OEKfan > 演奏会レビュー
金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第69回定期演奏会
2009/01/17 金沢歌劇座
サン=サーンス/歌劇「サムソンとデリラ」〜「バッカナール」
ハチャトゥリアン/組曲「仮面舞踏会」
ブルックナー/交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
●演奏
齊藤一郎指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は現在,アリス=紗良・オットさんと共に国内演奏旅行中ですが,その留守を守るかのように金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会が金沢歌劇座で行われたので聞いてきました。今回のプログラムのメインは何といってもブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」なのですが,それ以外にもサン=サーンスの歌劇「サムソンとデリラ」のバッカナールとハチャトゥリアンの組曲「仮面舞踏会」という大編成の曲が演奏されましたので,ボリュームたっぷりの内容でした。

今回の指揮は,数年前にも一度,金沢大学フィルの定期演奏会に登場したことのある,齊藤一郎さんでした。その時にも感じたのですが,齊藤さんの指揮は,大変明確で自信に満ちていました。齊藤さんといえば,大ヒットCD「ブラバン甲子園」シリーズの指揮者としても有名ですが,見るからに体育会系の雰囲気があり,学生たちにとっては,「頼りになる兄貴」といったところがあるのではないかと思います。どの曲も,聞かせどころで,グイっと力を込めるようなメリハリの付け方が素晴らしく,学生オーケストラらしい若々しさを見事に引き出していました。

前半最初に,サン=サーンスのバッカナールが演奏されました。3管編成でパーカッションも盛大に入る曲ですので,まさにグランド・オペラという感じの編成になっていました。冒頭まず,オーボエのソロで始まるのですが,指揮者の斎藤さんもこの部分は奏者に一任している感じでした。この部分を含め前半は非常にゆったりとしたテンポ設定でした。オーケストラの音には,もう少し,しなやかさも欲しい気はしましたが,齊藤さんの作る,構えの大きな音楽は,力感に満ちていました。特に後半の音の爆発は見せ場の連続でした。齊藤さんが,ぐっと睨む(?)とそれに反応して,金管楽器などがうわっと盛り上がっていましたが,そのメリハリの付け方も見事でした。

2曲目の「仮面舞踏会」ですが,最近では「浅田真央の曲」のようになっています。最初の「ワルツ」を聞いて,「おや?あれか」と思った方も多かったと思います。非常にタイムリーな選曲だったと思うのですが,プログラムでは,全く触れていませんでした。この辺は,一言ぐらい書いてあっても良かったかもしれません。

このワルツですが,拍手が完全に終わり切らないうちに勢い良く始まりました。浅田さんが使っている演奏よりかなり速いテンポで,優雅さよりはスマートさを感じました。冒頭からオーケストラ全体の音がとてもよくまとまっており,聞き応えたっぷりでした。この曲については,どこか”ロシア帝国の落日”といった爛熟した雰囲気があるので,そういう先入観を持ってしまうのですが,金大フィルの力感に満ちた若々しい演奏も魅力的でした。

その他の4曲についても,やはり早目のテンポの曲での生き生きとした表現が特に印象的でした。3曲目のマズルカ,5曲目のギャロップともに硬質で引き締まった感じがありました。ギャロップには,ショスタコーヴィチの曲に出てくるような独特の疾走感があり,大変爽快でした。木管楽器を中心としたユーモラスな音の動きも印象的でした。

2曲目のノクターンと4曲目のロマンスは,それぞれ,前後の曲と対照的に,しっとりとした演奏を聞かせてくれましたが,少々停滞した感じに聞こえました。ノクターンでは,コンサート・ミストレスのソロが大活躍していました。とても丁寧な演奏で立派でした。

メインの「ロマンティック」も堂々たる演奏でした。全曲を通じてのテンポ設定も私の感覚にぴったりでした。何よりも齊藤さんの指揮ぶりに余裕があり,スケールの大きさを感じました。要所になるとギュッと引き締めるようなメリハリが効いていました。

そして,この曲については,何といってもホルンです。冒頭のソロを含め,各楽章に,これでもかこれでもかと見せ場,難所が続きます。かなり危ない部分はあったのですが,大変よく頑張っていたと思います。

冒頭の全弦楽器によるトレモロも聞きものでした。金沢では中々,ブルックナーの交響曲を生で聞く機会がないので,久しぶりにこのトレモロを聞いて,ゾクゾクしました。その後に続く,3連符を含むトゥッティのサウンドもお見事でした。そこまでの緊張感を一気に吹き飛ばすような,ためらいのない爽快感がありました。全く小細工するところのない演奏で,楽譜に書いてある音符をそのまま素直に音として表現したような演奏でした。ブルックナーについては,こういうアプローチがいちばん良いと感じました。途中に出てくる,金管楽器のコラールも堂々としており,大変明快な演奏になっていたと思います。

第2楽章は,静かな楽章ということで,音程の甘さが目立つ部分もありましたが,楽章を通じて,落ち着いた演奏を聞かせてくれました。ここでも,コーダ付近の盛り上がりが聞ごたえたっぷりでした。最後の部分で,一瞬ひやりとする部分がありましたが,「よく頑張ったなぁ」と心の中で応援しながら聞いてしまいました。

第3楽章は,「狩のスケルツォ」ということで,ここでもホルンが大活躍しますが,トランペットの輝きのある音も印象的でした。ただし,丁度いちばん疲労が出てきそうな楽章ということで,全体的にちょっと散漫かなという気もしました。

第4楽章は,冒頭の低音のビートからして,大変しっかりしており,最後の力を振り絞るような盛り上がりを感じました。要所で出てくる金管のコラールの気合いであるとか,しつこく出てくる弦楽器の連符の渾身の演奏であるとか,聞くだけでなく,見ていて心を打つ演奏でした。この楽章までも,随所でオーケストラ全体を鼓舞するような音を聞かせていたティンパニの音もさらにテンションが高くなっていました。

コーダの最後の部分で,第1楽章の冒頭ではホルンのソロで出てきた音形が,合奏になって力強く再現してくるのですが,この部分も感動的でした。何とマーラーの交響曲などであるように,「ホルン・パート全員起立」で演奏していました。見ていて,大変気持ちよい光景でした。

部分的には傷もあったと思いますが,1時間以上の長丁場を見事に完走ならぬ完奏したことについて,大きな拍手を送りたいと思います。上述のとおり,どの楽章もトゥッティの部分の響きのまとまりの良さが見事で,「まとまるとすごいんだ」という,オーケストラ音楽の醍醐味をしっかり味わわせてくれました。

私自身,OEKだけでなく,地元のアマチュアのオーケストラの演奏を,半分楽しみながら,半分応援しながら聞くのが大好きなのですが,今回のプログラムは,大変応援のしがいのある曲ばかりでした。特にブルックナーでのホルンパートの皆さんには,「お疲れさまでした」と言いたいと思います。金沢大学フィルは,数年前にブルックナーの交響曲第6番を演奏したこともありますが,これからもOEKのレパートリーになっていない大編成の曲などに挑戦していって欲しいと思います。

PS.ハチャトゥリアンの「ワルツ」を聞きながら考えたのですが,今月末のキタエンコさん指揮のOEKの定期公演のアンコールとしてぴったりだと思いました。今回の編成を観ていると,OEKの基本編成にトロンボーン3,テューバ,ホルン2を加えれば演奏できる曲だと分かりました。シェラザード用にエキストラが入っているはずなので,丁度良いのではないかと思います。これが実現すれば,スペイン奇想曲(中野さん),シェエラザード(安藤さん),仮面舞踏会(浅田さん)とフィギュアスケート用に使われた音楽が勢ぞろいすることになります。
(2009/01/18)

歌劇座と21世紀美術館
演奏会が始まるまで時間があったので,近くにある金沢21世紀美術館に寄ってきました。



杉本博司「歴史の歴史」という展覧会をやっていました。杉本さんの”かなり変わった”コレクションを楽しめます。


金沢歌劇座の外観です。この日は18:00開演という珍しい開演時間でした。


演奏会の立て看板です。


演奏会のパンフレットとチケットの半券です。