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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【111】金沢市立工業高等学校吹奏楽部(指揮:幸正勤也)
2008/05/03 12:00- 石川県立音楽堂コンサートホール
スミス/ルイ・ブルジョワの賛歌による変奏曲(未聴)
ベートーヴェン/トルコ行進曲
糸谷良/マーチ「晴天の風」
コルグラス/ベートーヴェン・マシーン
中橋愛生/科戸の鵲巣:吹奏楽のための祝典序曲
後藤洋/ファンタズマ・ルナーレ:月光の中の幻影(金沢市立工業高校委嘱作品・初演)
真島俊夫編曲/カーペンターズ・フォーエヴァー(未聴) ほか
●演奏
幸正勤也指揮金沢市立工業高等学校吹奏楽部
Review by 管理人hs    
ラ・フォル・ジュルネ金沢のコンサートホールでの最初の公演は,高校生による吹奏楽の演奏でした。実はこの公演は,公演番号121のオーケストラ・アンサンブル金沢メンバーによる室内楽の整理券をもらった後,時間が空いたので聞きに行ったものです。最初と最後の曲は聞いていないという大変な失礼な聞き方をしてしまいました。ラ・フォル・ジュルネのようなイベントの場合,このような形がどうしても出てきてしまいます。

さて,1曲目の途中にコンサートホールに入ったので,しばらく外で待っていたのですが,ホール内から聞こえてくる音は,通常のオーケストラと区別が付きませんでした。2曲目の始まる直前にホールに入った途端,ステージ上には,フル編成のオーケストラか?と見間違うぐらい大勢の奏者がいました。クラリネットがヴァイオリン代わりとなって,木管楽器を中心に下手から扇形に指揮者を取り囲み,後方には金管楽器がずらりと揃っていました。

地元では金沢市立工業高等学校の吹奏楽部は昔から非常に有名ですが,その英文名称にあるとおり,まさに”Symphonic Band”でした。「百万石まつり」のパレードでもお馴染みの団体ですが,こうやってコンサートホールで聞くのは初めてのことです。私自身,吹奏楽を聞く機会はほとんどないのですが,管楽器を中心としたオルガン的な響きはクラシック系の作品にもよく合います。今後もラ・フォル・ジュルネ金沢が継続されるとすれば,金沢版の目玉の一つにして行っても良いかもしれません。野外コンサートにも対応できるし,何よりもお祭りに吹奏楽の雰囲気ははぴったりです。

今回は,ラ・フォル・ジュルネの売り物の一つである「0歳以上のコンサート」ということで,子供たちの声がかなり盛大に入っていましたが,吹奏楽の場合,音量が非常に大きいので,大音量で演奏する部分の多い曲についてはほとんど問題にならない感じでした。市立工業高校の演奏は,どの曲も大変充実していました。特にこのホールで聞くと響きが柔らかく感じられ,気持ち良さを感じました。プログラムを一見しただけで,非常に意欲的で多彩な内容だと分かったのですが,今回の晴れ舞台のために相当厳しい練習をされてきたのではないかと思いました。

#ただし,「親子向け」にしては,少々プログラムの内容が硬い気もしました。

プログラムは,指揮者の幸正謹也さんの解説を交えて進められていました。ベートーヴェン関連の曲と吹奏楽作品を交互に演奏するということで,2曲目にはベートーヴェンのトルコ行進曲が演奏されていました。この曲は,ベートーヴェンの曲の中では最も吹奏楽向きかもしれません。

続いて,糸谷良という現役の高校生が作曲したという「爽やか系マーチ」が演奏されました。吹奏楽コンクールの課題曲を高校生自身から公募するというのも面白いですね。インターネットを調べてみたら調べてみたら次のようなサイトがありました。今年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲とのことです。
http://www.basj.or.jp/wind/08testpiece/testpiece2008_2.htm

コルグラスの「ベートーヴェン・マシーン」は,今回のLFJKのテーマに合わせたものです。ベートーヴェンのソナチネをテーマに作った曲で,ストーリー性のある,かなり現代的な雰囲気のある作品でした。

続く,中橋愛生の「科戸の鵲巣」ですが,「しなとのじゃくそう」と読みます。非常に難しい漢字を使っていますが,よくこんなに難しい言葉を見つけてきたなぁという感じです。「日本書紀」中に出てくる言葉で,「穢れをはらう」という,神道的な内容を音楽で表現しています。曲中,鳥の鳴き声のような特殊奏法的な部分があるのですが,西村朗さんの曲辺りにありそうで,なかなか面白いと思いました(会場内の赤ちゃんの泣き声ともうまい具合にシンクロ(?)していました)。ただし,うるさいと思った人もいたかもしれません。

後藤洋さんのファンタズマ・ルナーレは,金沢市立工業高校が委嘱して作った新曲で今回が初演とのことでした。高校の吹奏楽部が新作を委嘱することは多くないと思います。伝統のある吹奏楽部ならではの大変意欲的な取り組みだと思います。その素材となっているのが,ベートーヴェンの「月光」ソナタです。響きの多彩な面白さを追求したような作品で,静かにキラキラと光るような雰囲気の中に癒しの気分がありました。オリジナルの気分を取り入れるためかピアノ独奏も入っていました。

と,ここまで聞いたところで,次の公演が迫ってきたので退出しました。この後はカーペンターズ・メドレーだったようです。機会があれば,定期演奏会でも聞いてみたいものです。(2008/05/07)

コンサートホール
ワルトシュタイン


コンサートホールから入口前を眺めてみました。金沢の日照時間がもう少し長ければ,常設の屋台があっても面白そうですが...。定期公演の時だけでもやってみる,というのは面白いかもしれません。