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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【112】井上道義/OEK アンヌ・ケフェレック(Pf)
2008/05/03 15:00- 石川県立音楽堂コンサートホール
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番ハ短調,op.37
●演奏
アンヌ・ケフェレック(ピアノ),井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)
Review by 管理人hs    
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)本公演初日のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の公演は,フランスのベテラン女流ピアニスト,アンヌ・ケフェレックさんとの共演による,ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番でした。

客席は満席で,ステージ上にもどんどん補助席を作っていました。そのため,開演時間が遅れてしまい,これが後の公演にも影響していましたが,この柔軟で試行的な運用こそが今回のLFJKのいちばんの特徴でした。恐らく,東京のラ・フォル・ジュルネではできない運用だと思います。その後の公演では,この「ステージ席」は,ほぼ常設となっていました。

第1楽章最初のオーケストラだけによる序奏部は,まさに真剣勝負で,井上道義さん指揮による入魂の演奏でした。これに続いて,ケフェレックさんのピアノが満を持して入ってくるのですが,その暖色系の雰囲気と好対照を成していました。ケフェレックさんは,かなり以前から日本で大変人気のあるピアニストですが,”いかめしいベートーヴェン”という先入観から離れた,大変マイルドで親しみやすい音楽を聞かせてくれました。「日本人好み」という書き方は,あまりにも単純化した表現ですが,その理由が分かった気がしました。私自身,すっかりファンになってしまいました。

その一方,カデンツァでは,大輪ではないけれども可憐な花が次々開くような華やかさのある音楽を聞かせてくれました。OEKの演奏したこの曲の演奏では,今年CD発売予定のある,ブーニンさんのピアノ,ギュンター・ピヒラーさん指揮による”硬派”な演奏を思い出しますが,同じオーケストラとの共演でも,それとは全く違った音楽になっているのが面白いと思いました。

第2楽章もピリピリしたところのない,たっぷりした演奏でした。第3楽章は大変小粋でした。ピアノのメカニック的にはもっとバリバリと弾くことのできる奏者は大勢いると思いますが,ケフェレックさんの演奏から感じられる,何とも言えぬ親しみやすさや可愛らしさは,他の演奏者にはない個性です。幸福感に満ちたエンディングは,好天候に恵まれた「春の行楽シーズン」の音楽祭にぴったりでした。

ケフェレックさんの人間味をしっかりと感じることのできた公演でした。(2008/05/15)

コンサートホール
ワルトシュタイン


演奏後の光景です。ステージ上に補助席が出ていました。