OEKfan > 演奏会レビュー

LFJk2008レビュー・トップページ
ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【214】庄司紗矢香(Vn),井上道義/OEK
2008/05/04 20:15- 石川県立音楽堂コンサートホール
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.61
●演奏
庄司紗矢香(ヴァイオリン),井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)

Review by 管理人hs    
この公演は,ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)の中でも最も人気のある公演だったのではないかと思います。私は,「マルチパスさえあれば,どこかには絶対座れる」と確信していたので,「英雄」公演の後,整理券待ちの列にはつかず,別公演を聞いていたのですが,熱心な方(心配な方)は,一つの公演を飛ばして,列に並んでいた方もかなりいたようです。

整理券配布時刻が19:15からということで,私はトリオ・ヴァンダラーの室内楽を聞いた後,この整理券待ちの列に並びました。今回も恐ろしく長い列でしたが,私の読みどおり,問題なく入ることができました。

今回もまた,希望をすればステージ上で聞くこともできたのですが(手際の良いことに先ほどまではなかった「ステージ券」という券が発行されていたのには驚きました),今度は真正面から聞きたいと思い,3階席で聞きました(さすがに1,2階席は既に満席になっていましたが3階席の方はこの時点ではまだ余裕がありました。その後,見る見る席が埋まり,最終的には「英雄」公演と同じような状況になりました)。

この公演ですが,整理券待ちした人でも「長い時間待った甲斐があった。納得」というような見事な演奏でした。奏者の方もこれだけ大勢お客さんが入っていれば,いつもにはないパッションが湧き上がって来たに違いありません。この日の庄司さんの衣装は赤のドレスでしたが,集中力の高さと同時に秘めた情熱を感じさせてくれるものでした。

ホールの収容人数からすれば,東京国際フォーラムのAホールのような5000人入るホールもありますが,LFJKの方は,「密度の高さで勝負」といったところでしょうか。ラ・フォル・ジュルネという音楽祭自体,「ホールが密集したところで,スケジュールを密集させて行う」というのが基本コンセプトですので,今回の金沢版「熱狂の日」の密度の高さは,「コンセプトどおり=ルネ・マルタンさんも満足」だと思います。いかがでしょうか。

井上さん指揮OEKによるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ですが,昨年9月に別の独奏者で2回聞いていますが,やはり今回の庄司さんとの共演がすべての面でバランスの取れた名演だったと思います。

第1楽章の序奏部は,「英雄」同様に大変堂々としたものでした。この万全の演奏に続いて,庄司さんのソロが満を持して登場しました。3階席までしっかり通る艶のある音で,古典派音楽としての清潔感や優雅さと同時に芯の強さを感じさせてくれました。非常に気高い音楽を聞いたという実感を持ちました。技巧的に傷がなく,非常にすっきりと整った音楽なのですが,その中に大胆にして繊細なニュアンスがあり,一瞬にして全聴衆をひき付けるような魅力を持っていました。

ちなみに庄司さんのベートーヴェンの協奏曲と言えば,数年前,ロジャー・ノリントンさん指揮NHK交響楽団と共演した定期公演を思い出します。確か「N響アワー」恒例の「視聴者が選ぶ年間ベスト公演」の第1位に選ばれていたと思います。その時の演奏は,ノリントンさんの教えを請うような形で古楽奏法を取り入れていましたが,今回の演奏は特にそういう部分はありませんでした。

ただし,カデンツァは,第1楽章,第3楽章とも,定番のクライスラーのものではなく,独特のものでした。恐らく,庄司さん自身によるカデンツァだったのではないかと思います。重音が沢山出てきたり,アクティブな雰囲気のあるものでした。

第2楽章は非常に静かに演奏されました。静かになればなるほど奏者も聴衆も集中力が高まっていくような演奏でした。シーンと会場全体が聞き入っていました。第3楽章は,井上さんお得意のダンサブルな雰囲気になります。ファゴットやホルンといった各楽器との絡み合いも面白く,OEKとソリストとが一体となって喜びに満ちた演奏を聞かせてくれました。最後「ジャ,ジャン」と念を押すように力強く終わりますが,この部分に微妙なタメがあり,あっさり終わるのとは一味違った「うーん良かった」という満足感をしっかりと味わわせてくれました。

そして,この瞬間を待っていましたとばかりに盛大な拍手が続きました。少々,ブラボーがうるさ過ぎるぐらいでしたが,今回の演奏は,そして整理券待ちの列の長さは,この拍手のための長い長い前奏だったのでは,と思いました。今回の「金沢の熱狂」を象徴する公演だったと思います。(2008/05/06)

コンサートホール
ワルトシュタイン


整理券待ちの間,交流ホールでは愛工大名電高校吹奏楽部が楽しげな音楽を演奏していました。青い制服が鮮やかでした。


整理券をもらった後,入場しました。本当に毎回同じような列ができていました。

終演後です。