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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【121】OEKメンバーによる室内楽
2008/05/03 13:00- 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)ベートーヴェン/2つのオブリガード眼鏡付きの二重奏曲変ホ長調,WoO.32
2)ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番ホ短調,op.59-2「ラズモフスキー第2番」
●演奏
松井直,竹中のりこ(ヴァイオリン*2),ドナタ・ベッキング(ヴィオラ*1),石黒靖典(ヴィオラ*2),ルドヴィート・カンタ(チェロ*1),大澤明(チェロ*2)
Review by 管理人hs    
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)の本公演1日目は,金沢市立工業高校による吹奏楽公演を途中まで聞いた後,邦楽ホールに移り,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽メンバーによる弦楽四重奏などの演奏を聴いて来ました。今回のLFJKの本公演では,交響曲が1曲しか演奏されなかった一方で,弦楽四重奏曲はOEKメンバーとイザイ弦楽四重奏団によってラズモフスキーのセット3曲をはじめ,5曲が演奏されました。この室内楽重視の傾向は,LFJKの特徴の一つだったと思います。

会場の邦楽ホールは,文字通り邦楽用のホールということで,残響は豊かではないのですが,今回,何回も何回も足を運んでみて,響きが以前よりも良くなった実感を持ちました。ステージの横幅が広く,どこからでもステージが見やすいのも長所です。器楽曲や室内楽曲用のホールとしては,申し分ないと思いました。

さて,最初に演奏された曲ですが,「2つのオブリガード眼鏡付きの二重奏曲」という不思議なタイトルの曲でした。眼鏡を使って演奏されるわけではなく,”極度の近視だった2人の奏者のための二重奏”というような意味で,意外にユーモア好きだった,ベートーヴェンのユーモア感覚を示す曲と言えます。

演奏される機会の非常に少ない曲ですが,その名のとおり,ヴィオラとチェロの二重奏で演奏される,リラックスした感じの曲でした。ヴィオラのドナタ・ベッキングさんの鋼のようにしっかりとした強い音とチェロのルドヴィート・カンタさんの包容力のある音の組み合わせが,勝気な娘と味のあるおじさんの対話という感じで面白いなぁと思いながら聞いていました。

後半は,「ラズモフスキー」弦楽四重奏曲の第2番でした。この曲を実演で聞くのは初めてのことでしたが,第1楽章冒頭から,全体に漂うほのぐらい気分が魅力的な作品でした。松井さん,竹中さん,石黒さん,大澤さんの4人組は,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲シリーズに取り組んでいるところですが,今回の演奏も大変誠実で聞き応えのある内容になっていました。特に第1ヴァイオリンの松井さんの演奏がとても叙情的で演奏を魅力あるものにしていたと思いました。

第2楽章は,淡々とした歩みの中に情が盛り上がってくるような気分があり,知と情のバランスの取れた演奏でした。第3楽章には,繊細さとせつない哀愁が漂っていました。最終楽章は,がっちりとした着実なリズムが基調になっていましたが,どこかギャロップするような弾むような雰囲気があり,聞いていて清々しさを感じました。コーダでは,テンポを一気に上げ,力強く終結しました。本公演の開幕に相応しい,わくわくさせるような気分と充実感を持った演奏でした。

LFJKの公演の長さは,1回45分ほどなのですが,ベートーヴェンの円熟期の室内楽は,充実した曲ばかりですので,これぐらいの長さで一区切りの方が聞きやすいと感じました。さらに,そのことによって料金も抑えられるということで,ルネ・マルタンさんの発想は,やはり鋭いと実感しました。(2008/05/10)

邦楽ホール
クロイツェル
邦楽ホールに向かう途中に撮影したものです。交流ホールでは,篠原悠那さんのヴァイオリンと松井晃子さんのピアノでヴァイオリンソナタを演奏していました。その後,先日の新人登竜門コンサートに登場した,徳永雄紀さんが登場したようです。

この写真のとおり,大変よくお客さんが入っていました。聞いてみたかったですねぇ。

邦楽ホール前ロビーでは,石川県筝曲連盟による筝合奏が行われていました。ベートーヴェンの曲を演奏していました(多分)


どこへ行っても音楽があふれ,人があふれていた音楽堂でした。