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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【224】トリオ・ヴァンダラー
2008/05/04 18:00- 石川県立音楽堂邦楽ホール
ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第5番ニ長調,op.70-1「幽霊」
シューベルト/ピアノ三重奏曲第2番変ホ長調,D.581
●演奏
トリオ・ヴァンダラー(ジャン=マルク・フィリップ=マルジャブディアン(ヴァイオリン),ラファエル・ピドゥ(チェロ),ヴァンサン・コック(ピアノ)
Review by 管理人hs    
「伝説の英雄」に続いて,邦楽ホールに向かい,トリオ・ヴァンダラーの公演を聞いてきました。この公演は,実は今回のラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)の中では例外的な公演でした。LFJKについては「演奏時間はすべて1時間以内,価格は...」というキャッチコピーをよく聞きましたが,この公演は1時間10分ぐらい掛かっていました。入場可能の年齢も6歳以上でした。そういう意味で大変聞き応えがあり,別の面から言うと「お得」な公演だったと言えます。

ただし,やはり,ちょっと重かったかもしれません。通常の公演だとこの2曲の間に休憩を入れるのが普通だと思うので,LFJKのリズムに慣れてきた人にとっては,かなり疲れたのではないかと思います。恐らく,この2曲だけで通常の公演ぐらいの「聞き応え」はあったと思います。演奏内容もそのとおりでした。

第1曲目の「幽霊」のタイトルどおり,照明が暗く落とされると,大人の音楽というムードになりました。しかし,曲の方は,「どこが幽霊?」という感じのものすごい剣幕で始まりました。トリオ・ヴァンダラーの演奏は,大変キレがよく,スピード感たっぷりの演奏でした。とてもクールな雰囲気があり,現代的な感覚に満ちていました。

第2楽章は,タイトルどおり「幽霊」の気分になります。静かな音楽なのですが,ここでも全体のムードはクールで硬質で,モチーフの機械的な繰り返しが大変不気味でした。第3楽章は,第1楽章同様,圧倒的な力感を持った演奏になりました。一丸になった迫力が大変聞き応えがありました。

後半は,シューベルトのピアノ三重奏曲第2番が演奏されました。この選曲は,東京で行われているラ・フォル・ジュルネと合わせてのものかもしれません。このトリオ・ヴァンダラーという名前自体,シューベルトの「さすらい人(Wanderer)」に由来していますので,このシューベルトの方は彼らの十八番と言えそうです。

このシューベルトですが,前半に増して聞き応えのある演奏でした。やはり,この公演については,休憩をはさんでじっくり聞いてみたかったなぁという気がしました。全曲で40分ぐらいはかかる大曲だったと思います。

第1楽章は脱力した感じの流れの良い3拍子で始まったのですが,パワーに満ちており,個人技の競演となりました。途中で「タンタタタタ」というセンチメンタルなメロディが出てくるのはいかにもシューベルト的です。ピアノのキラキラとした音がとても綺麗で繊細でした。コーダではベートーヴェン的なしつこさも出てきて,大変聞き応えがりました。

第2楽章は,「冬の旅」の第1曲の「おやすみ」と似た感じの淡々としたリズムの上に美しいメロディが出てきます。チェロのラファエル・ピドゥさんの音は惚れ惚れとするような音で無言歌をチェロ独奏で聞いているような雰囲気がありました。後半はそれがどんどんスケールアップしていました。

軽やかな舞曲風の第3楽章の後,一気に第4楽章も終わるのかと思ったのですが,この第4楽章がなかなかすごい楽章でした。親しみやすい軽快な雰囲気で始まるのですが,シューベルトらしくメロディがどんどん湧き出てきて,どんどんスケールアップしていきます。3人の演奏もがっちりと絡み合って,充実した音の競演となっていきました。

ただし,この辺で次の公演の庄司紗矢香さんの顔が浮かんでしまいました。「表ではきっと整理券待ちの列ができているだろう。入れるだろうか?」ということが頭をよぎった途端,曲がやたらと長く感じてしまいました。こうなってしまうと駄目ですね。前の方の楽章が再現してきたりすると,終わりそうな曲がいつまでも終わらない感じに思えてしまいした(演奏者の皆さん申し訳ありません)。最後は明るく転調して,終わったのですが,1時間10分ぐらいの時間を聞きとおしたこともあり,結構疲れてしまいました。

というわけで,シューベルトの三重奏曲第2番については,「一度,じっくりと聞き直さないといけない。シューベルトさんに申し訳ない」と思いました。しかし,そうは思いながらも,曲が終わった途端,席を立ち,コンサートホールに向かいました。この辺は,ラ・フォル・ジュルネの楽しさであると同時に,今回の問題点の一つかもしれません。

PS.待ち時間にトリオ・ヴァンダラーを日本語に訳したらどうなるか?などと考えてみたのですが,「旅姿三人男」などというのが思いつき,ベートーヴェンとは違う音楽が頭の中に鳴ってしまい困りました。(2008/05/17)