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オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ:もっとカンタービレ第8回
群響&OEKジョイント:2つのオーケストラの管打楽器奏者による一夜限りのコラボレーション
2008/06/28 石川県立音楽堂交流ホール
1)デュカス/バレエ音楽「ラ・ペリ」〜ファンファーレ
2)グノー/小交響曲変ロ長調
3)シュトラウス,R./13の吹奏楽器のためのセレナード
4)ロドリーゴ/管楽合奏のためのアダージョ
●演奏
指揮:井上道義*1,4
フルート:パヴェル・フォルティン(群響)*2,4,岡本えり子(OEK)*3,4,白水裕憲(群響)*3,4
オーボエ:加納律子(OEK)*2,4,水谷元(OEK)*3,4,渡邊潤也(群響)*2-4
クラリネット:野田祐介(群響)*2-4,遠藤文江(OEK)*2,4,木藤みき(OEK)*3,4
ファゴット:奈波和美(群響)*2,柳浦慎史(OEK)*2,3,西岡千里(群響)*3,4,渡邉聖子(OEK)*3,4
ホルン:金星眞(OEK)*1,2,4,山田篤(OEK)*3,4,下舘廣起(群響)*1,3,湯川研一(群響)*1,3,4,小林秀男(群響)*1,4,阿形俊二(群響)*2,3
トランペット:藤井幹人(OEK),牧野徹(群響),小木曽聡(群響)*1,4
トロンボーン:棚田和彦(群響),大馬直人(群響),石原左近(群響)*1,4
チューバ:松下裕幸(群響)*1,4
打楽器:渡邉昭夫(OEK),福田喜久夫(群響),堀川正彦(群響)*4
Review by 管理人hs  
公演のポスターです。

こちらの方は,演奏者名等が書かれた公演ポスターです。

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の”もう一つの定期公演”として定着しつつある「もっとカンタービレ:OEK楽員オールプロデュース」シリーズの8回目に出かけてきました。これまでのこのシリーズでは,弦楽器を中心とした室内楽が多かったのですが,今回は管楽器メンバーを中心とする内容で,「室内楽」の範疇を越えるぐらいの人数(井上道義さんが指揮された曲もありました)による演奏を楽しむことができました。

今回の公演のもう一つの特徴は,翌日の定期公演で合同演奏を行う群馬交響楽団(群響)の管楽器メンバーとの合同演奏になっていた点です。定期公演は,オーケストラ全体としての合同演奏,「もっとカンタービレ」の方は管楽アンサンブルレベルの合同演奏ということで,公演チラシのサブタイトルどおり”一夜限り”のコラボレーションを楽しむことができました。

プログラムは,金管メンバーによる,「ラ・ペリ」のファンファーレの後,9人→13人→25人と編成が増えていく構成になっていました。最初のファンファーレは,「タイトルは知らなくてもどこかで聞いたことのある曲」だと思います。儀式っぽい品の良さと近代的な切れ味の良さが同居した名曲です。今回は交流ホールでの演奏だったのですが,以下のような独特の配置を取っていました。

  Hrn Hrn Hrn Hrn
 Tp             Tuba
 Tp             Tb
 Tp             Tb
       指揮者     Tb


ホルンのベルも後向きですので,結局,お客さんの方にベルが直接向いている楽器は全然ないことになります。今回の会場の交流ホールでお客さんの方に直接向いて演奏した場合,恐らく,うるさすぎるのだと思います。そのことを配慮しての演奏でした。ステージのいちばん縁に立って演奏することで,音の広がりも素晴らしく,音があちこちに飛び交う,「ステレオ効果」を楽しむことができました。井上道義さんは「お願いされたので指揮者として登場しました」ということでしたが,とても折り目正しくピリっと身が引き締まるような音楽を聞かせてくれました。

OEKのファゴット奏者の柳浦さんと群馬交響楽団のクラリネット奏者の野田さんが登場し,今回の企画についての説明がありました。この日は舞台転換に少し時間がかかる点と演奏時間的に少し短いこともあり,お二人による「掛け合いトーク」で進行されていく形になっていました。このトークもまた大変楽しめました。交流ホールでのシリーズについては,「団員の生の声を聞ける」というのが,定期公演にない大きなセールス・ポイントだと思います。

なお今回,ジョイント・コンサートが行われることになった経緯ですが,次のとおりとのことです。
  1. 群響のクラリネット奏者の野田さんは,これまでもたびたびOEKの公演にエキストラで参加していた。
  2. 毎回とても居心地が良く,よそのオーケストラのような気がしなかった。
  3. 東京でOEKのクラリネット奏者の遠藤さんのリサイタルがあった時に,群響とOEKのジョイント・コンサートにあわせて,管楽セクションのジョイントができないか打診
  4. もっとカンタービレの一つとして実現!
次の曲は,グノーの小交響曲でした。交響曲という名前は付いていますが,実質は管楽九重奏曲です。曲名中の”小”という言葉は,時間的に短いというよりは,編成的に小さいということになります。フランスの作曲家には,管楽アンサンブルの曲は多いのですが,この曲もとても耳に心地よい作品でした。「交響曲」ということで4つの楽章からなっていましたが,重苦しさや難解さは全くなく,リラックスして楽しむことができました。聞いていてこれだけ疲れない交響曲も少ないと思います。

第1楽章はどこかリズミカルな田園舞曲というムード,第2楽章はフルートから各楽器に受け継がれていく歌の連続,第3楽章は狩の雰囲気のあるスケルツォ,第4楽章は明るい生気に満ちたフィナーレ,という感じで,全曲のまとまりもとても良いものでした。管楽器の音のブレンドと各楽器間の組合せの妙も楽しむことができました。これだけ間近だと,「今誰と誰がコンタクトを取っているな」というのがかなり良く分かるのです。

後半はまず,R.シュトラウスがまだ十代の時に書いたという13の吹奏楽器のためのセレナードが演奏されました。タイトルどおり,モーツァルトのセレナードを意識した作品で,「これが十代の若者の曲?」と思わせるほどの落ち着いた雰囲気の曲です。あまり革新的な雰囲気はないのですが,この職人芸的作風はシュトラウスならではと言えそうです。

曲は単一楽章で,穏やかな気分が徐々に盛り上がり,また静かに終わるような感じに曲でした。13人の楽器の中でホルン4人というのがやはりシュトラウスらしいところです。それとコントラ・ファゴットが入っているのも特徴的でした。このことによって室内楽編成とは思えないような重厚さ奥行きが出ていました。この曲もまた,聞いていて大変心地よい作品でした。

演奏会の最後は,ロドリーゴの管楽合奏のためのアダージョという非常に珍しい曲が演奏されました。奏者は25人ということで,弦楽器以外はほとんど全員という編成になっていました。これだけの数になるとやはり指揮者が居た方が良いので,この曲は井上道義さんが指揮をされました。

「ロドリーゴと言えば,アランフェス協奏曲」というのが合言葉のようなものですが,この曲の主題は,アランフェス協奏曲の中でも特に有名な第2楽章の「チャララ〜」のメロディを使っていました。このメロディを最初フルートが演奏した後,オーボエが受け継ぎ...と続いていきます。この部分が「アダージョ」なのですが,その後,突如雰囲気が変わり,打楽器がリズムを刻み始めると,ちょっとポップスっぽいムードになり,ノリノリという感じのアップテンポになります。この落差が面白い曲でした。吹奏楽団でアランフェスを演奏したら,こういう感じになるかも,と思わせる楽しい作品でした。

今回の「もっとカンタービレ」は,管楽器中心ということで,これまでの室内楽シリーズとは少し違った切口からOEKを楽しませてくれました。次回,別の団体とジョイント・コンサートを行う機会があれば,また,続編を期待したいと思います。

PS.上述の野田さんと柳浦さんのトークの中で,群響のフルート奏者のパヴェルさんの衣装の話題になりました。事前打ち合わせでは「全員黒のシャツ」ということだったのですが,パヴェルさんの衣装はどう見ても黄土色です。その理由は,パヴェルさんへの連絡が遅れてしまったこともあるのですが,パヴェルさんのシャツは全部特注だということもその理由の一つとのことでした。腕の長さが93cmもあるそうで,いつも某デパートで作ってもらっているそうなのですが,今回は時間が間に合わず,仕方なく他の色を着てこられたとのことです。OEKの女性奏者をはじめ,他の方も自由な色の衣装を着てこられていたので,揃っていなくても不自然ではなかったのですが,舞台衣装一つを取ってもいろいろと裏ではご苦労があることを知ることができました。(2008/07/01)

音楽堂写真集

交流ホールの上の窓に貼ってあるポスターです。


ラ・フォル・ジュルネ金沢関連の新聞・雑誌記事の切り抜きが掲示されていました。