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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【113】ロルフ・ベック/OEK シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭Cho他
2008/05/03 17:00- 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューベルト/ミサ曲第4番ハ長調,D.452
2)ベートーヴェン/合唱幻想曲ハ短調,op.80
●演奏
ロルフ・ベック指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング),シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団
ウルリケ・パイヤー(ピアノ*2),カタリーナ・ライヘ(ソプラノ),ヴィープケ・レームクール(メゾ・ソプラノ*1,アルト*2),ルチア・ドゥチョノーヴァ(メゾ・ソプラノ*2)シュテファン・ツェルク(テノール),ペーター・ポツェルト(テノール*2),有馬牧太郎(バス)
Review by 管理人hs    
再度,コンサート・ホールに戻り,今度は,ロルフ・ベックさん指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK),シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団(SHMF合唱団)の公演を聞きました。金沢と同じ時期に東京で行われている,ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンのテーマがシューベルトということもあり,この公演は,シューベルトとベートーヴェンの合唱曲の組み合わせという,”どちらにも対応可”という内容でした(実際,OEKとSHMF合唱団は,5月6日に東京でも公演を行いました)。

まず,最初にシューベルトのミサ曲第4番が演奏されました。実は,この公演を聞くために,邦楽ホールから走って駆けつけたので(比喩ではなく実際に走ってしまいました),ミサ曲の最初の音を聞いた時は,本当にほっとしました。

シューベルトの合唱曲を聞く機会は多くはないのですが,この第4番は,宗教的な気分よりは叙情性を感じさせてくれました。この親しみやすさはシューベルトならではです。それと,独唱曲が少なく,大半が合唱や重唱中心というのも特徴的でした。

OEKは第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置で(井上道義さん指揮の他の公演でもそうでした),SHMF合唱団は45名ぐらいの人数でしっかりとした声を聞かせてくれました。この合唱団のずっしりとした響きは,ロルフ・ベックさんの音楽性をそのまま反映して,いかにもドイツの曲という気分を伝えてくれます。地面から湧き上がってくるようなパワーを感じさせてくれました。

この曲ですが,コンパクトな構成ながら,キリエ,グローリア,クレド,サンクトゥス,ベネディクトゥス,アニュス・デイの6部構成になっており,しっかりとした聞き応えもありました。全体に穏やかな感じでしたが,クレドでの堂々とした歌,サンクトゥスでのデリケートな歌,オーボエ独奏が印象的だったベネディクトゥス,そして平和を祈る素朴な歌で終わるアニュス・デイなど変化に富んでいました。

この日のソリストは,SHMF合唱団の選抜メンバーだったと思うのですが,そのこともあり,重唱にしても合唱団とのバランスにしても,最適のバランスとなっていました。シューベルトのこの曲にはぴったりの歌唱でした。

後半は,ステージ上にピアノが加わり,独唱者がさらに2人加わり(やはりSHMF合唱団員の中から独唱者に変身していました),さらに祝祭的な雰囲気になりました。ベートーヴェンの合唱幻想曲は,”第9の4楽章にそっくり”ということで知られる曲です。独唱が6人も必要ということで演奏される機会の多くない曲ですが(OEKが演奏するのは,2回目だと思います),とても楽しめる作品です。

全体の構成は,1)ピアノ独奏,2)ピアノとオーケストラ,3)ピアノとオーケストラと独唱と合唱,という3部構成です。3段に積み重ねられた重箱を上から順に広げていくにつれて,料理が豪華になっていくような贅沢さがある曲です。

後世から見ると「第9を真似した」と言ってしまいたくなりますが,時間の流れからすると,「第9の方が真似をした」作品です。自分自身の作品の真似ですので,「習作」という言い方もできますが,ピアノとオーケストラと合唱が一体になった華やかさというのは,第9にはない魅力です。

前半は,思わせぶりなピアノのソロがかなり長く続きます。独奏はウルリケ・パイヤーさんという方が担当していましたが,非常にのびやかで明朗な音楽を聞かせてくれました。華麗でした。

その後,ホルンの力強い信号が入り,「第9風」のメロディが出てくるのですが,この部分では,OEKの管楽器のやり取りが見事でした。今回私は,3階席で聞いていたのですが,特に上石さんのフルートの音がしっかり響いていたのが印象的でした。この合唱幻想曲は,ピアノ協奏曲「皇帝」の少し後に書かれているのですが,独奏ピアノのキラキラとした華麗な音など,雰囲気が良く似ているなぁと感じました。この曲を一言でいうと,「第9」と「皇帝」をあわせた作品と言えそうです。

ここまでで十分に華麗だったのですが,最後に満を持したように合唱が加わり,これでもかこれでもかという,限界知らずの盛り上がりを聞かせてくれました。改めて曲のスケールの大きさとSHFM合唱団の実力を実感しました。20分ほどの曲でしたが,ピアノ・ソロ→協奏曲→全員揃っての合唱曲と「一粒で三度おいしい」カロリーの高い曲を一気に楽しみました。この公演と同じ内容が5月6日に東京公演でも行われたのですが,恐らく,金沢公演同様に大いに盛り上がったことでしょう。(2008/05/17)