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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【122】ドミトリ・マフチン(Vn),ボリス・ベレゾフスキー(Pf)
2008/05/03 16:00- 石川県立音楽堂邦楽ホール
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調,op.24「春」
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調,op.30-2
●演奏
ドミトリ・マフチン(ヴァイオリン),ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)
Review by 管理人hs    
アンヌ・ケフェレックさんとOEKによる公演が終わった後,再度,邦楽ホールに向かい,ヴァイオリンのドミトリ・マフチンさんとピアノのボリス・ベレゾフスキーさんによる室内楽公演を聞きました。今回当たった席は,何と桟敷席でした。靴を脱ぎ,箱型に仕切られた座席に,よっこいしょと(声には出しませんでしたが)座って聞くことになりました。こういうのも中々できない体験です。

最初に演奏されたスプリング・ソナタですが,昨日,西澤和江さんと田島睦子さんのデュオで聞いたばかりの曲でした(しかも同じホール)。この聞き比べは大変面白いものでした。一言で言うとこの日のマフチン&ベレズフスキー組の演奏は,パワフル!でした。特にマフチンさんのヴァイオリンは,文字通り「バリバリと演奏する」という感じの演奏で,鋼のような音がストレートに聞こえてきました。ベレゾフスキーさんのピアノも磐石で,速いテンポで音楽が前へ前へと進んでいきました。

恐らくこちらの方が「世界標準の最先端」の演奏だと思います。前日の西澤&田島組とはは全く違うタイプの音楽となっていました。しかし,前日の「能」の気分にどちらが相応しいか?と考えてみると,やはり西澤さんの演奏の方がが合っていたのではないかと思いました。

第2楽章は,対照的に春霞の風情の漂う音楽でした。静かで深い音楽でした。第3楽章,非常にキレの良い演奏でした。ピアノ,ヴァイオリンともに,マイルドでありながらもきっちりと主張するような音楽となっていました。第4楽章は,第1楽章同様,シンプル&ストレートにパワーを発散する演奏でした。押せ押せムードの若々しい演奏でした。

後半で演奏された第7番は,曲名を見ただけではピンとこなかったのですが,音楽を聞いてみて,「あっこの曲か」と音楽が蘇って来ました。ベートーヴェンの”運命の調性”ハ短調で書かれた作品で,ある意味,ヴァイオリン・ソナタの中ではもっとも”ベートーヴェンらしい”と言えそうです。個人的には,マフチン&ベレゾフスキー組には,こちらの曲の方が合っていると思いました。

まず,ヴァイオリンの暗めの音が曲想にぴったりです。「春」の時にはそれほど感じなかったのですが,ベレゾフスキーさんのピアノのタッチにも凄いものがありました。硬質の迫力に満ちた筋肉質の演奏で,クライマックスの盛り上がりでの熱気も大変聞き応えがありました。「鉄は熱いうちに打て!(何だかよく分からない表現ですが)」という感じの演奏でした。

第2楽章も,大変聞き応えありました。太くたくましい雰囲気が聞きものでした。第3楽章の演奏も,生気に満ちた演奏となっていました。ピアノもヴァイオリンも大変ダイナミックなので,会場内の熱気がどんどん高まって行きました。この邦楽ホールは,コンサートホールよりも狭いだけあって,熱気が感染(?)しやすいホールだと実感しました。最後は,音自体の緊密度が非常に高い,第4楽章の演奏で力強く締めくくられました。

次の公演に備えて,そそくさと会場を後にせざるを得なかったのが申し訳なかったのですが,「さすが!」という内容の大変豪華な雰囲気のある室内楽を楽しむことができました。(2008/05/15)

邦楽ホール
クロイツェル
今回の座席は桟敷席でした。このように座席の前にスペースがあるので,落ち着ける場所でした。