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クリスマス・メサイア公演
2008/12/21 石川県立音楽堂コンサートホール
1)14世紀ドイツ・キャロル/甘き喜びに包まれて
2)イギリス・キャロル/みつかいうたいて
3)チャイコフスキー/バレエ組曲「くるみ割り人形」〜行進曲
4)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル)
5)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋,7,9,11,18,21,24-26,28-32,36-39,46,52曲省略)
6)(アンコール)きよしこの夜
●演奏
柳澤寿男指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*4-6
北陸聖歌合唱団(合唱指揮:朝倉喜裕)*5-6,OEKエンジェル・コーラス,北陸学院高等学校聖歌隊(4,6)
朝倉あづさ(ソプラノ*5),小泉詠子(メゾ・ソプラノ*5),志田雄啓(テノール*5),ヴェセリン・ストイコフ(バリトン*5)
春日敏美指揮北陸学院高等学校ハンドベルクワイヤ*1-3,6)
Review by 管理人hs  
この公演のポスターです。
クリスマス・シーズン恒例の北陸聖歌合唱団とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるクリスマス・メサイア公演を聞いてきました。この合唱団は,半世紀以上に渡って金沢で「メサイア」だけを歌っている合唱団ということで,今回もまた,熱と感動のこもった歌を楽しませてくれました。

指揮者は,OEKのメサイア公演初登場となる柳澤寿男さんでした(「柳」という文字は,,特殊文字のようでうまく表示されません。ご自信のサイトでも「柳」という字になっていました)。柳澤さんは,旧ユーゴスラヴィアなど民族紛争の多発している地域で指揮活動を続け,世界的に注目を集めている指揮者です。特に歌劇場でのキャリアの豊富な方なのですが,その期待どおりの素晴らしい音楽を聞かせてくれました。恐らく,これまでOEKのメサイア公演に登場した指揮者の中では,最も若い方だと思うのですが,全曲を通じて,大変清々しく,生き生きとした「メサイア」を聞かせてくれました。

メサイアに先立ち,例年どおり北陸学院高等学校ハンドベル・クワイヤによってクリスマスにちなんだ曲がハンドベルで演奏されました。最初の2曲は,古いクリスマス・キャロルで,オルガン・ステージから透き通った癒しの音が降り注いできました。3曲目の「くるみ割り人形」もクリスマス向きの曲ですが,今回演奏された「行進曲」は,ハンドベルで演奏するにはかなりの難曲だったと思います。テンポは遅めでしたが,中間部などは,細かい音が連続するので,なかなかスリリングでした。低音部のベルは,どういう楽器を使っているのか遠くからは見えなかったのですが,モグラ叩きか何かをしているように見えました。いつもに増してハンドベルのステージを楽しむことができました。

続く,クリスマスソング・メドレーも毎年恒例です。軽快なパーカッションのリズムが気持ちよい編曲ですが,何と言っても子供たちの澄んだ声が印象的でした。それと,今回,北陸学院の合唱団に男子生徒も数名参加していました。北陸学院高等学校は,数年前までは女子高でしたが,男女共学に変わったことを思い出しました。こういう形でステージに登場するとPRになりますね。

ここで10分の休憩が入った後,メイン・プログラムの「メサイア」のハイライトが演奏されました。「メサイア」は3部からなっていますが,今回は1部の後で15分の休憩が入り,その後,2部と3部が連続で演奏されました。毎年,違った曲が抜粋されていますが,段々と「絶対外せない曲」というのが分かってきました。

まず,序曲と最初テノールのアリア。この辺は,演奏しないと曲が始まった感じがしません。何と言ってもクリスマス公演ですので,第1部の12曲の合唱「ひとりのみどりごが私たちのために生まれた」〜パストラール〜20曲辺りは欠かせません。

第2部では,23曲のメゾ・ソプラノのアリア,33曲の合唱「城門よ,頭を上げよ」,40曲のバスのアリア,そして「ハレルヤ・コーラス」。第3部では,48曲のトランペットの伴奏が入るバスのアリア,最後の「アーメン・コーラス」などが定番といったところだと思います。今回もこういった曲を中心に選曲されていました。

今回の指揮者は,上述のとおり,柳澤寿男さんだったのですが,弦楽器はほぼノンヴィブラートで演奏していました。極端に古楽奏法を強調している部分はありませんでしたが,ストレートに音楽の流れの良さが伝わってくる,若々しい気分のある演奏でした。聞いていてすがすがしさを感じました。その一方、チェンバロやオルガンなども加わった通奏低音も充実していました。曲全体にピンと張った緊張感があり,一本芯が通っているような強靱さを感じました。

すっきりとした序曲に続いて,まずテノールのソロが出てきます。今回の独唱は,今年の3月,金沢歌劇座で行われた「カルメン」公演で,ホセを歌った志田雄啓さんでした。今回,メゾ・ソプラノの独唱で登場した小泉詠子さんも,この公演でカルメン役を歌っていましたので,その時以来の「因縁の再会」ということになります。

志田さんは,2006年に行われたショスタコーヴィチの「森の歌」公演にも登場されていますので,音楽堂では,すっかりおなじみの歌手と言えます。今回も大変安定感のある歌でした。とてもすっきりと引き締まってながら,大変伸びやかな声がホール中に朗々と響いていました。

続いて,バスのソロが出てきます。今回の独唱のストイコフさんは,すらりとした長身の方で,見るからにクールな感じでした。声の方も,ちょっと厳めしい感じでした。迫力はあったのですが,他の3人とは少し異質な感じがしました。

メゾ・ソプラノのソリストは,上述のとおり,金沢市出身の小泉さんでした。小泉さんは,東京芸大の博士課程に在学中の若手歌手ですが,志田さん同様,毎回とても安定した歌を聞かせてくれます。今回はとても清潔な感じのする真っ白のドレスで登場していましたが,その雰囲気どおおり,瑞々しい声をしっとりと聞かせてくれました。

合唱団もソリストに負けない歌を聞かせてくれました。クリスマスらしい気分のある12曲目の合唱曲(「ワンダフル,カウンセラー」という言葉が出てくる曲です)はとても晴れやかでした。北陸聖歌合唱団の編成は,男声パートがかなり少なく,男女比は1:3〜1:4ぐらいです。そのせいもあり,女声の方が余裕があるのに対し,男声の方は「がんばっているなぁ」という感じになります。ただし,こういう歌を聞いていると,男性の聞き手としては,大いに励まされる気がします。

すっきりとした澄んだ空気感のあるパストラールに続いて,第1部後半は,ソプラノの見せ場が続きます。ここで登場するのが,お馴染みの朝倉あずささんです。金沢の「メサイア」には欠かせない歌手ということで,毎年毎年見事な歌を聞かせて頂いています。可憐な雰囲気を残したまま,年々,自信と円熟した雰囲気が加わってきていると思います。私などは,朝倉さんの声を聞かないとクリスマスを迎えられないという感じです。

第17曲の合唱「いと高きろころには栄光」には,トランペットが加わってきますが,この祝祭的な響きも気分を盛り上げていました。この日のトランペット・ソロは,藤井さんが担当していましたが,この曲以外についても全曲を通じて絶妙の演奏を聞かせてくれました。

第1部最後は,メゾ・ソプラノとソプラノによるアリア「主は羊飼いとして群れを養い」でした。今回の女声お二人の声は,非常にバランスが良いと思いました。自己主張は強すぎないけれども,静かにメッセージが伝わって来るような気持ちの良い歌でした。

第2部は「受難」の場面です。23曲のメゾ・ソプラノのアリア「彼は軽蔑され」,40曲のバスのアリア「なにゆえ,国は騒ぎたち」など,聞き応えのある曲が続きます。23曲のアリアは,小泉さんの声がホールに静かに染み渡りました。40曲のアリアはかなり速いスピードで一気に駆け抜ける感じでした。強弱の変化も鮮やかで,柳澤さんらしさが出ていたと思いました。OEKの演奏も大変小気味良いものでした。続く41曲の合唱もこれを受けるようなスリリングな感じがありました。

第2部最後の「ハレルヤ・コーラス」は,比較的穏やかな感じで始まり,後半に向けてぐっと盛り上がってくるようなバランスの良いものでした。ここでもトランペットの響きが効果的でしたが,本当のクライマックスを第3部最後の「アーメン・コーラス」に設定していたようで,「ハレルヤ・コーラス」の方は,中締めという位置づけだったように感じました。

第3部「復活」は,ソプラノのアリア「わたしは知っている」で始まりました。この曲の冒頭の静かな弦楽器のメロディを聞くと「年末だなぁ」という気分になります。朝倉さんの,穏やかだけれども揺るぎのない歌は,本当に素晴らしいと思います。毎年毎年,どの曲も非常に完成度が高く,安心感と安定感に満ちています。

第3部の聞き所であるバスのアリア「ラッパが鳴ると」は,上述のとおり藤井さんのトランペットの高音がお見事でした。輝かしさだけでなく,まろやかさもあり,うるさい感じがしませんでした。ストイコフさんの歌は,威厳がありましたが,少々歌い方にしまりがないような気がしました。この辺は聞き手との相性の問題かもしれません。

第50曲のメゾ・ソプラノとテノールによる二重唱「死よお前の勝利はどこにあるのか」は,あまり聞いた覚えのない曲です。メサイアには単独のアリアが多いので,「重唱もあったのだ」と再発見した次第です。今回のハイライトでは,47曲から51曲までが連続で取り上げられていましたが,各曲のつながりが非常に良いと思いました。

最後は,「アーメン・コーラス」で締められました。前半から大変堅牢で,全曲を締めるのに相応しい品位とスケール感がありました。今回のハイライト版は,第2部と第3部を一気に聞いたせいか,例年にも増して聞き応えがあったように感じました。柳澤さんの作る音楽もストレートで,曲の魅力をダイレクトに伝えてくれた気がしました。是非また聞いてみたい指揮者です。

終演後,出演者が全員ステージに登場し,恒例のアンコール「きよしこの夜」が歌われました。今回の演奏は,特に素晴らしいものでした。昨年までは,どうだったかはっきり覚えていないのですが、ハンドベルとオーケストラと合唱の共演というのは初めてのような気がします。そのせいもあり大変ゆったりとしてテンポでしたが,何とも言えない感動的な雰囲気を作っていました。この形は新たな「定番」になって行っても良いかなと思いました。

私にとっては,この公演が今年最後のOEKになりそうです。1年間お疲れさまでした。

PS.公演当日のテレビ朝日「題名のない音楽会」では,「メサイア」の魅力について分析する特集が放送されていました。登場したオーケストラがOEKということで(東京で収録したものですが),まさに「プレトーク」のようなタイミングの良さでした。ハレルヤ・コーラス以外にもクリスマス音楽的な第1部,受難曲のような第2部,復活を描いた第3部のそれぞれ代表的な合唱曲を1曲ずつ取り上げており,大変分かりやすい内容でした。今回は,合唱指揮者の本山秀毅さんが解説をされていましたが,機会があれば,全曲を通じた解説を聞いてみたいと思いました。
 (2008/12/23)