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Re:Baltic Passion:music@rt season II vol.3
井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢21世紀美術館シリーズ
2008/09/21 金沢21世紀美術館内交流ゾーン 15:00-/16:30- ※15:00-のみ鑑賞
1)ヴィタウタス・バルカウスカス/ヴァイオリン独奏のためのパルティータ
2)メンデルスゾーン/弦楽五重奏曲第2番変ロ長調op.87
●演奏
ラサ・ヴォシリウテ-ミツクニエネ*1,ジェラルダス・ビドヴァ*2,アンドレイス・ゴリコフス*2(以上ヴァイオリン),ウーラ・ウリジョナ,ダニール・グリシン(ヴィオラ*2),マルタ・スドラヴァ(チェロ*2)
Review by 管理人hs  
公演チラシ
”クレーメル&クレメラータ・バルティカ・ウィーク”の最後は,金沢21世紀美術館での室内楽コンサートでした。このシリーズは,「井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢21世紀美術館シリーズ」というのが正式名称ですが,井上さんはもちろん,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーも一人も出ていませんでしたので,厳密に言うと「看板に偽りあり」ということになりますが,クレメラータ・バルティカ(KB)のメンバーの皆さんは,OEKのエキストラとして頻繁に定期公演等に登場していますので,そういう意味では,全くの偽りというわけではありません。

さて,すっかり定着した金沢21世紀美術館内での演奏会ですが,そのいちばんの効果は,クラシック音楽を聞きに来たわけではない人を,「どこからか音が聞こえる?何だろう?」と演奏の方に引き付けてしまう点にあります。この日も,最初の無伴奏ヴァイオリン曲が始まると,どこからともなく人が集まり始め,メンデルスゾーンの五重奏曲になるとさらに聴衆が増えました。これはアコースティックな生演奏の持つ素晴らしい力です。本当にあっと言う間にお客さんが増えました。

これは,KBの皆さんの演奏の力にも寄ると思います。最初のヴィタウタス・バルカウスカスという舌をかんでしまいそうな名前の作曲家(多分,バルト地方の作曲家だと思います)の無伴奏ヴァイオリン・パルティータという曲は,非常にマイナーな作品ですので,仮にCDがあったとしても決して聞きやすい作品とは言えないと思いますが,これが実演だと全く違うのです。この曲の演奏をされていた女性奏者の名前はプログラムには書かれていなかったのですが,大変よく楽器が鳴っていました。音のキレ味がとにかく素晴らしく,不協和音が軋むような急速な部分になればなるほど,聴衆の耳をひきつけていました。

#OEK公式ホームページのニュースによると,1曲目の奏者は,ラサ・ヴォシリウテ-ミツクニエネさんと分かりました。それにしても,発音するのが難しい名前です。

次のメンデルスゾーンの弦楽五重奏曲第2番の方もあまり演奏されない曲ですが,こちらは,4楽章から成る,絵に描いたようにオーソドックスな構成の作品でした。これがまた見事な演奏でした。メンデルスゾーンの曲自体素晴らしいのに加え,KBメンバーの力感溢れる演奏に圧倒されました。メンデルスゾーンの室内楽と言えば,八重奏曲(弦楽四重奏×2ですね)が有名ですが,第1楽章などは,この名曲を彷彿とさせるような流れの良さがありました。品の良い明るさの中から,次第に熱気が立ち上がってくるような,素晴らしく迫力のある演奏で,聴衆の方も音楽に聞き入っていました。

第2楽章は軽妙な雰囲気,第3楽章は深刻な雰囲気を持つ緩やかなテンポの楽章,そして,第4楽章は快活な動きを持った急速楽章,とその他の楽章もくっきりと性格が描き分けられていました。公開スペースで行われる無料の演奏会と言えば,もう少し気軽に聞ける曲が演奏されることが多いのですが,こういった大曲を(30分ぐらいあったと思います),充実した演奏で全曲聞かせてくれる,この21世紀美術館のシリーズの企画力は素晴らしいと思います。

今回もまた大勢のお客さんが集まりましたが,これはKBメンバーの皆さんの演奏の力に加え,ビジュアル面の魅力もあったかもしれません。KBのメンバーは,外見からして個性に溢れています。ファッション・モデルのような方,ブラッド・ピットが髪を伸ばしたような感じの方,迫力十分のちょっと悪役っぽい存在感のある方...と美術館で演奏しているからではありませんが,本当に”絵”になります。そういう奏者たちの迫力あるパフォーマンスを本当に間近で楽しむことができました。

今回の”クレーメル・ウィーク”では,半分クレーメルさん目当てで演奏会を聞きに来た方も多かったと思うのですが,私の場合,結果としてはKBのファンになって帰ってきた感じです。KBのメンバーの首席奏者の皆さんの顔ぐらいはしっかり覚えてしまいました(ただし,名前は覚えられませんねぇ。難しいです。)。OEKについてもそうですが,「団員の顔を覚える」ということが応援するための第1歩ですので,今回のKBの一連の公演でのいちばんの収穫は,メンバーの顔を覚えたことと言えそうです。

それにしても21世紀美術館には,毎度のことながら,よく人が入っています。今回のコンサートは,45分という「ラ・フォル・ジュルネ仕様」でしたが,いろいろな世代の人たちが,気軽に室内楽を聞いている様子を見て,この美術館も使うことになる来年のラ・フォル・ジュルネ金沢は,きっとこういう感じになるのだろうな,と一瞬頭をよぎりました。今から楽しみです。

KBの皆さんは,再度,OEKと合流して,国内公演が続きますが,来年度以降も,是非,金沢には再度来て欲しいと思います。

以下,金沢21世紀美術館周辺の写真です。毎度のことながら,この美術館に行くと,ついつい写真を沢山とってしまいます。
この日,21世紀美術館で行っていた展覧会&企画のポスターです。常に並行して,いくつかイベントを行っています。

コレクションII展の入口です。以前見たことのある,奈良美智の「家」の展示などが再度飾られていました。 サイトウ・マコト展の入口です独特の色づかいのポートレートが並んでいました。 これもコレクション展IIの一つです。撮影が許可されていた展示です。超大型のサッカーゲームという感じで,実際に子供たちは遊んでいました(やってみたかった...)。広告が出ているのも面白いですね。

ミュージアム・ショップです。いつもにぎわっています。

ミュージアム・ショップの向かいでも別の小規模な展示が行われていました。 こちらは日比野克彦さんのプロジェクトの展示です。
屋外に出ていたのぼりです。
展示のチラシとリーフレットです。 開演前です。芝生を背景に演奏しました。 曲目紹介のパネルです。 演奏会の雰囲気です。ソファーの数だけでは間に合わないので,床に直接座っている人もいました(私もそうでした)。次回は折りたたみ式の椅子でも持参しようと思います。

今回のテーマの「Baltic Passion」に合わせてスペシャル・ドリンクが販売されていました。      
(2008/09/21)