OEKfan > 演奏会レビュー
ジョイントコンサート:朝日親子サマースペシャル
2008/08/17 石川県立音楽堂コンサートホール
1)レスピーギ/組曲「鳥」
2)新美徳英(倉知竜也編曲)/ぼくは雲雀
3)モーツァルト/ディヴェルティメントヘ長調,K.138〜第1楽章
4)バデルト/映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の音楽
5)シベリウス/交響詩「フィンランディア」op.26
6)(アンコール)杉本竜一/ビリーブ
●演奏
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(1-2,4-6);石川県ジュニア・オーケストラ(3-6)
司会:橋本和芳(北陸朝日放送アナウンサー)
Review by 管理人hs  
公演ポスターが,音楽堂前に貼られていました。サンダル履きの子供たちの姿もよく見かけました。

別件でJR金沢駅を通りかかったのですが,改札前にしっかりと大きなポスターが掲示されていました。

翌日から「いしかわミュージックアカデミー」が始まるということで,その立看板が音楽堂前に出ていました。

ヨーロッパの夏の音楽祭ツァーから戻ったばかりのオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とOEKエンジェル・コーラス,石川県ジュニア・オーケストラが共演する夏休み恒例「ジョイントコンサート:朝日親子サマースペシャル」に出かけてきました。エンジェル・コーラス,ジュニアオーケストラともに,県内の小・中・高校生から成る団体ですので,会場はその家族・親戚・友人・友人の友人...といった親子連れの姿が目立ちました。私も子供と2人で出かけてきたのですが,我が家の子供もプログラムの団員名簿を見て「この子知っとる。この子も知っとる」という感じで指差しながら,自分と同世代の子供たちとOEKとの”夢の共演”を楽しんでいました。

最初にOEKの単独でレスピーギの「鳥」が演奏されました。この曲は,バロック時代のチェンバロ曲などをレスピーギがオーケストレーションをした曲ということで,演奏に先立って指揮者の鈴木織衛さんがチェンバロでラモーの「めんどり」を演奏しました。この曲は,サン=サーンスの「動物の謝肉祭」にも引用されている有名な作品ですが,このような形であらかじめオリジナルのチェンバロ版を聞いておくと,レスピーギのオーケストレーションの面白さがよく実感できます。とても面白い趣向だったと思います。

曲はこの「めんどり」を含む5曲から成っていますが,どの曲も比較的ゆっくりしたテンポで演奏され,各曲がしっかりと描き分けられていました。特に要所で出てくる木管楽器の音の瑞々しさが印象的でした。小編成の曲の割には,チェレスタ,ハープといったきらめくような色彩感を加えるような楽器や,トランペットなどの金管楽器の鋭い音も使われており,最小限の編成で最大の効果を上げるような編曲だと思いました。5曲目の「カッコウ」の最初の部分など,現代の映画音楽の原型を聞くような面白さを感じました。

続いて,OEKとエンジェルコーラスとの共演で新美徳英さんの「ぼくは雲雀」が演奏されました。これは意図的な選曲だったと思いますが,前半2曲は”鳥つながり”となりました。この曲は過去にも,このサマーコンサートで演奏されたことがありますが,その時同様,倉知竜也さん編曲によるオーケストラ伴奏版による演奏でした。オリジナルは,女声合唱とピアノのための曲で,谷川雁さんの詩による次の8曲からなっています。

  自転車でにげる
  ふたりで
  なぎさ道
  あしたうまれる
  ちいさい法螺
  ぼくは雲雀
  わらべが丘
  ライオンとお茶を

簡単に歌えそうな,とてもシンプルなメロディ・ラインの曲ばかりなのですが,ジャズ風になったりラテン音楽風になったり,手拍子が入ったり...と1曲ごとに工夫が凝らされており,全く飽きずに楽しむことができました。自転車の「チリンチリン」という音をはじめ,打楽器が活躍する部分も多く,児童合唱が歌うのにぴったりの”遊び”感覚に溢れていました。8曲の中では,2組に分かれた合唱が手拍子の掛け合いをしながら歌う6曲目「ぼくは雲雀」のギャロップするような疾走感と最後の「ライオンとお茶を」のカーニバル風の盛り上がりが特に印象的でした。

エンジェル・コーラスの歌は,不自然にならない程度にPAを使って声量を拡大していたようですが,この曲に相応しい,無邪気さや可愛らしさが十分に出ていたと思います。エンジェル・コーラスの”基本レパートリー”としてこれからも歌い続けていって欲しい曲です。

後半はまず,石川県ジュニア・オーケストラ単独でモーツァルトのディヴェルティメントK.138の第1楽章が演奏されました。この曲は弦楽器メンバーだけで演奏されたのですが,ジュニア・オーケストラの弦楽器の編成は,かなり偏りがあり,ヴァイオリンの人数が非常に多い一方,ヴィオラ以下の楽器は,指導者の方々がかなり”応援”に入っていました。OEKのような軽やかな透明感はありませんが,充実した厚みのあるカンタービレは,なかなか聞き応えがありました。

次の映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の音楽は,管楽器・打楽器メンバーも加わり,OEKとの合同で演奏されましたので,ステージ上は人でぎっしりになりました。私自身,この映画を観たことはないし,ディズニー・ランドにも行ったことはないのですが,「これぞハリウッド調!」という感じの豪快さで,これでもかこれでもかというワクワクとさせるような音楽に浸ることができました。

最後の「フィンランディア」は,冒頭の金管楽器の合奏の澄んだ力強い響き,それを受ける木管楽器の柔らかで清潔な響きをはじめとして,大変聞き応えのある演奏となっていました。モーツァルトの時には,少々粗が目立つ部分もあったのですが,この曲では,ジュニア・オーケストラのひたむきさをOEKメンバーがしっかりと引き締めてており,曲全体としてスケールの大きな高揚感のある演奏を作っていました。テンポ設定に大仰なところがなく,聞いた後,スカッとし引き締まった爽快感が残ったのも良かったと思います。暗から明へと盛り上がる音楽を若い人たちが演奏する姿を見るのは,夏バテ防止にもピッタリと実感しました。

アンコールでは,エンジェル・コーラスも加わり,3団体合同で「ビリーブ」という曲が演奏されました。最近よく演奏されている人気曲ということで,どこかで聞いたことがあるような気がしました。アンコールに相応しい,前向きな気分にさせてくれる歌でした。

今回の公演は,演奏時間としては,それほど長くありませんでしたが,夏休み中に子供と一緒に楽しむには,丁度良い選曲・構成だったと思います。きっと,「一緒に歌ってみたい,一緒に演奏してみたい」という子供たちも出てきたことでしょう。

PS.この公演の進行は,毎年,北陸朝日放送の若いアナウンサーが担当しています。この司会自体が「度胸をつけるのトレーニング」といった感じで,聞いていて微笑ましくなる部分があります。ただし...今回,最初の曲の後のトークで,「レスピーギの「鳥」の選曲の意図は?」という話になった時,「北京オリンピックのメイン会場といえば?」という鈴木さんの答えに,「?」となってしまったのには,「ガクッ」と来ました。当然,「鳥の巣」の「鳥」と掛けているのですが,朝日新聞でも読んでもう少し勉強が必要だったようですね。

PS.今回のOEKのメンバーにはエキストラがかなり入っていました。コンサート・ミストレスの方もゲストの方のようで,初めてお見かけする方でした。(2008/08/18)