OEKfan > 演奏会レビュー
オーケストラ・アンサンブル金沢第252回定期公演F
2008/12/05 石川県立音楽堂コンサートホール
1)宮川彬良/OEKポップスのテーマ
2)ヴィヴァルディ(宮川彬良編曲)/きらめく歩み(「四季」〜「春」第1楽章)
3)バッハ,J.S.(宮川彬良編曲)/メヌエット(ラヴァーズ・コンチェルト)
4)桑田佳佑(宮川彬良編曲)/いとしのエリー
5)つのだ☆ひろ(宮川彬良編曲)/メリー・ジェーン
6)ベートーヴェン(宮川彬良編曲)/エリーゼのために
7)ベートーヴェン,プラード(宮川彬良編曲)/シンフォニック・マンボNo.5「運命!」
8)宮川泰(宮川彬良編曲)/恋のバカンス
9)宮川泰(宮川彬良編曲)/東京たそがれ(ウナ・セラ・ディ東京)
10)マンシーニ(宮川彬良編曲)/小象の行進(映画「ハタリ!」から)
11)宮川彬良(ヒビキ・トシヤ作詞)/合唱とオーケストラのための組曲「少年の時計」(1.音のつばさ,2.このうたゆうき,3.まちがみんなをすきなんだ,4.はじめてのきみ,5.サヨナラの星)
12)チャーチル(宮川彬良編曲)/ファンタスティック!「白雪姫」
13)(アンコール)宮川彬良/ゆうがたクインテット
14)(アンコール)宮川彬良/栄光(ひかり)の道
●演奏
宮川彬良指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:松井直)
大澤明(チェロ*8),ボトラーズ(ボトル*10)
合唱:OEKエンジェルコーラス,MRO児童合唱団,星稜大学人間科学部こども学科*11,14
構成・台本:響敏也

Review by 管理人hs  

コンサートの立看板
12月に入り,世間はそろそろ忘年会シーズンです。宮川彬良さんが登場したオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演ファンタジー・シリーズは,そんな気分にぴったりの楽しい公演となりました。今回は,宮川さんが作・編曲した14曲(アンコールを含む)が演奏されました。宮川さんがOEKの定期公演に登場するのは,丁度一年ぶりのことですが,前回行くことができなかった私にとって,今回の公演は待望の公演ということになります。

前半では,宮川さんによる多彩な編曲作品の数々,後半では宮川さん作曲による合唱組曲「少年の時計」などが演奏されました。演奏の間には,宮川さんの絶妙のトーク満載で,大変充実した内容でした。

演奏会は宮川さん作曲によるOEKポップスのテーマで開演しました。松井秀喜選手の応援歌「栄光の道」の主題を改編したものですので,石川県民にとっては大変親しみやすい曲と言えます。夢見るような柔らかな響きで始まり,後半徐々に盛り上がる曲ということで,ファンファーレ風のテーマとはひと味違います。この曲は,昨年に続いての再演ですが,実はタイトルがまだ決まっておらず,この日の会場アンケートの結果を基に決定するとのことです。私も一つ考えて応募してみましたが,一体どういうタイトルになるか楽しみです。

その後は,クラシック系の曲とポップス系が交互に演奏されました。面白かったのは,宮川さんの編曲によって,クラシック系がポップス調になり,ポップス系がクラシック調になっていた点です。

最初に演奏されたヴィヴァルディの「四季」は,ラテン系の打楽器やテューバまで入り,ビートの聞いた編曲になっていました。宮川さんの言葉によると,「バロックからバを取ると?...ロックですね」ということで,「なるほど,これは一本取られた!」という演奏でした。時々,チェンバロの音が聞こえたり,ピアノが入っていたりということで,ポール・モーリアの曲を聞いているような雰囲気もある曲でした。

バッハのメヌエットの方は,谷津さんのトランペット・ソロが活躍しており,バロックの協奏曲風味のあるイージー・リスニングという感じでした。こういうさっぱりとしたアレンジも良いですね。

続いて邦人作曲家によるポップスコーナーとなりました。「いとしのエリー」と「メリー・ジェーン」の2曲が演奏されましたが,その選曲の意図は...「エリーさんとメリーさんを並べてみました。それ以上の意味はありません」ということで,これにも一本取られました。この辺のユーモアのセンスは,彬良さんの父上の宮川泰さんに通じるものがある気がします。どちらも弦楽器を主体としたムード満点のものでした。宮川さんが自画自賛していたとおり,特に「メリー・ジェーン」の演奏の「悲しい気分」が最高でした。

その後は再度クラシック音楽のコーナーとなり,ベートーヴェンの作品が2曲演奏されました。ここではまず,クラシック音楽の有名な作曲家たちの「枕詞」を比較した後,いかにベートーヴェンが別格であるかが説明されました。この説明が最高でした。

大変手際の良いことに,次のような枕詞の書かれた大型フリップが用意されていました。

  • 音楽の父=バッハ
  • 交響曲の父=ハイドン
  • 歌曲の王=シューベルト
  • 歌劇王=ヴェルディ
  • ピアノの詩人=ショパン

とここまでは,「父」とか「王」とか人間なのですが,

  • 神童=モーツァルト(ちなみにこの日はモーツァルトの命日でした)

となると,神の領域に近づきます。「しかし所詮子供扱いですよ」ということで,

  • 楽聖ベートーヴェン

は別格ということになります。この”別格性”について,「音楽をBGMから芸術に変えた点にある」と説明していました。モーツァルトまでの音楽は,BGMになるがベートーヴェンの「運命」はBGMにならない,ということで,「モーツァルトを聞きながら上品に紅茶を飲むことはできるが,ベートーヴェンを聞きながらだと紅茶を吹き出してしまう」ということをユーモアたっぷりの動作を交えて説明していました(ここでも小道具としてティーカップが登場していましたが,OEKのステージマネージャーさんが音楽堂のお隣のホテルのウェイターさんそっくりでした)。BGMだから良い悪いということでもないのですが,音楽史の転換点を鮮やかに説明していました。

その後,スペイン風のミステリアスな気分を持った「エリーゼのために」が演奏された後(終わり方はチャイコフスキーのようでしたが),シンフォニック・マンボNo.5「運命」が演奏されました。この曲は昨年も演奏されたとのことですが,宮川さんの真骨頂が発揮された編曲でした。

タイトルは見て分かるとおり,ペレス・プラードの作ったマンボの名曲「マンボNo.5」とこれぞクラシックの「交響曲第5番「運命」」を混ぜたものです。No.5が重なっている点がまず面白いのですが,ジャジャジャジャーンのモチーフの「ソソソ・ミ♭ー↓」という音の動きの最後のミ♭の音を1オクターブ上に持ってくるとマンボNo.5と似た感じになるのです。ちょっと強引が気もしますが,確かに「タタタタ・タ↑,タタタタ・タ↑」という音が続出する曲ですので,非常にうまく合体していました。途中柔らかな感じになる第2主題もラテンの心地よいリズムにぴったりでした。いずれにしても「ウーッ!」という掛け声で世の中すべて丸く収まる,というハッピーな演奏でした。

この手の編曲については,故山本直純さんが天才的でしたが,その後継者としてどんどん新アレンジを期待したいと思います。

プログラム後半は,宮川泰さんの作品で始まりました。最初に演奏された「恋のバカンス」は,大澤明さんのチェロ独奏をフィーチャーしたピアソラ風の編曲で演奏されました。チェロによるピアソラということで,ヨーヨー・マによる「リベルタンゴ」を意識した演奏となっていました。

宮川さんは,大澤さんについて,「素晴らしいキャラクターです」と紹介されていましたが,このような形で各奏者のキャラクターが前面に出てくるようになると,聞く楽しみも倍増します。これは創設20周年の積み重ねの力だと思います。

もう1曲演奏された「ウナ・セラ・ディ東京」は,宮川さん自身,子供の頃は大嫌いな曲だったが,今は「その暗さが良い」と感じるようになったとのことです。その気持ちはよく分かりますねぇ。この曲では宮川さん自身,鍵盤ハーモニカでメロディをしみじみと演奏されていましたが,これも効果的でした。「のだめカンタービレ」ではマングースが演奏して有名になりましたが,この楽器はなかな使い手がありますね。

ここで父上の宮川泰さんのお葬式の時のエピソードも紹介されました。出棺の時の音楽が「宇宙戦艦ヤマト」のテーマという,「人を喰った」ような選曲だったのですが,その歌詞をよく聞くと「さらばー地球よー」ということで,この世からの旅立ちにはぴったりだったと語っていました(「出棺後,信号待ちが長く,この部分を繰り返していたのですが...」というオチまで付いていました)。

その後「小象の行進」が演奏されましたが,ある意味この日いちばんの聞きものだったと思います。この曲の始まる直前,雷鳴とともに舞台が暗転し,照明が青白くなった後,「おっ,ブルース・ブラザーズか?」という感じでサングラス+黒いスーツの2人が登場しました。お二人は謎の2人組「ボトラーズ」ということで何を尋ねられても「ボトルです」としか答えていませんでしたが,この曲のオリジナルに出てくる,パンフルートのような独特の音色をコーラのビンを吹くことで再現するために登場してきました。

丁度,ハンドベルを演奏するような感じでいろいろな音程の出るボトルを机の上に用意しておき,次々とビンを持ち換えて演奏する,というものです。これはなかなかすごい芸だと思いました。完全にOEKの演奏を喰っていたと思います。常に2人組で演奏し,独特の素朴な和音を聞かせてくれました。

この曲の合いの手の部分を,お二人がもっぱら担当していたのですが,大体2つの音から成っていましたので,お二人は両手にビンを持ち,合いの手を入れる度に,顔を左右に振ることになります。その妙に脱力した感じのシンクロ具合がおかしかったですね。その他,手(口?)が空いている時には,ちょっとしたダンスも披露し,サービス満点でした。よくもこういう発想が出てきたものだ,と感心しました。

途中,お二人は腕を絡み合わせて,お互いに相手の持つボトルを吹くという高度な技も見せていましたが,これも最高でした。この動作は,映画「ブルースブラザーズ」の中にも出てくるもので,「分かる人には分かる」パロディになっていました。

この映画では,「小象の行進」の作曲者のヘンリー・マンシーニの作曲した「ピーター・ガン」という曲も使っているのですが(誰でも聞いたことのある曲です),このソウル風のリズムは,「小象の行進」のリズムとほとんど同じです。というわけで,「小象の行進」と「ブルースブラザーズ」には実は,深いつながりがあるのです(そういえば,登場の際の雷鳴も途中のダンスもすべて「ブルースブラザーズ」の引用だったのかもしれません。)

私自身,この映画が大好きなので,この凝り具合には心底感心してしまいました。ちなみに,このボトラーズのお二人ですが,OEKの事務局のお二人だったと最後には素性が明かされていました。身長の差も本家ブルーズ・ブラザーズを彷彿させるものでした。是非,再演を期待したいと思います(ただし,こんなにピタリとはまる曲はこの曲以外にないとは思いますが)。

ついつい,話がマニアックな方に脱線してしまいましたが,その後演奏された,合唱とオーケストラのための組曲「少年の時計」がこの日のメイン・プログラムでした。ここまで,ユーモアたっぷりに語っていた宮川さんが,「これが私の作りたかった曲です。私の本心です」と真顔で語って演奏されました。この曲では,OEKエンジェルコーラス,MRO児童合唱団,星稜大学の学生が合唱で参加していましたが,どの曲も宮川さん自身の朗読に続いて,シンプルでノスタルジックな歌が歌われました。5曲からなる組曲ですが,それぞれに違った表情を持っており,全体的なバランスも良いと思いました。

最後の「サヨナラの星」では,大学生の合唱と児童合唱とが交互に掛け合うように歌う部分がありましたが,子供時代への懐かしさと子供時代との惜別とが交錯するようで,素晴らしいエンディングとなっていました。これからも児童合唱のレパートリーとして残っていく曲集だと思いました。ちなみにこの曲の歌詞は,OEKの定期公演のプログラム・ノートの執筆でおなじみの響敏也さんによるものでした。この日の演奏会全体の構成・台本も響さんが担当されていましたが,このコンビの活躍を今後も期待したいと思います。

最後にディズニー映画「白雪姫」の音楽のメドレーが可憐に爽快に演奏され,本割のプログラムは終わりましたが,当然,アンコールがありました。まず,NHK教育で夕方に放送している「クインテット」のテーマが演奏された後,松井選手の応援歌「栄光の道」が演奏されました。「栄光の道」は会場から自然に起きた手拍子とともに合唱団と共に演奏され,和やかな雰囲気の中で演奏会はお開きとなりました。

季節柄,ウキウキと浮かれた気分で楽しむのに丁度良い演奏会でしたが,何よりその「お客さんを喜ばせよう」という精神に感激しました。OEKの事務方の気合いの入ったサポートにも大いに拍手を送りたいと思います。
(2008/12/06)

サイン会と
音楽堂周辺の
クリスマスの光景

宮川彬良さんのサインです。子どもたちの姿を沢山見かけました。


響敏也さんからサインを頂くのは初めてかもしれません。右側はお馴染みチェロの大澤さんのサインです。


音楽堂内部&周辺もクリスマスらしくなっていました。写真で紹介しましょう。

玄関横のツリーです。


建物に入ると,ケーキのような形をした飾りがありました。


雪だるまやらサンタクロースやらがいたるところにいます。


先ほどの”ケーキ”を上から見たところです。


こうやってみると赤いウェディングケーキのようです。


こちらは,もてなしドームです

金沢フォーラス前です。