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兼六園周辺文化の森:ミュージアムコンサート 秋に聴きたいピアノの名曲への誘い
2008/10/04 石川県立美術館
1)モーツァルト/デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲ニ長調,K.573
2)バッハ,J.S./パルティータ第6番ホ短調BWV.830
3)ショパン/バラード第4番ヘ短調op.52
4)(アンコール)ショパン/小犬のワルツ
●演奏
平野加奈(ピアノ)

Review by 管理人hs  
美術館内のホールです。講演会用に使われることの多い場所ですが,室内楽や器楽の公演にも最適です。
会場前の掲示です。この1週間ほどは,連日,無料演奏会が行われていました。

公演のパンフレット(他のミュージアムコンサートと共通です),リーフレットと整理券です。

このところ金沢の美術館といえば「金沢21世紀美術館」ばかりが目立っていますが,この秋,石川県立美術館もリニューアルされました。それに併せるかのように兼六園周辺の石川県立の美術館・博物館等の施設で無料の演奏会を行う「ミュージアム・ウィーク」という企画が,10月1日〜8日にかけて,行われています。

この日は快晴の土曜日ということで,大変気持ちの良い気候の中,石川県立美術館内のホールに出かけてきました。このホールに来るのは,本当に久しぶりのことです。15〜20年ほど前は,毎月のように有名演奏家を招いての「ミュージアム・コンサート」という室内楽や器楽の無料(!)公演を行っており,私自身,何回も聞きに来たことがあります。この企画は,今から思えば「伝説のシリーズ」と言っても良い充実した内容でした。

(参考)かつてのミュージアム・コンサートのラインナップ

また,このホール自体とても良いホールです。音楽専用というわけではないのですが,客席とステージが非常に近いので,演奏が大変クリアに聞こえます。それと何と言っても美術館内という落ち着いた雰囲気が何物にも変えられない魅力を持っています。久しぶりにこのホールの座席に座り,ゆったりとした気分に浸ることができました。

この日の公演は,数年間の北陸新人登竜門コンサートで優秀者に選ばれた,平野加奈さんのピアノ独奏で,モーツァルト,バッハ,ショパンの曲が演奏されました。平野さんと言えば,中学生の時に登竜門コンサートに出演し,岩城さんとモーツァルトの協奏曲を共演をしたのを思い出しますが,現在は東京藝術大学に在学中ということで,時の流れは速いものです。

演奏会は休憩なしの45分ほどで,モーツァルト,バッハ,ショパンの曲が演奏されました。まず,この3人の作曲家の持つキャラクターをしっかりを弾き分けられていました。演奏にも大変落ち着きがありました。各曲の間に,平野さんによる曲目解説を交えていましたが,恐らく,こちらのトークの方が緊張されていたのではないかと思います。

最初のモーツァルトの曲は,古典的な気分のある曲で,すっきりとした美しさがありました。感情過多になることのない,キリっと締まった演奏だったと思います。

2曲目のバッハのパルティータ第6番は,演奏時間的には,この日のメインの曲と言えます。最初のトッカータの最初の一音を聞いた瞬間,1曲目よりは骨太なたくましさが感じられました。微妙なニュアンスの変化も豊かで大変聞き応えがありました。

古典的な組曲は,全曲の調性が統一されている点が特徴です。その点が制約になっている部分もあるのですが,その制約の中から逆に各舞曲の個性を出そうという工夫が出てきます。平野さんの演奏からもしっかりと曲想の変換が感じられました。特にゆっくりとしたサラバンドの芯の強さと甘美さを兼ね備えた感じが印象的でした。演奏全体として,若い演奏家ならではの潔癖さが感じられ,最後のジーグの盛り上がりなどもとても清々しく感じました。

最後は,ショパンのバラード第4番でした。この曲では,ショパンの音楽に相応しい,しなやかさな叙情性が印象的でした。細かい装飾的な音のきらめきも良かったのですが,フォルテの音は少し硬い気がしました。この辺は,もう少し大きなホールで聞くとまた雰囲気が変わるかもしれません。アンコールでは,小犬のワルツが一気に演奏されてお開きとなりました。個人的には,もう一ひねり,「秋」の雰囲気のある選曲でも良いと思いましたが,すっきりと演奏会が締められました。

平野さんは,鮮やかな赤のドレスで登場し,トークを含め,初々しさがあったのですが,演奏の方は,完成度が高く,聞き応えのあるものでした。「45分の演奏会」というのは,「ラ・フォル・ジュルネ」以来,演奏会の”新しい単位”になりつつありますが,今回のように聞き応えがあるプログラムでも,疲労感があまりないのが良いと思います。今後も,このリニューアルされた県立美術館で,展示とタイアップしたような器楽や室内楽の演奏会に期待したいと思います。(2008/10/06)



兼六園周辺文化の森写真集(10月4日)
今回の一連のミュージアムコンサートの目的は,兼六園周辺の文化施設の活性化にあります。今回,出かけてきて,改めて良い雰囲気だと感じましたので(これは天候の影響も大きいのですが),写真でご紹介しましょう。
県立美術館のお隣にある,石川県立歴史博物館です。
建物の前には,椅子が並べれられ,のんびりするのに最適でした。 ミュージアムウィークの立看板も出ていました。 不思議なオブジェも並べられていました。
県立美術館横に用水が流れているのに初めて気づきました。辰巳用水の分水とのことです。
石川県立美術館の正面玄関です。バリアフリー化されたようです。 石川県立美術館の玄関です。左にあるのは,リニューアル記念の「法隆寺の名宝と聖徳太子の文化財展」のポスターです。
建物に入ると受付のすぐ後ろにミュージアムショップが出来ていました。ちょっとのぞいてみたのですが...高級品だらけでした。ホールはこの写真の左手の方にあります。

   
ミュージアムショップのすぐ後ろには,話題の辻口カフェ(ル・ミュゼ・ド・アッシュKANAZAWA)があります。今回は入っていませんが,ほとぼりが冷めたら出かけてみたいと思います。「法隆寺」よりも大勢の人が入っていたかもしれません。

辻口カフェの厨房が見えるようになっていました。今回の改装で,いたる所の見通しが良くなった感じです。 美術館前の道路です。このコースは緑が豊かなので,走っていて嬉しくなります。