍されていましたが,最後に「ワン,ワン...」というOEKの皆さんによる鳴き声が出てきて,更に盛り上がりました。ただし,この曲は,「口笛吹きと犬」というタイトルの割には,「犬」の出番が本当に少ないですね。今回初めて気づきました。

次の榊原栄さん作曲のキッチン・コンチェルトは,別の会場で聞いたことがありますが,子供向けのコンサートにはぴったりの曲です。打楽器の渡邊さんが,鍋やらフライパンやら(ちゃんとソ,ミ,ド...という感じの音程の違いが出るのが素晴らしい)大根おろしやらを叩きまくっていました。協奏曲ということで,カデンツァもちゃんと付いているよく出来た作品です。

映画「となりのトトロ」の中の「さんぽ」を皆で歌った後,恒例の「1分間指揮者コーナー」になりました。今回の課題曲は,「運命」の冒頭と「さんぽ」の選択でしたが,小さいお子さんが多かったせいか,「さんぽ」中心でした。しかし,これが予想以上に面白かったですねぇ。「さんぽ」を始めた途端,”ぱたり”と足を止めて「行き倒れ」になってしまう人がいたり,「さんぽ」ならぬ「暴走」する人がいたり(この演奏は抱腹絶倒ものでした),実に楽しいステージになりました。

続いて,シュトラウスの「かじ屋のポルカ」が演奏されました。今回は,エキストラの南真一さんが「かじ屋」役で参加していました。最後は,「手のひらを太陽に」を皆で歌って,お開きとなりました。

休憩の後は,お隣のミュージック工房に場所を移し,室内楽公演が行われました。「ふだん着」恒例のビューティー・フォーによる木管四重奏でジェイコブの作品が演奏された後,気分が一転し,ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第10番の第2楽章が演奏れました。不協和音が連続する,ほとんどロック・ミュージックのようなエネルギーに満ちた曲でした。第1部の後半は,「ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)」の余韻のように,ベートーヴェンの室内楽曲が2組のデュオによって演奏されました。お揃いの「ラ・フォル・ジュルネ金沢」オリジナルTシャツを着て登場した遠藤/柳浦組とヒューズ/大澤組の競演で,同じ曲を違う楽器の組み合わせで比較することができました。こういう「連携」も,気楽な演奏会ならではのことです。

第2部は,ドホナーニのセレナードで始まりました。初めて聞く曲でしたが,現代的な感覚と懐かしさが共存しており,とても聞き応えがありました。続く,山野さんのヴァイオリン独奏によるイザイの無伴奏ソナタ第2番は,”大人向け”という雰囲気のある曲でした。バッハの曲の引用があったり,怒りの日のメロディが出てきたり,払っても払っても妄想が湧き上がってくるような神経質な気分が非常に現代的だと思いました。

その後は打って変わって,LFJKのTシャツを着た3人による,健康的な木管三重奏で,ベートーヴェンの曲が2曲演奏されました。ここで演奏された曲は,LFJKでも演奏された曲でしたので,”アンコール公演”ということになります。

おなじみの「エリーゼのために」は,一つのメロディを3人で分担して演奏しているような,とても面白い編曲でした。「お手をどうぞ」による変奏曲は,一見気楽に聞いてしまいそうな曲ですが,奏者は大変な曲だと思いました。特にオーボエのパートは早い動きの連続で大変聞き応えがありました。ちなみに,お三方の着ていたLFJKのTシャツは自前で購入されたそうです。実は,我が家にもあるので,着ていけば面白かった(?)かな,と後悔しています。

第2部の最後は,ラヴェルのヴァイオリンとチェロのためのソナタの抜粋でした。かなり前衛的な曲ですが,微妙な音程の揺れであるとか生々しいピツィカートであるとか,演奏の迫力がダイレクトに伝わってきて,大変楽しめる演奏となっていました。

第3部もまた,かなりマニアックな感じの曲から始まりました。LFJKのTシャツならぬブラジル・サッカー・チームのユニフォームを着て登場したチェロの早川さんを含む弦楽四重奏でヴィラ=ローボスの弦楽四重奏曲第4番の抜粋が演奏されました。もっとアクの強い曲かと思ったのですが,意外に渋い曲で,ラテン系の気分とはかなり違った雰囲気の曲でした。

カンタさんの独奏によるコダーイの無伴奏チェロソナタの第2楽章は,今回のプログラム中の白眉だったような気がします。譜面なしで,椅子だけが1つ置いてあるステージにカンタさんが登場し,何も言わずにすっと弾き始めましたが,まずこれが格好良かったですね。そして,素晴らしい演奏でした。どこか「オリエンタル」というか「和風」の雰囲気もあり,侘び寂びの深みを感じさせてくれるような演奏でした。

続く原田さんのヴァイオリン独奏による高橋悠治作曲の「七つのバラがやぶにさく」も独特の作品でした。全編ノンヴィブラートで演奏されたのですが,ところどころポルタメントが掛かっていたり,奇妙な音を出したり,静けさと奇妙さと詩的な空気に満ちた感じの曲でした。ちなみに,この「七つの...」という曲は,ブレヒトの「恋歌」に曲を付けたものとのことです。1曲前のコダーイの曲の雰囲気とも呼応する部分もあり,ミュージック工房が異次元空間に入ってしまったような感覚になりました。

最後にフランセ作曲のイングリシュホルン四重奏曲という,非常に珍しい作品が演奏されました。このジャンルの曲を聞くのは初めてのことですが,こういう冒険ができるのも,「ふだん着」ならではです。加納さんのお話によると,「フランセは,管楽器の専門家なので,イングリッシュホルンのパートは気持ちよく演奏できるが,弦楽器の方は...とても大変」とのことでした。急緩の楽章が交互に出てくるような曲でウィットと同時にイングリッシュホルンならではの甘くたっぷりした音を楽しむことができました。それにしても,近くで見ると,イングリッシュホルンという楽器は長いですね。座って演奏すると,床にくっつきそうな感じでした。

この「ふだん着ティータイム・コンサート」のいちばん良い点は,すぐ間近で演奏やトークを聞くことによって,OEKの個々のメンバーに対する親近感を増すことができる点です。今年はラ・フォル・ジュルネ金沢のすぐ後の公演ということで,新たなファン層にもアピールできた「ふだん着」コンサートだったのではないかと思います。今回のような室内楽公演の後,「晴れの舞台」でフル編成のOEKを聞くというのは,OEKのコアなファンを増やしていくにはとても効果的なのではないかと思いました。(2008/05/28)

市民芸術村写真集


ツツジの美しい芸術村


ポスターとオープンスペースに向かう通路


オープンスペースは,今年も大勢の人が入りました。


例年通り,飲み物のサービスもありました。楽友会の方がお手伝いをされていました。


よく見ると,LFJKのTシャツを着ている方がチラホラ


キッチン・コンチェルトの演奏です。いろいろな台所用品が並んでいました。

休憩時間中の光景。建物のすぐそばに水があると空気が和みます。