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オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ
もっとカンタービレ第11回「室内楽名曲の玉手箱」
2008/12/17 石川県立音楽堂 交流ホール
1)ドビュッシー/フルート,ヴィオラとハープのためのソナタ
2)ベートーヴェン/管楽六重奏曲変ホ長調op.71
3)スメタナ/弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」
●演奏
岡本えり子(フルート*1),古宮山由里(ヴィオラ*1,3),山本真美(ハープ*1)
木藤みき,野田祐介(クラリネット*2),柳浦慎史,渡邉聖子(ファゴット*2),金星眞,山田篤(ホルン*2),坂本久仁雄,ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*3),ルドヴィート・カンタ(チェロ*3)
Review by 管理人hs  
この公演のポスターです。
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ「もっとカンタービレ」第11回に出かけてきました。今回は,「室内楽 名曲の玉手箱」ということで,フルート,ハープ,ヴィオラの三重奏,管楽六重奏,弦楽四重奏という,いろいろな編成の室内楽作品を楽しむことができました。OEKの皆さんの衣装も各曲ごとにセンスの良さを競っているようなところがあり,「玉手箱」という言葉どおり,華やかさのある室内楽公演となりました。

最初に演奏された,ドビュッシーの作品は,少々つかみどころのないところがあったのですが,武満徹さんの曲を思わせるようなところがあり(武満さんの方がドビュッシーの影響を受けているのですが),ファッショナブルな雰囲気がありました。まず,3人の女性奏者のドレスが大変鮮やかでした。岡本さんがワインレッド、古宮山さんが明るいピンク、山本さんが明るい水色,ということで,上品な華やかさでステージがいっぱいになりました。

この曲はドビュッシー最晩年の作品で,大変珍しい楽器編成のソナタです。この曲以外では,武満徹さんの「そして,それが風であることを知った」という曲ぐらいしかないかもしれません。曲は3つの楽章から成っています。

第1楽章は,非常にゆったりと始まりました。岡本さんのフルートには,しっとりとした落ち着きと瑞々しさがありました。それに今回のゲスト奏者の山本さんのハープの音が加わると,どこかミステリアスな気分になります。そしていつの間にか古宮山さんのヴィオラへとメロディが移っていきます。全然,違った種類の楽器なのに,音が絡み合い,溶け合うところに面白さがあります。

第2楽章になると,もう少し動きが出てきます。ハープの音がとても繊細に聞こえたのですが,ホールの残響が少ない分,少々ギスギスした感じにも聞こえました。この辺は,交流ホールの弱点かもしれません。第3楽章は,終曲ということで,さりげなく,しかし,しっかりとした盛り上がりが作られていました。楽器間の激しいぶつかり合いや緊迫感もあったのですが,最後はとても小気味良く締めくくられました。 

今回のハープ奏者の山本さんは,福井県在住の方で,岡本さんとは,旧知の方との紹介が演奏前にされました。そういえば,福井県はハープの産地だったな,と思いながら聞いていました。

ハープの生産第1位

2曲目のベートーヴェンの管楽六重奏曲は,CD・実演を通じて,今回,初めて聞く作品でしたが,とても良い曲だと思いました。ホルンとファゴットが2本ずつ入っているだけあって,大変音に厚みがありました。その上で木藤さんのクラリネットが華やかに活躍するのですが,この軽快な音も印象的でした。柳浦さんのファゴットとの対話も,丁々発止という感じの生き生きしたものでした。

演奏前の柳浦さんの説明によると,この曲の作品番号は,出版時期の関係で,かなり大きなものになっていますが,作曲された時期は交響曲第1番の少し前とのことでした。若き日のベートーヴェンの曲らしく,全曲を通じて大変上機嫌で,素朴な明るさに満ちているのですが,しっかりとした4楽章構成を取っていることもあり,小規模な交響曲を聞くような充実感もありました。

第1楽章はゆったりした序奏の後,くっきりと引き締まった主部になります。大変密度の高い演奏だったと思います。のどかな雰囲気のある第2楽章の後,第3楽章メヌエットが続くのですが,ベートーヴェンらしく,スケルツォ風の楽章となっていました。ホルンがいきなり登場し,狩を思わせる勇壮さがありました。

第4楽章も,素朴さがありました。「タンタカタンン」というリズムがとても親しみやすかったのですが,そのうちに「運命」のモチーフのようなリズムが出てくるのも,やはりベートーヴェン的だと思いました。ユーモアの感覚もあり,交流ホールのような場所でリラックスして聞くのにぴったりの作品だと思いました。

「ユーモア」と言えば,この曲の演奏前に,ちょっとした「サプライズ」がありました。6人の奏者が一斉に息を吸い込み,「さぁ始まるぞ」と思った瞬間,何と何と「ハッピー・バースディ・トゥ・ユー」と合唱が始まりました。6人の中の誰だろう?と思いながら聞いていたのですが,お互いに「私じゃない,私じゃない」という動作をしています。そして,最後の部分で「ディア・ベートーヴェーン」となりました。この日は,ベートーヴェンの誕生日の翌日(洗礼を受けたのはこの日)だったのです。このことで,すっかり会場の雰囲気が和やかになり,演奏がさらに生き生きしたものになっていました。ベートーヴェンの若い頃の室内楽曲と言えば,七重奏曲を思い出すのですが,この曲なども是非,「もっとカンタービレ」シリーズで聞いてみたい曲です。

後半は,スメタナの弦楽四重奏曲第1番「我が生涯から」が演奏されました。考えてみると,このシリーズに弦楽四重奏が登場するのは,珍しいことです。男性3人+古宮山さんという組み合わせでしたが,落ち着いたスーツ+華やかなネクタイ姿の男性3人は,ビシっと決まっており,この曲の主役と言っても良い古宮山さんのヴィオラをしっかりとサポートしていました(ちなみに古宮山さんは,第1曲でのピンクのドレスではなく,黒いドレスに着替えていました。)。

この作品は,スメタナの苦難に満ちた壮絶な人生を振り返る異色の作品です。私自身,一度実演で聞いてみたかった作品でしたが,期待どおり,弦楽四重奏による音のドラマといった感じの大変聞き応えのある作品でした。

まず,第1楽章の冒頭部分からヴィオラが登場します。同じチェコの作曲家のドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」でも最初の方でヴィオラが印象的な主題を演奏しますが,それと形としては似た感じです。ただし,さらに緊迫感が漂っています。

古宮山さんのヴィオラは,1曲目のドビュッシーの時とは,別人のように大変くっきりした音で,スメタナの人生を象徴するような,ほの暗さのある主題を聞かせてくれました。その後は,懐かしさと緊迫感とのがバランスが良く合わさった感じの音楽が続きました。そう思って聞くからかもしれませんが,まさに人生を俯瞰するような音の流れをじっくりと味わうことができました。

第2楽章は,ポルカということですが,そんなにおどけた感じはしませんでした。じっくりと,しかし野趣のある音楽をダイナミックに聞かせてくれました。この日のプログラムの解説によると,途中,「トランペット風に」という部分が出てくるのですが,この部分の歌い方も印象的でした。 

第3楽章は,カンタさんのチェロのソロで始まりました。カンタさんは,チェコではなく,スロヴァキアの方の出身ですが,この曲については,きっと「お国もの」的な意識を持っていらっしゃると思います。少し苦しみがにじんでいるよう音楽をじっくりと聞かせてくれました。

第4楽章は,この曲のクライマックスと言えます。元気よく民族音楽風に始まった後、いきなり暗雲が立ちこめ,耳鳴りを表現した高音の「ミ」の音が第1ヴァイオリンに出てきます。こういう曲は他にはないでしょう。非常にドラマティックで,ハッとさせられます。作り物ではない切実な気分が続いた後,あきらめの境地を思わせる静けさが広がります。聞いていて全く飽きることのない作品で,まさに名曲だと思いますが...そうであればあるほど,どこか自分の身を削っているようなところが感じられ,残酷でもあります。今回の演奏も,深い悔恨とそこはとない諦観とがしっかりと残るような演奏でした。

「もっとカンタービレ」シリーズも,”トークの後,演奏”というスタイルが定着し,固定客もできてきている感じです。入場料金は1回2,000円ですが,通しの回数券を買うとかなりの割安になります。気楽に楽しめると同時にいろいろな演奏スタイルを実験するような場になっている感じです。この辺がスリリングです。演奏会というよりは,奏者と一体になって”ライブ感覚”を味わえるのが,定期公演にない魅力だと思います。12月は,この公演を含めOEKの室内楽公演が目白押しですが,OEKが細胞レベル(?)で金沢市内各地に溶け込んできているようで,これもまた嬉しい限りです。 (2008/12/19)

金沢市内&音楽堂
クリスマス写真集
音楽堂周辺も金沢市内もクリスマスの装飾だらけになってきました。

音楽堂の玄関です。


音楽堂内の飾りです。




ホテル日航金沢の前です。


こちらは武蔵が辻の”雪つり”風の照明です。