OEKfan > 演奏会レビュー

LFJk2008レビュー・トップページ
ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【312】小山実稚恵(Pf),井上道義指揮OEK
2008/05/05 13:45- 石川県立音楽堂コンサートホール
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調,op.73「皇帝」
●演奏
小山実稚恵(ピアノ),井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)

Review by 管理人hs    
当日券待ちの列と整理券待ち列など,音楽堂のロビーは大混雑でした。コンサートホールでの公演のたび,この光景が見られました。
この日は,ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)の最終日ということで,夜の公演日程がなく,少しは客足が減るかな?と予想していたのですが,そういうことは全くありませんでした。本公演3日間全く同じペースで人が集まっていたのが驚きでした。

今回のLFJKでは,すべての公演を自由席で聞くことができる「マルチパス」と4公演を選んで聞くことのできる「チケット4」という2種類のお得なチケット・セットを設けていたのですが,この効果が十分に発揮されたと言えます。これらのチケットの”お得感”を実感するために,「取りあえず沢山聞かないと...」という意識が行動となって強く働いたということになります。

東京のラ・フォル・ジュルネの場合,全席指定席だったと思いますが,金沢の場合は,この自由席の多さが,予想以上の熱狂につながった気がします。あまりにも整理券待ちの列が長く,改善の余地はあると思うのですが,最後の頃には,この列の長さにも捨てがたい魅力があると思うようになりました。これをどうするかが来年以降(きっと来年も開催されると信じているのですが)の課題でしょう。

さて,小山実稚恵さんのピアノと井上道義さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による,「皇帝」ですが,実質的にLFJKの締めの公演でした。コンサートホールでの交響曲と協奏曲の公演が音楽祭の”花形”だと思いますが,これが少なかった分(協奏曲の数はこれで十分だと思いますが,交響曲が「英雄」のみということで,非常に少なかったですね),希少価値が増し,お客さんが特に集中したような気もします。

LFJKの場合,地元の人たちにとっては,地元のサッカー・チームを応援するのと同じ感覚で,「やはりOEKがいちばん」という意識があるのです。ラ・フォル・ジュルネという定期公演とは別の地元主催の国際試合のようなフォーマットの中でOEKを聞いてみたい,という意識の強さが今回の熱狂を生んだいちばんの理由だったと思います。この点が,東京のラ・フォル・ジュルネとの根本的な違いです。「地元」にいくつのもオーケストラのある人口1千万人の東京では考えなれないことだと思います。地元に核となるオーケストラが1つだけある人口45万人の金沢だからこそできることです。もしかしたら,東京の人に「うらやましいだろう」と言える点なのかもしれません。

それにしてもこの公演にも大勢のお客さんが入りました。恒例の整理券待ちの列は音楽堂の長辺の長さを超え,Uターンしていましたので,どこが行列末尾なのか分からないような恐ろしい列になっていました。前日の「英雄」と「ヴァイオリン協奏曲」公演が限界かと思ったのですが,さらにそれを上回る人が来るとは...。

コンサートホールの通路にまで人が座り,バルコニー席の後ろで立っている人も何人もいました。もちろん,こちらもお馴染みとなったステージ席もありました。そういったことを含め,演奏開始前から(整理券待ちの列の時から含めて),異様な熱気に包まれた公演となりました。

この状況で,小山実稚恵さんは,王道を行くような立派な「皇帝」を聞かせてくれました。冒頭のカデンツァから,音のボリューム感も輝きも理想的で一気に聴衆を満足させてくれました。疲れを知らないOEKによる前へ前へと進む呈示部を聞きながら,「それにしても人が多い」とステージを見ているうちに「どこかで見たことのある風景だ」と感じました。今回のラ・フォル・ジュルネ金沢のポスターの絵と非常によく似ているのです。ポスターではベートーヴェンがピアノを弾いていますが,これを小山さんに換えれば取り囲んでいる雰囲気ほとんど(というのは大げさですが)同じです。ポスターと同じ光景が音楽祭の最後に現実となって出てくるとは,何とよく出来た結末なのだろうと感心し...感動しました。

第2楽章は,非常にゆったりとしたテンポで幻想的に演奏され,第3楽章は豪華な舞踏会を見るような優雅さとダイナミックさを兼ねた雰囲気に浸ることができましたが,私にとっては,何よりも,この演奏がポスターと同じだということを発見したことが嬉しくてたまりませんでした。

最後のティンパニが段々弱まっていく辺りでは,音楽祭が終わって欲しくないという気分ともシンクロしました。それをきっぱりと振り切り,力強く締めくくってくれました。LFJKを締めるのに相応しい演奏だったと思います。演奏後,井上道義さんから「本当にありがとう」と聴衆に対するあいさつがありました。 LFJKの首謀者である井上さんにとっても驚きの公演の連続だったと思います。

その後,いきなり「今日は5月5日です。5才の人はいるかな?」と会場に大勢来ていた子供たちにも語りかけていましたが,このサービス精神も素晴らしいと思いました(子供たちの方も,というか,会場全体もこれだけの人数の割に大変静かでした。これも素晴らしかったと思います)。今回のLFJKのことは,行列の記憶と満席に客席の記憶とともにずっと覚えていて欲しいものです。(2008/05/06)

コンサートホール
ワルトシュタイン
とにかく大勢の
人がいました


終演後のステージです。ピアノとオーケストラをお客さんが大勢取り囲んでいるのですが...

↓このポスターの実写版という感じでした。


下手側バルコニー席にも...


上手側バルコニー席にも,そして手前の人のように3階の通路にも,人が入っていました。