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オーケストラ・アンサンブル金沢第251回定期公演M
2008/11/29 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ドヴォルザーク/チェコ組曲ニ長調,op.39
2)ドヴォルザーク/ロマンスヘ短調,op.11
3)サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン,op.20
4)(アンコール)サラサーテ/序奏とタランテラ
5)カーニス/ムジカ・チェレスティス
6)メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調,op.90「イタリア」
7)(アンコール)バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番〜エア
●演奏
ジョアン・ファレッタ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:アビゲイル・ヤング)
マイケル・ルートヴィヒ(ヴァイオリン*2-4)
ジョアン・ファレッタ(プレトーク)

Review by 管理人hs  
今回から会場前の立看板の数が増えたようです。クリスマス・ツリー(右奥)も設置されていました。

先日行われた「もっとカンタービレ:オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ」にゲスト出演したジョアン・ファレッタさんがオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演マイスターシリーズに登場しました。過去,一般非公開の演奏会で共演したことはあるようですが,定期公演に登場するのは今回が初めてということになります。OEKの定期公演自体も,前回が「能とのコラボ」という特殊なものでしたので,「普通の」OEKを聞くのは本当に久しぶりという感じです。

指揮者のファレッタさんですが,先日の「もっとカンタービレ」で取り上げられた「アパラチアの春」の演奏で感じたとおり,大変素晴らしい指揮者でした。前半はドヴォルザークの曲とサラサーテの曲を「望郷/郷愁」というテーマ(私が感じたテーマですが)で演奏した後,後半は,”お国もの”のケルニスの作品が演奏され,最後はメンデルスゾーンの「イタリア」交響曲で締められました。この「イタリア」だけ,テーマから外れそうですが,ジョアンというお名前はイタリア系のようですので,そう考えると,プログラムの意図が見えてきます。

最初に演奏されたドヴォルザークのチェコ組曲ですが,人気マンガ「のだめカンタービレ」のテレビ版で,千秋の指揮の師匠のビエラ先生役を演じて(?)いたズデニェク・マーカルさんが登場するたびにライトモチーフのように流れていた曲です。マーカルさんはチェコ出身ということで選曲されたものだと思いますが,何故か印象的に耳に残る曲です。

ファレッタさんの指揮は,先日のレビューでも書いたとおり,とても分かりやすい動作で,「それに従えば,自然に音楽が流れ出てくる」といった見事な振り方をされます。音楽もそのとおりで,冒頭から滑らかに整った音楽が続きました。この組曲自体,スラブ舞曲集的なところがあり,パストラール,ポルカ,メヌエットと続くのですが,前半はリズム感よりは哀愁に満ちたメロディが印象に残ります(「のだめ」に使われていた部分は,「ポルカ」の最初の部分だと分かりました。)。木管楽器が印象的なメロディをスッと演奏する辺り,いかにもドヴォルザーク的な曲で(イングリッシュホルンも使われていましたね),「隠れた名曲」と呼ぶのに相応しい作品と言えます。ただし,全体の基調を作っているのは,やはり弦楽器で4曲目のロマンスなどは,アビゲイル・ヤングさんを中心としたヴァイオリン響きの美しさには,惚れ惚れとしました。

この曲までは,比較的静かな曲が続きましたが,最後の曲は,フリアントということで,一気に盛り上がりました。交響曲第8番などに通じるシンフォニック・ダンスという感じの曲でした。ファレッタさんの指揮も一気に燃え上がり,それにOEKもしっかり答えていました。最後のティンパニの一撃も強烈でした(今回は菅原淳さんが客演されていました。)。

続いて,ファレッタさんが音楽監督を務めるバッファロー・フィルのコンサート・マスター,マイケル・ルードヴィッヒさんがソリストとして登場しました。ルードヴィッヒさんは,バッファローに来る前はフィラデルフィア管弦楽団のコンサートマスターをされていた方で,ファレッタさんと共演したCDがNAXOSレーベルからリリースされています。

最初に演奏されたドヴォルザークのロンドは,チェコ組曲の気分と通じるような郷愁に満ちた作品です。ルードヴィッヒさんの音色自体に落ち着きとそこはかとない憂いがあるので,曲想にぴったりでした。演奏が進むにつれて楽器を高く持ち上げて演奏されていましたが,音楽もそれに合わせて自然に盛り上がっていました。節度のある歌い方は大変誠実で,安心感を感じさせてくれる演奏でした。後半に出てきたホルンをはじめとしてOEKのサポートも暖かさに満ちたものでした。

続くサラサーテのツィゴイネル・ワイゼンは,「望郷」とは別に「サラサーテ没後100年」という意図で選曲されたようです。この曲については,11月前半に韓国の若手ヴァイオリン奏者2名によるデュオ版を聞いたばかりですが,その演奏と比較すると大変重いものでした。曲の後半では,時々念押しするようにテンポを落としていましたが,この辺は好みが分かれるところだと思います。

その後,アンコールで,同じサラサーテの「序奏とタランテラ」という曲が演奏されました。その名のとおり,緩やかな序奏と躍動感のあるタランテラに分かれている曲です。個人的には,ツィゴイネルワイゼンよりもこの曲の演奏の方が気に入りました。哀愁に満ちた前半と躍動感のあるリズムが面白い後半との鮮やかな対比を楽しむことができました。

プログラム後半は,カーニスという現代アメリカの作曲家の「ムジカ・チェレスティス(天上の音楽)」という弦楽合奏のための作品で始まりました。この作曲者の名前を聞くのは初めてでしたが(ケルニスと表記されることもあるようです),バーバーの弦楽のためのアダージョと似た雰囲気がある,とても聞きやすい曲でした。特に後半に出てきた,聞いていて”心が痛くなるようなフォルテ”とその後の間の取り方などはバーバーそっくりでした。

曲の構成は,静ー動ー静という3部形式でしたが,最初に戻るというよりは,曲のタイトルどおり,さらに高い所に上っていくような気分がありました。途中,ヤングさんの独奏なども入りましたが,マイケル・ルードヴィヒさんに引けを取らない見事な演奏でした。静かな部分の弦楽器の音色も独特でクリスタル・グラスのような輝きがありました。

今年,OEKはクレメラータ・バルティカと現代曲をいくつか演奏しましたが,アメリカの現代作品は意外に聞いていませんので,大変新鮮でした。それでいて両者には,どこか通じる「分かりやすさ」や「静謐さ」があるのも面白いと思いました。

最後に演奏されたメンデルスゾーンの「イタリア」交響曲は,過去何回も演奏しているOEKの十八番のような曲ですが,今回のファレッタさんの指揮による演奏も「言うことなし」の見事な演奏でした。

第1楽章は爽快だけれども無理のないテンポで始まり,楽章全体に流線型のような滑らかさのある演奏となっていました。冒頭部分の管楽器のリズムの刻みも大変明確で目が覚めるような鮮やかさがありました。展開部では,音楽がさらに熱くなるのですが,力ずくではなくオーケストラが自発的に盛り上がるような自然さがありました。

第2楽章,第3楽章もこの滑らかさが持続しました。時々熱くなる部分はあるのですが,第3楽章のホルンの重奏など,のどかな旅情のような気分を感じさせてくれました。

第4楽章は表情が一転します。キビキビとした急速なテンポで畳みかけるように音楽が熱く進みます。それでもむやみに熱狂するのではなく,音楽全体がブレることがありません。すべてのフレーズがくっきり浮かび上がっており,熱狂するだけでなく,音楽の「内容」を感じました。見事な演奏だったと思います。

アンコールでは,おなじみのバッハのアリアがさらりと演奏されました。この曲については,これまで何回もアンコールで聞いてきましたので,どうせなら,もう一ひねりあるアンコールを聞きたかったところです(アンコール無しでも良かったのですが。ちなみにファレッタさんは,この曲を含め全ての曲を指揮棒を使って指揮されていましたが,最近では意外に珍しい気がしました)。

ファレッタさんは,現在バッファロー・フィルの音楽監督ですので,金沢市との姉妹都市のコネクションを使って,ファレッタ指揮バッファロー・フィルと井上道義指揮OEKの合同公演など実現して欲しいものです。金沢でアメリカのオーケストラを聞く機会は非常に少ないので,バッファロー・フィルの単独公演でも良いので,聞いてみたいと思いました。いずれにしても,これから末永くOEKと関係を続けて欲しい指揮者の一人です。
(2008/12/01)

今日のサイン会
ジョアン・ファレッタさんのサインです。色紙になっているのは,ファレッタさん指揮バッファロー・フィルによるコープランド作品集です。このCD以外にも沢山の録音をNAXOSには残しています。


マイケル・ルードヴィヒさんのサインです。


OEKの皆さんのサインです。左上から時計回りに,ヒューズさん,ヤングさん,古宮山さん,トロイさん,金星さん



ラ・フォル・ジュルネ金沢2008の最終公演の写真による,2009年のオリジナル・カレンダーを発売していました。自分の姿が写っていないか,是非お確かめ下さい。