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アジア音楽祭かなざわ2008:日本の響き・アジアの響き:
未来を担う響き Part1韓国×日本
2008/11/02 石川県立音楽堂コンサートホール
1)サラサーテ/ナバーラ
2)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
3)マスネ/タイスの瞑想曲
4)朝鮮民謡/アリラン
5)サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン
6)ユ・ヘジュン,オ・ソクジョン/ドラマ「冬のソナタ」〜最初から今まで
7)スクリャービン/幻想ソナタ
8)リスト/リゴレット・パラフレーズ
9)ショパン/バラード第1番
●演奏
ユジン・ジャン*1-5,ジユン・キム*1-3,5-6(ヴァイオリン)
篠永紗也子*7,竹田理琴乃*8,9,ジェウォン・ホ*1-6(ピアノ)
Review by 管理人hs  
音楽堂玄関の看板と立て看板です。
11月2日と3日の2日間(1日は北國新聞赤羽ホールで前夜祭が行われました),石川県立音楽堂を舞台として,ラ・フォル・ジュルネ金沢のようなスタイルでアジア音楽祭かなざわ2008という今回初となる音楽イベントが行われました。「日本の響き・アジアの響き」というサブタイトルどおり,クラシック音楽だけではなく,アジア各地の民族音楽が集中的に演奏されるイベントです。各公演とも30〜1時間程度で,「ラ・フォル・ジュルネ」同様,JR金沢駅コンコースを含む複数のホールをハシゴする形になっています。

音楽堂の主のオーケストラ・アンサンブル金沢ももちろん出演しますが,この日,私は,いしかわミュージック・アカデミー(IMA)でIMA音楽賞を受賞した韓国と日本の若手奏者が出演する,「未来を担う響き Part1」を聞いてきました。

登場したのは,ヴァイオリンのユジン・ジャンさんとジユン・キムさん,ピアノの篠永紗也子さんと竹田理琴乃さんの4人とピアノ伴奏のジェウォン・ホさんでした。今年の8月に行われたIMAの時にライジングスターコンサートと題してたマラソン・コンサートが行われましたが,この時演奏会の延長のような感じでした。どの方もIMA音楽賞受賞者ということで,技術的に言うことなはく,安心して音楽に浸ることができました。

演奏会前半の韓国のお二人は,6曲を演奏しましたが,そのうちの4曲は二重奏でした。最初に演奏されたサラサーテの曲から音のハモリ具合が最高でした。お二人とも大変スマートな方で,同じ黒のドレスで登場されましたので,見た目にも大変バランスが良いと思いました。

このナバーラという曲ですが,もともと2台のヴァイオリンのために書かれた曲です。初めて聞く曲でしたが,すっきりした音が絡み合う,とても良い雰囲気のよいラテン系の曲でした。

次のブラームスのハンガリー舞曲はおなじみの曲です。1曲目では,ジユン・キムさんが第1ヴァイオリンだったのですが,この曲では,ユジン・ジャンさんの方が第1ヴァイオリンになっていました。第2ヴァイオリンの方はオブリガードを演奏するのですが,その雰囲気にハンガリーの民族楽器のツィンバロンによる装飾音のようなところが面白いと思いました。大変滑らかな演奏で不思議な色気が漂う演奏という感じでした。

タイスの瞑想曲もお馴染みの曲です。この曲もユジン・ジャンさんが第1ヴァイオリンで,大変やさしい演奏を聞かせてくれました。すっきりとしているけれども大変息の長い歌が聞き物でした。最後の部分は,ジユン・キムさんの方に主旋律担当が移っていました。

次の朝鮮民謡「アリラン」は,ユジン・ジャンさんの独奏で,しっとりと演奏されました。こうやって聞いてみると,喜納昌吉さんの「花」と似ているところがあり,同じアジアだな,と実感しました。

このお二人による最後の曲はツィゴイネルワイゼンでしたが,2台のヴァイオリンでこの曲が演奏されるのを聞くのは初めてのことでした。2人になったからといって,重苦しい演奏ではなく,さらに装飾的に軽快になっていた感じでした。緩急の差もしっかり付けられており,最初じっくりと始まった後,中間部はさらりとして雰囲気になり,最後は軽快なスピードで締められました。最後に行くほど,2人が競い合うように技を見せあう様はとてもスリリングでした。

ここで盛大な拍手が続きアンコール...と思ったのですが,1回袖に引っ込んだ後,拍手がスッと止んでしまいました。今回,お客さんの入りがかなり悪く,テンションも低かったのが残念でしたが,その後,ジユン・キムさんが再度登場し,おなじみ「冬ソナ」のテーマ曲が演奏されました。恐らく,アンコールとして用意してあった曲なのだと思いますが,今回の場合,プログラムに明記してあった方が良かったのかもしれません。

ピアノによって演奏される「あのイントロ」が流れると,会場がちょっとザワザワとしてお客さんの気持ちもホッと緩んだ感じでした。ジユン・キムさんの硬質でひんやりとした感触の音も,「冬」のイメージにぴったりでした。

後半は,金沢出身の若いピアニストお二人のステージとなりました。どちらも「うまい,うますぎる!」という見事な演奏でした。お二人ともまだ中学生のはずですが,既に各種ピアノ・コンクールなどで多くの場数を踏んでいるせいか,演奏全体に余裕があり,じっくりと音楽を聞かせてくれたのがまず素晴らしいと思いました。

篠永さんが演奏したのは,スクリャービンの幻想ソナタでした。竹田さんがいつもショパン,リスト,シューマンといったロマン派の作品を選んでいるのに対し,篠永さんの方は前回聞いた時もドビュッシーの曲を選んでいましたので,後期ロマン派から近代の作品を得意とされているのかもしれません。ドレスの方も竹田さんの方が薄いピンク,篠永さんの方がコバルトブルーということで対照的でした。

スクリャービンのこの曲を聞くのは初めてだったのですが,とても落ち着きのある演奏でした。篠永さんが音楽堂のコンサートホールで演奏するのは,もしかしたら初めてのことかもしれませんが,強い音も無理なく響き,大変スケールの大きな音楽を聞かせてくれました。第1楽章の最後の方はタイトルどおり,幻想味たっぷりでした。第2楽章の速い音の動きも鮮やかで,最後はビシっと締めてくれました。

竹田さんは2曲演奏しました。最初のリストのリゴレット・パラフレーズは,軽やかな音がとても印象的でした。間をたっぷり取っており,輝きのある装飾的な音楽をしっかりと聞かせてくれました。

ショパンのバラード第1番は,1年前のシューベルト・フェスティバルの時に竹田さんが演奏するのを聞いたことがありますが,さらに立派な演奏になっていた気がします。最初から,全く慌てることなく,たっぷりゆったりと澄んだ音を聞かせてくれました。曲が進むにつれて,即興的な感じで音が揺らぎ,心の動きがそのまま音楽になっているようでした。竹田さんは,演奏の前後では,まだまだあどけなさを感じさせるのですが,演奏が始まるとそれが一転して,実に堂々とした音が立ち上ってきます。恐るべき中学生だと思います。

この公演は,約1時間で気軽に聞ける内容だったのですが,やはり,今回のような音楽祭の中の1コマとなると埋没して目立ちにくかったのか,お客さんの入りがあまり良くありませんでした。お客さんの反応の方も少々テンションが低かったのが残念でした。まだまだ演奏者の名前が知られていないこともあると思うのですが,非常にレベルの高い演奏の連続だったので,いっそ500〜1000円ぐらいの入場料にして「IMA出身の若手を応援しましょう」という目的を前面に押し出した方が良かったのではないかと感じました。IMA自体,中国,韓国,日本の若手演奏家の育成という点に主眼があるので,アジア音楽祭かなざわを来年以降も継続するとすれば,IMAとの連携をさらに強めるのも,一つのアイデアだと思いました。

●音楽堂の3つのホールと金沢駅コンコースで演奏会が集中的に行われました。
金沢駅コンコースです。このところ,すっかり音楽堂の出店のようになった感じです。駅コンの音声は,スピーカーを使って,もてなしドームの方にも流れるようになっていました。これは良いアイデアだと思います。
音楽祭のポスターです。この竜には相性はあるのでしょうか? 交流ホールは階段状になっており,玄関から直進して入る形になっていました。

邦楽ホール前では,アジアふれあい広場と題して,ワークショップなどを行っていました。
台湾の民族楽器だと思います。 コンサートホールのホワイエから玄関上を写したものです。
深瀬でくまわしです。石川県の白山麓に伝わる素朴な文楽のような人形劇です。

せっかくなのでカフェコーナーでロシアのクワスというものを飲んでみました。
コーラというか何と言うか,「ビミョー」という感じの味でした。

(2008/11/05)

音楽堂周辺の光景

音楽堂玄関には屋台が沢山出ていました。


金沢市役所前で秋にやっている国際交流まつりのような雰囲気でした。


看板はすべて赤系統で統一


アジアの民芸品や雑貨を販売していました。


タイムスケジュール


アジアの食品コーナー。おでんも販売していました。


ホールの案内板


ラ・フォル・ジュルネ金沢ほどは混雑していませんでした。


小松空港のブースが出ていました。能登半島は日本海に突出しているので,まさにアジアへの窓口という感じだと思います。


井上音楽監督の写真の頭の部分をなでている子供がいました。ご利益がある?


エントランスホールの雰囲気です



音楽堂の周りの道路は通行止めになっていました