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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
【321】アンドレイ・コロベイニコフ
2008/05/05 10:30- 石川県立音楽堂邦楽ホール
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調,op.106「ハンマークラヴィーア」
(アンコール)1曲
●演奏
アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)
Review by 管理人hs    
邦楽ホールの方もステージにお客さんを入れていました。係員が,「ステージの上へもどうぞ!」とアナウンスした途端,ぞろぞろと人が集まり始め...あっという間に席が埋まりました。
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)のテーマであるベートーヴェンは,一般に「男性的な作曲家」と言われています。何が男性的か?ということは,特に現代社会では定義するのは難しいので,ほとんどこだわる意味はないのですが,ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」という曲については,その物理的な長さや誇大妄想的な気分からして,やはり体力のある男性ピアニストが弾くのに相応しい曲のような気がします。

ただし,ベートーヴェンのピアノ・ソナタの代表作と言われている割に,実演で演奏される機会も少ない曲です(特に金沢では本当に貴重な機会です)。それだけ演奏者にとっては難曲ということができます。LFJKという聞く方も弾くほうも,半分体力勝負のようなイベントの勢いにまかせて,朝10:30という,通常のリサイタルでは考えられないような時間からこの曲を聞いてきました。

今回,この曲を演奏したのは,アンドレイ・コレベイニコフというまだ22歳のロシアの若手ピアニストでした。上着なしの白いワイシャツ姿でステージに登場した雰囲気は,まだ初々しく,少々ぎこちない感じだったのですが(ちょっとロボットのような感じのお辞儀が初々しかった),いかにも体力がありそうな体格には,何かやってくれそうという迫力が漂っていました。そして,その期待どおり,この大曲を見事に聞かせてくれました。

何よりも良かったのは,力任せに弾くのではなく,全曲の構成感がしっかり感じられた点です。リーフレットには,ルネ・マルタンさんから「未来のキーシン」と見込まれていると書かれていますが,確かにそういう感じで,全体に伸びやかな感性が感じられました(キーシン自体,まだ十分若いピアニストですが,すでに大家と見なされているといえそうですね)。

第1楽章冒頭のファンファーレのような部分にしても,鍵盤を叩きつけるようなところはなく,無理なく曇りのない音を伸びやかに聞かせてくれました。曲が進むにつれて,演奏全体の輝きがどんどん増して行き,次第に巨大な音楽となっていくのも見事でした。呈示部の繰り返しも行っていたと思います。

ただし,前半の楽章では,時々,音楽の流れが不自然に感じられる部分がありました。第2楽章のスケルツォも少しまじめ過ぎる気がしました。

後半の2つの楽章については,演奏について語る前に「手に負えない曲だなぁ」と感じてしまいました。第3楽章は落ち着きのある安定した音楽が延々と続きます。宇宙の静けさと言っても良い,澄み切った哲学的な気分が漂っているのですが,非常に長く感じました。技巧的にはそれほど難しい楽章ではないと思いますが,これだけ延々と続く音楽の緊張感を持続させるには,体力以上に精神面のエネルギーが必要なのではないかと感じました。

そして,その長さが限界に達したようなところで,急に動きが出始め,非常に複雑で厳格な感じのフーガになります。こちらも非常に長く,延々と複雑な動きが続きます。この静から動への,いきなりの変化もついて行くのを難しくしている点です。これは演奏のせいなのか,曲自体のせいなのかは分かりません。凄い音楽であるという雰囲気は伝わってくるのですが,どこか巨大過ぎて把握仕切れない音楽と感じてしまいました。

40分を超える全曲中でいちばん強烈な音を曲の最後の最後部分で,しっかりと聞かせてくれ,「納得」と感じましたが,同時に「やはり難曲だ」と感じた演奏でした。

なお,演奏後アンコールが(多分1曲)演奏されたようですが,私の方は次のアブデル・ラーマン・エル=バシャさんの公演の整理券をゲットするために退出しました。「ハンマークラヴィーア」以外の曲で,どういう演奏を聞かせてくれるのか関心があったので,少々残念でした。が,「ラ・フォル・ジュルネ」の常連であるコロベイニコフさんについては,これからもきっと実演を聞く機会が出てくるでしょう。ロシアのピアノ曲などを是非聞いてみたいものです。
(2008/05/08)


邦楽ホール
クロイツェル

開演前,邦楽ホールロビーで,多治見少年少女合唱団の皆さんが歌とパフォーマンスを行っていました。ものすごく良い決めのポーズを撮影してしまいました。


公演後,うまい具合にコロベイニコフさんのサイン会に参加できたので,サインを頂いてきました。




ちなみに5月5日の午前中のスケジュールは次のとおり物すごい分刻みスケジュールになりました。
  • 10:00 コロベイニコフ整理券ゲット
  • 10:30 コロベイニコフ公演開始
  • 11:30 エル=バシャ整理券待ち
  • 11:35 愛知工大名電@コンサートホール
  • 12:00 コロベイニコフ サイン会
  • 12:30 エル=バシャ公演開始