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聖響&シエナ:シエナ・ウインド・オーケストラ金沢公演
2008/12/03 石川厚生年金会館
1)コープランド/市民のためのファンファーレ
2)ガーシュウィン(真島俊夫編曲)/キューバ序曲
3)ガーシュウィン(樽屋雅徳編曲)/ラプソディー・イン・ブルー
4)(アンコール)ガーシュイン/3つの前奏曲〜第1番
5)コープランド(ハインズレー編曲)/エル・サロン・メヒコ
6)コープランド(福田洋介編曲)/バレエ音楽「ロデオ」〜4つのダンス・エピソード
7)(アンコール)ガーシュイン/ストライク・アップ・ザ・バンド
8)(アンコール)スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」
●演奏
金聖響指揮シエナ・ウィンド・オーケストラ*1-3,5-8
外山啓介(ピアノ*3-4)

Review by 管理人hs  
会場玄関に貼られていた,公演ポスターです。
金聖響さんといえば,金沢では「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の指揮者」というイメージがありますが,その聖響さんが,日本を代表する吹奏楽団,シエナ・ウィンド・オーケストラを指揮してアメリカの音楽ばかりを演奏する演奏会が行われたので出かけてきました。

今回,聖響&シエナのコンビは,福山,京都,金沢の順にツァーを行った後,東京で定期公演を行います。取り上げられたのは,ガーシュインとコープランドの曲で,これらはCD録音されるとのことです。聖響さんは,OEKとベートーヴェンとブラームスの交響曲全集のCD録音を進行中ですが,実は,シエナとの共演も多く,CDも数枚発売されています。OEK以外を指揮する聖響さんも新鮮ならば,アメリカの作品ばかり取り上げたプログラムということで,いつもと違った気分で演奏会を聞きに行きました。

今回の会場は,石川厚生年金会館でした。音響的にはベストとは言えないホールですが,さすが吹奏楽の響きはパワフルで,どの曲もしっかりとした吹奏楽のサウンドを楽しむことができました。シエナの今回の編成は60人ぐらいだったと思いますが,ホールのドライな響きが,吹奏楽には丁度良かった気がします。

演奏会は,コープランドの「市民のためのファンファーレ」で始まりました。ステージ上の人数はやけに少なかったのですが,これがオリジナル編成で,ホルン,トランペット,トロンボーン,テューバと打楽器のみで演奏されました。特に印象的だったのは重々しい打楽器の響きです。まさにヘビーなサウンドで,その上に金管楽器が荘重な響きをじっくりと聞かせてくれました。この曲は,もともと有名な曲ですが,以前,フジテレビ系で放送していた名物番組「料理の鉄人」でも使っていたと思います。その他,いろいろなところで使われている曲ですね。

その後,フル編成となり,ガーシュインの曲2曲が演奏されました。「キューバ」序曲は,その名のとおりラテン的なムードの漂う作品です。ボンゴ,マラカス,ギロ...といった打楽器奏者がずらりと最後列に並び,カリブのリズムを刻みます。ただし,基本的にはインテンポで,全体的にはあっさりとした響きでした。他の曲でも,時々そう感じる部分があったのですが,「全国のアマチュア吹奏楽団のお手本」といった感じの演奏だったと思います。いずれにしても湿気だらけの”冬の金沢”とは正反対の性質の音楽です。途中,協奏曲で言うカデンツァのような感じで曲想が変わり,静かな部分となりましたが,この辺も面白いなと思いました。

シエナのサウンドですが,”オーケストラ”と名乗るだけあって,パッと聞いた感じ,通常のオーケストラとほとんど同じ感触でした。第1ヴァイオリンの位置にクラリネット,その向かい側にフルート,オーボエ,サクソフォーンなどが並び,金管楽器奏者は通常のオーケストラとほぼ同じ場所に座っていましたが,この配列が違和感を感じなかった理由の一つだと思います。基本的に明るく,ベタベタしたところがない響きが快適でした(ちなみに,コンサート・マスターはアルト・サックスの新井靖志さんという方でした。そのため,通常のオーケストラの場合と違い,上手側にコンサート・マスターが座っている形になります。)。

続くラプソディ・イン・ブルーでは,外山啓介さんのピアノが加わりました。冒頭のクラリネットのグリッサンドから,非常にスマートな雰囲気があり,現代的ですっきりとした演奏を聞かせてくれました。外山さんのピアノはとてもスムーズなのですが,ちょっと味が薄い気がしました。過去,OEKの公演では,山下洋輔,小曽根真といったジャズ・ピアニストによる演奏を聞いたことがありますが,それらに比べると当然のことながら,まともな演奏でした。その分,曲への入れ込み方少ないと感じました。

これは,ホールの響きのせいもあると思います。今回はかなり後方の座席で聞いたのですが,過去の経験からすると,このホールでしっかりとピアノ演奏のニュアンスを味わうのは難しいと思います。この曲に関しては,別ホールで聞いてみたかったところです。

中間部では,陶酔的なメロディが出てきますが,この辺は吹奏楽の響きにぴったりです。ただし,弦楽器がないと正直すぎるというか,腹黒い(?)ところがないというか,ブルーというには,健康的過ぎる気もしました。

その後,外山さんの独奏でガーシュインの前奏曲がアンコールで演奏されました。CDなどでもラプソディ・イン・ブルーの後に”付け合せ”で収録されていることが多い曲ですが,こちらの方は,大変元気良く,のびのびとした演奏でした。

後半は,コープランドの曲が演奏されました。「エル・サロン・メヒコ」と「ロデオ」という代表曲2曲が演奏されたのですが,つい最近,OEKメンバーによる「アパラチアの春」も聞いたばかりですので,コープランドづいている感じです。

両曲とも,馬から落馬しそうな感じのする変拍子が面白い曲です(実は,両曲の区別が付かなかったりもするのですが...)。シエナの皆さんによるパリッとした健康的な響きも曲想にぴったりでした。「エル・サロン・メヒコ」では,静かな室内楽的な部分での個人技が面白いと思いました。通常のオーケストラの第1ヴァイオリンのような役割を果たしているクラリネットセクションの陶酔的な美しさをはじめとして,楽団全体としてのサウンドもとても気持ち良く響いていました。

リズムの面白さの点では,最後に演奏された「ロデオ」の方がさらに生気があったように思いました。4曲から成る組曲ということで,ストーリー性のある交響曲のような構成感があり,聞き応えがありました。第1曲「カウボーイの休日」のリズムはとても格好良く,スマートで伸びやかでした。ただし,中間部で出てくる,とぼけた感じのトロンボーンに続いて,いろいろな楽器のソロが休符をはさんで続く部分では,ホールにもう少し残響があるともっと雰囲気が出るのにな,と感じました。

第2曲は,「牧場のノクターン」ということで,ひんやりとした夜空のムードを持った楽章でした。第3曲「サタデー・ナイト・ワルツ」は,素朴さと懐かしさのある静かな曲でした。ポップス風の親しみやすさも感じました。特に木管楽器の厚みのある音が気持ちよく響いていました。第4曲「ホー・ダウン」は,第1曲の再現のような感じの曲です。ここでも変拍子の連続で,ちょっと安っぽい感じの色使いのアメリカのマンガを見るような面白さがありました。

アンコールでは,まず,ガーシュインの「ストライク・アップ・ザ・バンド」が演奏されました。ミュージカル・メドレー風の曲で,最後の方で,おなじみの行進曲風のメロディが出てきました。やはり吹奏楽にはこういうシンプルなマーチがよく合うと感じました。

そして,最後にシエナのアンコールの定番,「これがないと終わらない」曲が演奏されました。スーザの「星条旗よ永遠なれ」です。首席指揮者の佐渡裕さんお得意のナンバーで,「自分の楽器持ち込み」のお客さんと一緒に演奏されました。ステージに上って,勝手に共演可ということで,これを楽しみにしていた20名ぐらいの人がステージに乗っていました。トロンボーンなどの大きな楽器を持って来ている方もいましたが,中には指揮で参加という人もいました。この”指揮者”は,本当に素晴らしかったですね。指揮ぶりが実に安定しており,聖響さんも途中は安心してお任せしていたようでした。

シエナの皆さんの中には,客席まで降りてきて演奏している人がいたり,途中のピッコロの見せ場では,宴会芸のような楽しい動作が入ったりと,エンターテインメント精神に満ちたパフォーマンスを楽しませてくれました。最後の部分では,テンポが一気に上がり,全員が総立ちになって演奏するというのも,お決まりのパターンで,会場も大いに盛り上がりました(ただし,石川厚生年金会館ホールだと拍手の音がいまいち響かないのが残念)。

今回は,北陸地方では滅多に聞くことのできない,プロフェッショナルの吹奏楽団のサウンドを十分に楽しむことができました。前述のとおり,特に音の溶け合い方が大変美しく,オーケストラを聞くのと同じような気分で演奏を楽しむことができました。この日は,意外なほど,お客さんの入りが良くなかったのですが(学生が行くには少し料金設定が高かったと思います),それでも市内の学校の吹奏楽部らしき生徒の姿を大勢見かけました。彼らにとっては絶好のお手本&刺激になったと思います。また,吹奏楽ファンのみならず,日頃はオーケストラを聞いている人にも楽しめる演奏会だったと思います。

PS.今回の演奏会のプログラム・ノートですが,各曲ごとに「○○年のコンクールで,○○高校が演奏して全国に広まった」といった記述があるのが面白かったですね。高校の吹奏楽の世界は,高校野球の世界とかなり似た雰囲気があるようです。 (2008/12/05)

関連写真


今回の公演のチラシとチケット


私の座った座席です。B席4000円だったのですが,学生向け価格帯を設ければ良かったのに,と思いました。