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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【001】 井上道義/OEK 交響曲第2番,序曲「コリオラン」
2008/05/05 14:00- 石川県立音楽堂コンサートホール
ベートーヴェン/序曲「コリオラン」op.62
ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調op.36
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング),ナビゲーター : 朝岡聡

Review by 管理人hs    
会場は超満員でした。オルガンステージだけでなく,ステージ上にもお客さんを入れていました。こういうのは初めてのケースかもしれません。ステージにはベートーヴェンの顔の垂れ幕が出ていました。
リーフレットです。各演奏会ごとにこのような簡便なものが用意されるようです。
音楽堂玄関に飾ってあった,井上道義音楽監督による直筆メッセージ。sfz(スフォルツァンド)がキーワード!
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)のオープニングを飾るのは,やはり地元金沢のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による交響曲演奏しか考えられません。公演番号001のオープニング・コンサートでは,井上道義音楽監督の指揮で,ベートーヴェンの交響曲第2番と序曲「コリオラン」が演奏されました。

まず「オープニングでベートーヴェンの交響曲の中の何番を選ぶか?」という選択についてですが,この2番という選択は絶妙だったと思います。1番,4番,6番だとちょっとオープニング的な華やかさがありません。第8番はちょっと短い。第9番はおめでたくて良いけれども,ちょっと大げさで長い。残りの2,3,5,7番はどれでも良さそうですが,「LFJKという新風を金沢に送り込もう」という感覚からすると,やはり2番がぴったりです。春から初夏の気分にもぴったりです。

井上さんは,トークの中で「適当に選んだ」と答えていましたが,これしかない選曲だった思います。「付け合せ」の「コリオラン」の方は,ちょっと暗いかなという先入観を持っていましたが,エネルギーの充実感という点で共通する気分が感じられ,こちらの取り合わせもぴったりでした。

この序曲「コリオラン」から始まったのですが,「満席」という状況を超えて,ウィーン・フィルのニューイヤーコンサート並みにステージにお客さんが入っている「超満席」という状況でしたので,オーケストラの演奏はいつもにも増して気合が入っていました。ホールの残響の方もいつもより少なく感じました。この日の公演については,夕方のローカルニュース全局で取り上げていましたが,そこでの井上音楽監督のインタビューによると「定員1500人のところに1800人も入っていた」とのことです。これだけ入れば,演奏者冥利に尽きる,といった気分になったのではないかと思います。

冒頭の和音から非常に引き締まった音で始まりました。「この日を待っていたんです」というような充実した気分に満ちていました。全体に非常に速いテンポで,胸を空くような演奏でした。

続く交響曲第2番の演奏も,この日の雰囲気に本当にぴったりでした。”快晴の青空””爽やかな風””会場の熱気”−そういった空気すべてを読んだ,快演でした。第1楽章は繰り返しを行わず,どんどん前へ前へと突き進む若々しい演奏でした。井上さんの指揮は非常に滑らかで,音楽も大きくうねるのですが,随所に出て来るキビキビしたリズムの躍動感も聞き応えがありました。井上さんは,音楽堂玄関に飾ってある,特製大型サインの中で,スフォルツァンド記号を書いていましたが,その爆発力を意識した演奏でした。

第2楽章も速目のテンポですっきりしていましたが,聞きながら,ラ・フォルジュルネのような音楽祭がよく金沢で実現したものだ,という夢見心地の気分に浸ってしまいました。井上音楽監督には永遠の少年的な雰囲気があると思うのですが,少年の持つ夢とそれに対するストレートな憧れに満ちた演奏だったと思います。

第3楽章は第1楽章同様,爆発的なアタックが印象的でした。そのままの気分のまま,第4楽章に入りましたが,冒頭のフレーズなど,文字通り「スパッ」という音が聞こえてくるような切れ味の良さでした。このように,今回の演奏は,第1楽章から第4楽章まで一気に駆け抜けたような印象を残してくれる演奏でした。この速いテンポ設定にOEKメンバーは見事に応えていました。

この日の聴衆の中にはかなり子供も入っていましたが,それを読んだ上で,一般的になじみの少ない曲を選び,そして,大いに盛り上げる―ということで,井上さんの読みどおりの演奏になったと思います。この公演には,ルネ・マルタンさん,谷本石川県知事をはじめ,音楽祭の幹部がズラリと揃っていましたが(何と皆さん,ステージ上で聞いていました),「熱狂」の第1歩に相応しい記念すべき演奏会になりました。

PS公演に先立ち,音楽祭の主催者側から次の4つのご挨拶がありました。
  • 前田利祐実行委員長
  • 新木北陸経済連合会相談役
  • 井上道義OEK音楽監督
  • ルネ・マルタン アーティスティック・ディレクター

この中で,実質的に音楽祭を誘致する原動力になったのは,井上道義音楽監督の存在が大きいと思うのですが,それにはいろいろな偶然が重なっています。
  • 1988年に岩城宏之さんが日本初の室内オーケストラとしてOEKを立ち上げたこと
  • 海外演奏旅行,CD録音など非常に積極的な活動を行い,目に見える形で実績を残してきたこと
  • 2001年に石川県立音楽堂という3つのホールを含む本拠地ホールがJR金沢駅のすぐそばに完成したこと。
  • 2005年,金沢21世紀美術館がオープンしたこと
  • 2007年,岩城さんの後任として井上さんがOEK音楽監督に就任したこと(井上さんは,21世紀美術館につられて(?)金沢に来たようなところがある)
  • 井上さんは,ラ・フォル・ジュルネの常連で,ルネ・マルタンさんの信頼が厚かった。
  • 音楽堂では,昨年の「シューベルト・フェスティバル」のようなLFJと似たようなイベントを過去数回行ってきた実績がある。
今回の誘致は,これらが積み重なった結果だと思います。特に重要なのは,石川県立音楽堂の存在とOEKの存在です。それと,やはり金沢という街の持つ歴史や雰囲気といった説明しがたい要因もあったと思います。上では「偶然」と書いてしまいましたが,この誘致は「必然」だったのかもしれません。

この音楽祭を今後も続けるには,地元企業・財界の支援が不可欠ですが,何よりも21世紀美術館的なものOEK的なものを愛するという金沢市民・石川県民の心の持ち方が重要だと思います。LFJKが真に金沢的なイベントになっていくことを期待したいと思います。(2008/04/30)

コンサートホール
ワルトシュタイン
少し早目に出かけたのですが,既に整理券待ちの長蛇の列が出来ていました。今回は記録的な入場者数だったようです。

チケットのモギリの場所は,いつもと違い,階段の下で行っていました。


2階から下を見下ろしたところです。ヒチコックの映画に出てきそうなアングルです。


モギリと書きましたが,マルチパスにはICチップが付いているようで,かざして通る形になっていました。その時に「ジャジャジャジャーン」というのが鳴ります。コンサートホールの将来の姿でしょうか?


2階席からもてなしドームを見たところです。丁度,金沢市立泉野小学校のマーチングバンドが演奏を行っていました。