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アジア音楽祭かなざわ2008:日本の響き・アジアの響き:
青島広志が誘うアジアの響き OEKとともに
2008/11/03 石川県立音楽堂コンサートホール
1)サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチオーソ
2)朝鮮民謡(倉知竜也編曲)/アリラン
3)喜納昌吉作詞・作曲/花
4)多忠亮(竹久夢二作詞)/宵待草
5)服部良一(西条八十作詞)/蘇州夜曲
6)渡久地政信(東条寿三郎作詞)/上海帰りのリル
7)晏如?(貝林作詞?)/何日君再来
8)黎錦光作詞・作曲/夜来香
9)新井満(作詞者不詳,新井満訳詩)/千の風になって
10)新井満/千の風になって(中国語版)
●演奏
ユジン・ジャン(ヴァイオリン*1,2),李広宏(歌*3-10)
三河正典指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)
司会:青島広志
Review by 管理人hs  
音楽堂玄の外観です。
アジア音楽祭かなざわ2008の2日目は,午前中から音楽堂に出かけて来ました。午前にコンサートホールで音楽を聞くのは,ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)以来のことかもしれません。

この公演ですが「青島広志が誘うアジアの響き:OEKとともに」ということで,テレビでおなじみの青島先生の司会で,アジアの演奏家の演奏を一緒に楽しむというものでした。この青島先生(「世界一受けたい授業」の印象があるので,どうしても「青島先生」と呼びたくなってしまいます)ですが,見事な進行でした。午前中の公演ということで,お客さんの入りはそれほど多くなく,しかも子供連れのお客さんが多かったのですが,その辺の「空気を読んだ」トークとなっていました。

中国風の衣装+帽子(想像してみて下さい)でステージに登場するなり,「チンタオ(=青島)でございます」と呼びかけ,その後も,要所要所で「演奏された方には盛大な拍手を送りましょうね」という言葉を繰り返していました。演奏会を盛り上げよう,盛り上げようとする精神は,「さすが」と思いました。

さて今回の音楽祭のテーマの「アジアの音楽」についてですが,青島先生は次の4点をその特徴として説明されていました。この説明の手際良さと分かりやすさもさすがだと思いました。
  1. 弦楽器が多い:アジア大陸は狩猟民族が多い(日本は例外)。そのため動物の腸などから作った弦を使った弦楽器の種類が多い
  2. 演劇に関する音楽が多い:歌舞伎,京劇,仮面劇など演劇の種類が多い。また,劇の中でアクロバットを行うなど音楽とスポーツが一体化している。クラシックの奏者にしても素晴らしい技術を磨き,音域を広げるための稽古を行う人が多い。
  3. 拍子:中国には2拍子の曲が多く,韓国は3拍子の曲が多い。
  4. 音階:日本同様,ドレミソラの5音階である(日本が大陸の影響を受けている)
こういったことを踏まえて,まず韓国出身の若手ヴァイオリン奏者ユジン・ジアンさんが登場しました。ジアンさんは昨日に続いての登場です。いしかわミュージック・アカデミー(IMA)などで過去数回来日されていますが,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演するのは今回が初めてとのことです。

この公演は,10:30開演という,オーケストラの演奏会としては”早朝”と言っても良い時間帯だったのですが,この演奏を聞いて,目が覚めた方もいらっしゃったのではないかと思います。ジアンさんのヴァイオリンには無駄な力が全く入っておらず,非常にすっきりとクリアに曲の姿が浮かび上がっていました。ジアンさんは,薄い緑色のドレスを着ていらっしゃいましたが,演奏の方にもその雰囲気があり,青島さんが言っていたように”天女のように”軽々と演奏していました。曲芸的な軽やかさとも言えるのですが,技術を誇示する部分は全くなく,とてもエレガントな演奏でした。

女性の年齢の書くのは失礼ですが,ジアンさんは,現在まだ17歳にも関わらず,既に飛び級で大学生なのだそうです。韓国にはチョン・キョンファをはじめとして偉大なヴァイオリンの先輩が何人かいますが,ユジン・ジアンさんは,これからもっとも期待される韓国を代表する若手ヴァイオリニストの一人なのではないかと思います。8月のIMAの時には,交流ホールでジアンさんの演奏を聞いたのですが,コンサートホールでOEKとの共演を聞いて,さらに強くそのことを確信しました。

続いて,前日はピアノ伴奏で演奏した朝鮮民謡のアリランが演奏されました。青島さんの説明どおり3拍子の曲で,大変優雅な演奏でした。後半のカデンツァ風でも,優雅さや軽やかさが失われないのが素晴らしいと思いました。ちなみに,この曲ですが,青島さんの説明によると「男の人に裏切られた可愛そうな女の人の歌」とのことです。非常に早口でストーリーを説明されていたのですが,今度じっくりと歌詞を読んでみたいと思います。

今回の指揮者の三河さんと青島さんのトークが入った後,後半は中国の蘇州市出身の歌手,李広宏さんが登場しました。青い民族衣装を着た李さんは,大変明るい雰囲気の方でした(中国の方は皆さん明るいのですが)。現在は兵庫県西宮市在住で,日本を中心に活躍されているとのことです。今回歌われた曲もすべて,日本語と中国語の両方で歌われました。トークも大変流暢な日本語で行われました。

最初に歌われたのは,ほとんど沖縄民謡と言っても良いような喜納昌吉さんの「花」でした。李さんはマイクを使っており,クラシック系の歌い方とは少し違うのですが,朗々としたテノール系の歌声は,聞く人を明るい気分にさせてくれます。沖縄は日本と中国の丁度中間にある島ということで,今回の音楽祭のコンセプトにぴったりの曲でした。

続く「宵待草」も,李さんの輝きのある声と締め付けるような哀愁のある雰囲気が印象的でした。青島さんも言っていたとおり,李さんの声には,どこか女性的な雰囲気もあるので,特にこの曲には合っていると思いました。

「蘇州夜曲」は,李さんの出身地にちなんだ曲ということで,李さんの”十八番”だと思います。ちなみに数年前,サントリーのウーロン茶のCMでこの曲の中国語版が使われていたことがありますが,李さんの訳によるものが使われていたとのことです。なお,金沢市と蘇州市は姉妹都市提携を結んでいます。その意味でも今回の音楽祭には欠かせない曲だと思います。

「上海帰りのリル」は,私の親の世代の曲なのですが,「リル,リル」という歌詞には聞き覚えがあります。軽快なタンゴのリズムがレトロなムードによく合っていましたが,青島さんによると「李さんの歌には,明るく夢がある感じ...少し日本人の解釈と違うかも」とのことでした。

「何日君再来」と「夜来香」は,どちらも1930年代の中国の曲で,中国人ならば誰でも知っている曲とのことです。ビギンのリズムが快適な「夜来香」を聞きながら,やはり中国の歌は根本的に明るいと思いました。

最後は,おなじみ「千の風になって」でした。李さん自身,阪神大震災の被害に会った経験があり,今年の四川大地震の後には,被災者のための支援活動を熱心に行っているとのことです。この歌も被災者に捧げる歌として歌われました。秋川さんの歌に比べると軽やかさがあるのですが,明るさの中に非常にリアルな感情が込められた歌だと感じました。アンコールでは,同じ「千の風...」が中国語版で歌われました。

この公演は,韓国,中国のアーティストと日本のオーケストラの共演ということで,今回の音楽祭の核となるような公演だったと思います。青島さんのトークも軽妙さと同時に深い知識に裏付けられたもので,聞きごたえがありました。この日は家族連れの姿を沢山見かけましたが,大いにオーケストラとソリスト2人による生演奏を楽しんだのではないかと思います。

(参考)この演奏会に望む,李広宏さんについての新聞記事です。
http://mainichi.jp/area/ishikawa/news/20081103ddlk17040313000c.html
(2008/11/05)


サイン会の光景


青島広志さんは,演奏会が終わると,「パッ」と書店の販売員モードに切り替わり,素早く音楽堂玄関に出現していました。この写真はサイン会の様子です。

私も次のCDにサインを頂いてきました。お一人ごとに「お名前は?」とフルネームを確認しながらサインをされていました。




このCDですが,青島先生が,西洋音楽史について一気にしゃべりまくるものです。

「グレゴリオ聖歌はとっても気持ち悪いですねぇ。それは男の人が低い声で歌うから...」という感じで,青島節炸裂の凄いCDでした。