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ラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭2008:ベートーヴェンと仲間たち
クロージング公演
2008/05/05 15:30- 石川県立音楽堂交流ホール
シューベルト/序曲ニ長調D.590「イタリア風」
シューベルト/序曲ハ長調op.170,D.591「イタリア風」
シューベルト/交響曲第6番ハ長調,D.589
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)
Review by 管理人hs    
交流ホールのステージに登場したOEKメンバー。私の席からは(前過ぎて)全体が見渡せず,モニターで見ていました。
コンサート・ホールでの小山実稚恵さんとの公演の後,井上道義さんが,「何と,今からオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,東京に向かい,明日の朝9:15(!)から東京のラ・フォル・ジュルネで公演を行います。」というスピーチがありました(会場からはどよめき)。そのゲネプロ(総リハーサル)とラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)全体のクロージング公演を兼ねるような形で,東京公演で演奏されるシューベルトの作品3曲が,交流ホールで行われました。

「皇帝」が終わったのが14:45頃だったと思うのですが,このクロージング公演は,無料だったこともあり,多くのお客さんがコンサートホールから交流ホールに垂直に下りてきました。恐らく,こちらの方も交流ホール始まって以来の入場者数だったと思います。LFJK期間中,このホールは「フィデリオ」という愛称で地元の音楽家たちを中心に様々なスタイルの音楽を聞かせてくれていましたが,最後の最後に「地元代表」のOEK全体が登場するというのも良い演出でした。

何よりもラ・フォル・ジュルネを象徴する八角形の赤いステージ上にOEKが乗るという姿自体が絵になります。OEKが室内オーケストラだからこそ実現できることです。また,OEK全体が交流ホールで演奏すること自体初めてのケースだと思います。これもまた「熱狂」ならではの特別企画と言えます。

そんなこんながあり,お客さんが続々と交流ホールに入り始め(「皇帝」の後,邦楽ホールでの室内楽公演にも行ってみたい気もあったのですが,やめておきました),どんどん人が溢れてきました。交流ホールの壁面は可動式なのですが,それがどんどん取り外され,補助椅子も出されましたが,座り切れないので私も含め多くの人が立ち見のままでした。

演奏開始まで30分以上もあったのですが,結局ずっとこういう状態で待っていることになりました。長い整理券待ちの列ですっかり待つことに慣れた(?)お客さんには,感心すると同時に,「暇な人が多いねぇ(自分も含め)」と思いました。この待ち時間の間,意外に面白かったのは,交流ホールの壁面についている大型のモニター画面です。もともとはステージ上の演奏者の姿を拡大して映すための装置なのですが,この時間を利用して,お客さんの姿が次々とアングルを変えて映されていました。

まさに老若男女の姿が映っていました。家族で来ている人,子供を肩車している人,年配の方...この光景は,LFJKのアーティスティック・マネージャーであるルネ・マルタンさんにも見てもらいたかったと思います。これもまた,LFJKのポスターの光景と似ているのです。皆さん良い表情をしていました。この「大型モニター付き常設のホールは使える」と実感しました

この思わぬ「楽しい時間調整」の後,いよいよOEKのメンバーがステージに登場してきました。大相撲の中入り後の土俵入りを見るような感じでもありましたが,赤じゅうたんの豪華さもあり,「晴れ舞台」という感じになっていました。この赤いステージも,LFJKに欠かせない装置ですね。

演奏された曲については特にアナウンスはなかったのですが,シューベルトのイタリア風の序曲2つと交響曲第6番でした。通常,こういう場では,もう少し有名な小品集あたりを演奏することが多いのですが,その辺の妥協がないのもLFKJならではです(明日までに残された時間から考えて,シューベルトの演奏しかありえなかったのかもしれません)。

演奏の方はさすがに音が近すぎて,きれいな響きを楽しむという感じにはなりませんでしたが,オーケストラとファンとが一体になったような感覚を味わうことができました。そもそも,ステージ自体,ファンに取り囲まれるという形になっていますので,当然のことです。OEKの団員の皆さんはお疲れだったと思いますが,このステージを取り囲む光景には感激したのではないかと思います。どの高校でも,高校総体の前などに体育館に選手を集め,壮行会を行うようなことがありますが,そういう雰囲気にも似ていると思いました。

演奏後,つまりラ・フォル・ジュルネ金沢のすべての公演が終わった後,OEK団員が全員退場するまで拍手が続き,井上さんが最後にお礼を言いました。それでも拍手が続き,井上さんが呼び出されました。もうやることのない井上さんは,クルリとバレエのピルエットを一回転してくれました。この姿も感動的でした。井上さんは本当に感謝していたのだと思います。ただし,ファンの方からすれば,「やっぱり井上さんが見たい,井上さんなら何かやってくれそう」と思って来ているのです。このことが井上さんへの盛大な拍手に現れていたと思います。

今回のLFJKですが,このステージに象徴されるように井上さんとOEKファンとの距離をの結束を高める機会になったと思いました。OEKと言えば,今でも「今は亡き,岩城宏之さんが作ったオーケストラ」と説明するのが分かりやすいし,そう言われることが多いのですが(これは間違いではありません),これからは「井上道義さんと一緒にLFJKで演奏したあのオーケストラ」と呼ばれることも増えると思います。これが今回のLFJKの残した最大の効果だったと思います。

LFJKについては,ある程度,盛り上がるとは予想していましたが,これだけ目に見える形でOEKファンが現れたのは初めてのことだと思います。いつの間に?もしかしたらこの熱狂の期間の間だけのことだったのかもしれません。ラ・フォル・ジュルネ・ブランドのすごさを実感した1週間でした。

OEKにはこのチャンスを是非今後に生かし,LFJKで現れたファンを定着させて欲しいと思います。例えば,今回のLFJKの写真を音楽堂に常設展示して欲しいぐらいです。特に今回の赤い八角ステージでのファンに囲まれるOEKの写真は非常に良い写真になっていると思います。というわけで,OEKにとっても石川県,金沢市にとっても大変意義の大きい1週間だったと思います。

後片付け写真集
LFJKの期間中,絶好の好天続きだった金沢ですが,公演が終了したとたんものすごい雨になりました。実は,この「好天」というのがLFJK成功の最大の貢献者だったのかもしれません。家人に迎えに来てもらう間に(自転車で来ていたのです),後片付けの風景をあれこれ撮ってみました。
ポスターの横にも水滴が 音楽堂の山腰館長自らポスターを取り分けていました。私も1枚頂きました。その他,期間中のスナップ写真も「ご自由にどうぞ」という感じで配っていました。 関連グッズもよく売れていたようです。ラ・フォル・ジュルネの経済効果というのもそのうち,試算されるかもしれないですね。
地下のプレスルームでは井上さんの記者会見をしていました。 先ほどまでの騒ぎが嘘のようです。既にステージの撤収が始まっていました。 井上さんが帰られるところです。東京へは飛行機で行くのでしょうか?
こんな感じで,音楽堂内にLFJKのパネルがあると良いと思います。 5月3日に買ったのですが,慌しくて2日間食べ損なっていたLFJK特製(ANAホテル)のパンです。何も入っていないタダのパンです。5月6日の朝に焼いて食べました。 山腰館長から頂いたポスターを自宅の壁に掲示。しばらくは余韻に浸りたいと思います。
(2008/05/06)

交流ホール フィデリオ
予想以上の盛り上がり

上から見たところ。この後,どんどんお客さんが増えました。


交流ホールに下りてみました。


大型モニターです。


そのうちに会場の映像に切り替わりました。


コントラバスの近くで見ていました。


次々と映し出される顔,顔,顔。これだけで30分も持ちました。


OEK団員が入ってきました。